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第361回   イージェンと惑乱の地上(中)(2)

 下層地区の第五階層に降りたワァカァ組織『スウソル』のデュインは、組織員たちを集めて、事情を説明した。知らされた組織員たちは意味がわからずにきょとんとしていたが、その中で目端が利くものを選んで小箱を与え、ワァアクさせることにした。

デュインは、使い方などの説明をピラトたちに任せ、居住区の最下層まで降りた。有線箱で連絡をしてあったので、サンディラの子どもたちのザフィアとアーシィは管理区側道内の『アジト』にやってきていた。

「かあちゃん、すげぇな、ほんとに中央塔にいるんだ」

 長男のアーシィは十七歳で運転士の訓練棟に通っている。長女のザフィアは二十歳で農業プラントの作業員だ。ふたりともサンディラのほんとうの子どもではない。十年前のプラント事故で死んでしまった作業員仲間の遺児たちだった。ひとり生き残ったサンディラが手元に引き取って育てているのだ。

「おまえたちふたりに来いってさ」

 小箱のひとつを差し出した。小箱が震えたら、開くと音声か電文かの表示が出ているので、通話もしくは開封の釦を押すと、通話のときは横から紐を出して耳に入れる。電文のときは読んで、返信すると釦の説明をした。

「うーん、わかんねぇな」

 アーシィが首を傾げると、ザフィアが寄こしてと代わりに釦を確認した。

「今日はお休みするって訓練棟に連絡いれておかないと」

 ザフィアがアーシィに有線箱を指差した。プラントは全て操業停止だが、訓練棟は通常通り訓練課程を行っていた。アーシィがめんどくせぇなぁとぼやきながら、有線箱で訓練棟の職員室に掛け、釦操作で認識番号と欠席届を入力すると、訓練棟中央管理室で自動受領された。

「あんま、さぼってなくてよかった」

 出席日数が足りないと、欠席届が受領されない場合があるからだ。

「俺も後から行くって、サンディラに言っておいてくれ」

 デュインに言われてザフィアがうなずき、アーシィと荷物用のエレベェエタァに載って上っていった。

 ふたりはパァゲェトゥリィの臨時アジトでルサリィと会った。ふたりで来るようにと言われていたので、置いていこうとすると、ルサリィがぐずぐず泣き出した。

「かあちゃんとこ、おれもいきたい」

 連れてってやれよと仲間に言われて、そうしようかとアーシィがルサリィの手を握った。

幹道をまっすぐに進めば中央塔だと車庫にあった屋根なしのモゥビィルに乗った。アーシィが運転席に座ったので、ザフィアが眉を寄せた。

「あんた、まだ合格してないじゃん。大丈夫?」

 訓練棟で運転技術を訓練している最中なのだ。

「実車で訓練してるからへいきへいき」

 他のモゥビィル走ってないみたいだしと動かし出した。けっこうな速度で隧道(トンネル)を抜けた。薄暗いのであまりよく見えなかったが、これが上層地区かと見回した。正面に高い尖塔のような建物があり、中央塔だとわかった。ところが、アーシィが急に門を曲がって、脇道に入った。

「ちょっと!どこいくのよ、まっすぐ走ってよ!」

 まっすぐ先に見えていたのだ。アーシィがだってさとうれしそうに運転輪を回した。

「せっかく上層地区に入れたんだぜ、いろいろ見てさ、仲間に自慢したい」

 どうせろくでもない仲間のくせにとザフィアが呆れた。

「よく見えないよっ、つまんないよ」

 ルサリィが回りを見回していたが、薄暗くてよくわからないので、文句を言った。

 しばらく走ったが、よく見えないし、まったくヒト気がないので、かえって気味悪くなってきた。

「戻ろっか」

 アーシィが道を曲がって中央塔が見えそうな道に出ようとした。そのとき、右手から光がパアッと当たった。

「わあっ!」

 アーシィがあわてて制動をかけ、激しく前のめりになって止まった。

「おいっ!そこの!」

 動くなと怒鳴られて、驚いてあわてて発車させようとしたが、たちまち黒いつなぎ服を着た警備班の連中に囲まれてしまった。長身オゥトマチクを向けられた。

「モゥビィルから降りろ!」

 恐ろしくて動けないでいると、むりやり引き摺り下ろされた。引っ張られてルサリィが、火が点いたように泣き出した。

「かあちゃぁん、助けてぇ!」

 警護班のひとりが、オゥトマチクで殴ろうとした。アーシィがルサリィの上に覆いかぶさった。

「よせよっ!」

 ガシッとアーシィの頭に当たり、血が滲んできた。

「アーシィ!」

 別の警護班員に背後から抑えられてしまったザフィアがもがいたが、びくともしない。

「この女、小箱を持ってます!」

 どう見ても、この三人はワァカァだった。ワァカァが小箱を持っているなどほとんどない。誰かから奪ったのかと見てみた。

「妙な小箱だ。このマァアクはなんだ?」

 箱に番号と色のマァアクが貼られている。なんで小箱を持っているのかと問い詰められたが黙っていた。警護班のひとりが二輪モゥビィルに乗って、どこかに走っていった。その間に三人に手錠を掛けた。

「いたいよぉぅ!」

 ルサリィがずっと泣き続けているので、ガンガン殴られていた。

「やめろ!」

 アーシィが止めさせようとして、オゥトマチクの台座で腹を突かれ、額を殴られて、膝を折った。

 ほどなく何台か屋根なしモゥビィルがやってきて、何人も降りて来た。

「主任、こいつらです」

 主任と言われた男は、六十すぎの老人だったが、目が鋭く、怖い顔をしていた。どこかで見たかもとザフィアが緊張した。

「おい、おまえたち、この小箱をどうやって手に入れた」

 答えないとただではすまないぞと脅してきた。ザフィアが思い出した。最高評議会副議長クィスティンだ。

「おじさんにもらったんだよ、これで中央塔にいるかあさんのところにいけって」

 クィスティンがザフィアの肩口を見た。ワァカァのつなぎ服には氏名、認識番号、居住階層が書かれている。

「ザフィア、アジィン居住か」

 アジィンはワァカァ居住区の最下層にあたる。ワァカァの中でも数値が低くて単純なワァアクにしか付けない連中の居住区だった。

「主任、やはり、中央塔は占拠されたようですね」

「おそらく」

 小箱を開くと登録されている連絡先が中央塔管制室とサンクレセドゥとなっていた。サンクレセドゥとは小箱に付けられたマァアクの番号だ。この小箱はサンクセェエズだった。外の空中線は使えないはずだが、もしかしたら、この小箱からの通信は通るようになっているのかもしれなかった。

 クィスティンがザフィアの手錠を外すよう指示し、音声開放にした小箱を差し出した。

「これでそのかあさんに連絡しろ」

 ザフィアが戸惑っていたが、後ろからオゥトマチクの銃口で突付かれ、受け取って、音声通信の釦を押した。

 すぐに繋がった。

『サンディラだよ』

応えたのはサンディラだった。

「かあさん……?」

『ザフィアかい? どうしたんだい』

 そろそろ着くんだろと言われ、どう応えたらよいかと思っていると、クィスティンが小箱を奪い取った。

「サンディラとやら、余計なことは言わずに黙って聞け」

 えっと息を飲んだ音がした。

「わたしは最高評議会副議長クィスティンだ。ここにおまえの子どもたち三人、保護している」

 子どもたちを死なせたくなかったら、詳しい話のできる状況で、再度連絡してこいと言って切断した。

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