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第353回   セレンと南海の魔獣《マギィクエェト》(下)(1)

 一方、極南のキャピタアルでは…。

 ヒィイスとバイアスのふたりは、キャピタァル上層地区の中央塔の地下車庫から大型の輸送車でパァゲトゥリィに向かった。地下道はわずかな非常灯のみだったが、車体トォオチで走行には支障なかった。

「おっかさんって、どんなヒトなんだ?」

 バイアスが尋ねると、ヒィイスもよくは知らないようだった。

「三十半ばで、なかなか色っぽい身体らしい」

 にやにやと笑っているヒィイスに、そういう意味じゃなくてとバイアスが呆れた。

「俺も噂で聞いただけだからな。とにかく、インクワイァを憎んでるってさ」

 地下道の終点から管理区に入り、パァゲトゥリィに到着した。

 リィイヴは、サンディラという名で検索し、おおまかな年齢と作業員部門で絞り込んで、特定した。マァカァを検索すると港口付近にいたので、有線箱で呼び出した。かなり驚いていたが、ヒィイスから話が聞きたいというので、港口で落ち合うことにした。

 パァゲトゥリィのある区域は停電したままだった。

輸送モゥビィルを降り、さっき港口から来る時に使った側道の出入口から入った。いきなり、光を顔に当てられた。

「わっ!なんだっ!?」

 ヒィイスが思わず腕で顔を覆った。作業用の移動式トォオチのようだった。

「どっちがヒィイスだい」

 とげとげしい女の声がした。サンディラだろう。ヒィイスが返事した。

「俺だ、トォオチを当てないでくれよ」

 だが、トォオチを当てながら、何人かが近づいた。

「まずオゥトマチクを寄こしな」

 話はそれからだと否応もなく、ふたりから長身オゥトマチクを取り上げた。やっとトォオチの光度を下げた。眼がチカチカしてまともに見えない。

「ほんとなんだろうね、中枢を乗っ取ったって」

 ヒィイスがああとうなずいた。

「冗談で言えるようなことじゃねぇだろ?」

 それもそうだとサンディラの横の男が同意した。

「いったい、どうしよってんだい」

 地上から『魔導師』がアンフェエルに送られたカトルという違反者を助けにきて、大暴れしたら、中枢主任の頭ん中が切れて、停電してしまい、リィイヴという男が代わりに主任になったと答えた。

 さっぱりわかんないよとサンディラが苛立った。

「とにかく、停電しちまって、動かないプラントとか施設があるから、電源の再投入とか設備管理を手伝ってほしいんだと」

 下層地区から復旧させていることを話した。

「そのリィイヴってやつは、インクワイァだろ?」

 インクワイァだったが、事故だかなんだかで数値が落ちてワァカァになったらしいと説明した。

「確かに下層地区の生命線は復旧したって、さっき確認したけどね」

 手伝うかどうかは、そいつに会ってからだよと睨みつけてきた。

「そう言うだろうから、中央塔に連れてきてくれって言われてる」

 組織員と思われるものたちが、およそ二、三十人は寄って来ていると思われたが、その連中がどよめいた。

「中央塔って、マジか?」「上層地区に入れるのか、俺たちが」「まさか、ありえねぇよ!」

 わあわあと勝手にわめきだしたのでサンディラが怒鳴った。

「うるさいっ!黙んな!」

 水を打ったようにしんとなった。ヒィイスが代表として五人まで連れて行けると提示した。

「わかった、あとふたり、『下』から呼ぶから、ちょっと待ってな」

 サンディラが有線箱に向かった。ヒィイスの腰の辺りに誰かがぶつかった。

「わあっ」

 十二、三歳くらいの子どもがこけて倒れた。

「おっと」

 ひょいと抱え上げると、じたばたと暴れたので、床に降ろした。

「トリ、どこ? サカナみたいなトリ」

 はあ?とヒィイスが首をかしげたが、すぐに気づいた。

「あの坊主か、外にいっちまったよ」

 いないのと寂しそうにしていた。サンディラが戻ってきて、一ウゥルくらいかかると言ってきた。

「十二階層で変電所が火災を起こしたって。デュイン、その消火に当ってるから、別のやつと交代して来るってさ」

 もうひとりは共同棟の階層にいたらしく、ほどなくやってきた。

「主任やフェロゥ(研究員)たちが、小箱が使えないってあわててた」

 停電後一時復旧したときに、電文が来て、警戒レェベェル5発令、共同棟のインクワイァは各担当の詰所で待機、ワァカァ作業員は、下層地区に戻るようにと指示されたのだ。

「作業員はあと二ウゥルで自宅に戻れる」

 エレベェエタァや軌条モゥビィルは復旧しているし、食料配給所も問題なかった。育成棟や訓練棟に通っている子どもたちも今日はみんな自宅に帰されたが、明日には通常どおりに通棟できそうだった。

 ヒィイスがあと一ウゥル後に戻ると小箱で電文を送った。サンディラがヒィイスを蹴った。

「いってぇっ! なにすんだよ!」

 サンディラがぐいっと小箱を持った手首を握った。

「おまえ、こんなもん、欲しくて、アンフェエルの担当官になったんだって? ほんとなら、死ぬほど殴ってやりたいところだよっ!」

 どうやら、アンフェエル作業場はワァカァの処刑場として悪名高いので、ヒィイスのことは知られていたようだった。インクワイァの手下に成り下がってと手首を捻った。

「うわっ、いてっ、やめろっ!」

 やっとサンディラが手を離した。

「手下に成り下がってって、みんな一緒じゃねぇか」

 ワァカァはみんなインクワィアの下でワァアクするのだ。ヒィイスが手を振りながら言いがかりだと呆れた。

 ようやくデュインという男がやってきた。年は六十くらいで、がっしりとした体格、溶接工員か鉄鋼プラント工員らしく肌が赤黒くツヤツヤと焼けていた。

「火災はなんとか消火できそうだ。配電盤が発火したんだが、他の階層でも火事になってる」

 配電盤を取り替えないといけないと拳で鼻の下を擦った。

「あの光の粉みたいなやつのせいじゃないか」

 光の粉は、十三階層から上下に広がっていたが、今は収まっているようだった。

「じゃあ、いくか」

 ヒィイスがオゥトマチクを返してくれと手を出した。だが、サンディラが首を振った。

「だめだよ」

 ヒィイスから奪ったオゥトマチクを受け取り、銃口でヒィイスの横腹を突付いた。

「わあっ、撃たないでくれよっ」

 ヒィイスが縮み上がった。

 乗ってきた搬送車で地下道を使って中央塔に向かった。荷物などの搬送口から搬送用エレベェエタァで一度一階に上り、表に出た。非常灯だけで、ほかは暗く、誰もいなかった。

「これが、中央塔かい」

 サンディラがぐるっと見回した。一基動いているエレベェエタァが、二十階で停まっていた。呼び釦を押すと、しばらくして下がってきた。誰か乗っている可能性があるので、扉の両脇に分かれて、うかがうようにした。一階で停まり、扉が開いた。

「ヒィイス、俺だ」

 レヴァードの声だった。ヒィイスがひょいと顔をエレベェエタァの中に突っ込んだ。

「あんたか」

 一階で待っているのがヒィイスだとリィイヴから連絡があったのだ。鈍い銀色の箱を台車に載せていた。その台車のせいでみんなで乗り込むとかなりきつきつだった。最後にヒィイスがぎゅっと押し込んできたので、サンディラが一番奥の台車の横に立っていたレヴァードに押し付けられてしまった。

「ちょっと、きついよっ!」

 サンディラが回りの連中の足を蹴った。

「ちょっとだけ我慢してくれよ」

 ヒィイスが扉を閉めた。スウッと降りていく。

 レヴァードは、目の前にいるのが、あの乱暴な女とわかっていても、鼻を刺激する女の匂いと押し付けられた身体の柔らかさに困った状態になってしまった。

「あんた」

 サンディラが睨みつけてきたので、レヴァードがばれたのかと真っ赤な顔になった。

「シリィじゃなくて、ほんとに教授様なんだって?」

 レヴァードが真っ赤なままうなずいた。サンディラが疑うような眼で見ていたが、急に目をそらした。

 ようやく到着し、最後に台車を押して出たレヴァードがほっとした。

「やばかった」

みんなと管制室に行きかけたバイアスを呼び止め、また台車を降ろすよう頼んだ。バイアスがかなり重量があるので、人力では無理だとわかり、小型揚荷機を持ってくることにした。

 中央塔管制室に入ったヒィイスと組織の五人をカトルが出迎えた。

「元ラカンユゥズィヌゥ設備管理主任カトルだ」

 ワァカァ出身のインクワイァだったが、違反して降格になり、アンフェエル送りになったと説明し、ここが中央塔管制室だとひととおり案内した。

「これから中枢サントゥオルに連れて行く」

 カトルがリィイヴに連絡してから、エレベェエタァルゥムに向かった。レヴァードも一緒に降りた。

 破壊されていた中枢への通路は、平らとはいえないが、歩けるくらいにならされていた。カトルが首を傾げると、レヴァードがくいっと指で床を指した。

「エアリアが通りやすくしたんだ」

 扉は取り外されていた。中は高いドーム状の天井で薄暗い中、中央に背もたれが倒れている大きな椅子があり、その周囲をモニタが埋め込まれている壁が囲んでいた。

「……これが、中枢……」

 デュインという男が眼を険しく細めた。その椅子の上には、いろいろな導線や管をつけた若い男が横たわり、側に灰緑色の布を被った小柄で可愛らしい女が立っていた。フードは被っていなくて、肩までの銀髪を垂らしていた。

 五人が入口の前で戸惑って立ち止まった。

『どうぞ、台座の近くまで来てください』

 機械を通した声がドームに響いた。カトルにもうながされて、五人がきょろきょろと落ち着きなく見回しながら、台座に近寄ってきた。

『ぼくはリィイヴといいます。もとはインクワイァですが、十四年前に脳に損傷を受け、数値が下がったので、ワァカァになりました』

 啓蒙ミッションで知り合った魔導師と友だちになり、バレー・アーレでその魔導師を脅す道具にされて、大魔導師に助けられたことがきっかけでシリィになることにしたと話した。

『中枢主任の代わりに都市管制システムを動かしています。ヴァド主任は……そこに』

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