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第339回   イージェンと極南の鋼鉄都市《キャピタァル》(下)(2)

「いくら一極集中管理でも、そんなことは……」

 リィイヴがありえないと否定した。

「もしかしたら、送電システムの不具合かも。発電所自体は止まってないと思うよ」

 オルハが戻ってきた。

「確かに発電所は止まってないな。ただ、送電システムだけじゃなく、管理統制システム全体が落ちてるってやつだ」

 アートランが手のひらを光らせて、辺りを明るくした。

「中枢主任になにかあっても、補助装置が代わりをするんだけど」

 その手のひらの灯りの中でリィイヴが眉をひそめていた。あくまでも補助装置なので、現状維持での管理になるが、それでも最低限の生命線である送気や送電、送排水のシステムは停まらないようになっているのだ。何箇所かに予備の補助装置があって、どれか動くようになっているはずだった。

「その補助装置ってやつが壊れたんだ。予備の装置のことはわからないが、俺が撒いた粉があちこちに入り込んでってるから、それが壊したのかもしれない」

 エアリアが眼を見開いた。

「そんな使い方があるの?」

アートランがレヴァードを抱えた。

「俺は電波が届かないように撒いただけだ、その後どうなるかはわからなかった」

 エアリアが不安そうな眼でリィイヴを見た。

「停電のままだったら、どうなるんですか」

「建物の外に出られれば、空気はあるけど、手動で開く扉以外は開かないから、建物や部屋に閉じ込められたままだと、部屋の空気がなくなったら、死んでしまう。それに」

 リィイヴが、『外』との通信が断絶するから、パリスがキャピタァルが襲われたと勘違いするかもしれないと唇を噛んだ。

「そんな……」

 エアリアが絶句した。アートランがレヴァードを抱え上げ、エアリアにリィイヴを運ぶように手を振った。

「中枢に行って、ヴァドの代わりにシステム再起動しよう」

 カトルたちには港口で待機してろと指示した。

「通信が繋がったら、オルハの小箱に連絡するから」

 カトルたちが了解した。

 それぞれレヴァードとリィイヴを抱えたふたりの魔導師が、猛速で作業抗の奥へと飛び去った。

 はっとカトルがその後を追うように歩いた。

「俺の……子ども……育児棟にいる……」

 アリスタとの息子が、育児棟にいるはずだった。走り出そうとしたとき、オルハが大丈夫と止めた。

「中央医療棟には補助電源があって、すくなくとも十二ウゥルは保てるようになってるから」

 育児棟も中央医療棟の施設だから心配ないと港口に向かって歩き出した。カトルも背後を気にしながらみんなの後から付いていった。


 ヴァドからの指令で特殊班を出動させていたキャピタァルの警備分野担当主任は、最高評議会副議長クィスティンだった。しかし、素子捕獲にも違反者捕獲にも失敗し、かなりの犠牲者を出したと報告を受け、険しく眉を寄せた。夜中になったが、アウムズラボの敷地内にある自分の部屋に戻らず、司令室に留まっていた。

アウムズラボは、キャピタァルの東郊外にあり、アウムズ保管庫とラカン合金鋼で作られた頑強な演習場を隣接していた。

「どうなっているんだ、ヴァドに連絡してもまったく応答しない」

 音声通信対応不可になってから、かなりの時間になる。電文を送っても返信が来ない。

「この時間は睡眠時間かも」

 副主任がパァゲトリィに向かわせた特殊班も違反者たちを殺害できなかったことも報告した。

「次の班を送りますか」

 待機と指示した。

「朝までにヴァドから連絡がなかったら、パリス議長に連絡しよう」

 この事態を収拾してほしい。ヴァドの対応は最悪だった。もちろん、素子をキャピタァルに入れたレヴァードが原因だが、ヴァドが下層地区でしたことは、近年高まっているワァカァの上層不審を強めることだった。ワァカァの不満など、少しワァアク条件を良くしてやれば解消するが、甘くすると付け上がるので、できるだけ対処をしないでいたのに、これでは改善しなくてはならなくなる。

 不愉快だと目の前のモニタを睨んだ。


 ヴァドは、睡眠時間になっても補助装置に切り替わらないことに気が付かず、時折意識が遠のいていき、朦朧していた。

『あぁあいつぅを……こ……ろ……』

 手元のボォゥドを叩いていたが、すでに何をしているのか、わからなくなっていた。中央塔の管制室では、当直がいたが、ヴァドは素子侵入を伝えていなかった。そのため、通常の通りにワァアクをしていて、この異常事態には気づかなかった。

 何か、パシッと音がした。

『ぎぁあっ!』

 ヴァドが背中をそらして悲鳴を上げた。

『ぎゃぁあああっ!』

 身体に電撃が走り、痙攣してバンッバンッと何度も仰け反るような格好で台座に打ち付けられた。

ついに台座から落ちて床に叩きつけられた。導線が千切れ、排泄管も抜け、完全に気を失った。

 そして。その瞬間、ピシューゥゥンという音と共に中枢サントゥオルが暗くなった。壁のモニタが全部暗転し、かすかな動力音も消えた。

 基幹システム緊急停止。

 冷たく無機質なキャピタァルだが、ヒトの息衝きはあった。だが、今、かつてない沈黙が訪れた。

 管理区はところどころにある非常灯以外は暗闇だった。その中を飛び、天井を破って、上層にあるインクワィアのパァゲトリィの区域に入った。すぐに殺菌室を出たところにある車庫に出た。

中枢サントゥオルは、中央塔の地下にある」

 リィイヴが暗い都市部を見回した。ひさびさのキャピタァルだ。病棟で八年過ごし、それからバレー・アーレに転属になった。それ以来だった。

 上層地区は通勤の時間帯以外はほとんど人通りもモゥビィルの通りもない。作業車や搬送車などは地下道を通っている。朝早くでもあり、まだワァアクに向かっていないのだ。

「みんな、まだ部屋にいるだろう」

 レヴァードが上を見上げた。キャピタァルの中央塔にラボを置き、住むことができるのは、ごく一部のインクワイァだ。スクゥラァの《係累》や大教授、各バレーの議員や研究棟の主任などだ。ほかのインクワイァたちは、周辺の住居棟に住んでいる。

中央塔の正面を見つけ、アートランとエアリアが入口を叩き壊して入り込んだ。

 中枢サントォオルへの入口はエレベェエタァだけだ。整備や機材を運び込む出入口はあるはずだが、裏方でないと見つからない。こちらのほうが早く行けそうだった。

 正面玄関の円形広場の奥にエレベェエタァルゥムがあり、向かい合って、全部で六基あった。エレベェエタァルゥムはこの中央以外にも西側東側にもある。中枢まで降りていけるのは、一番奥の一基のはずだった。

「箱、途中で止まってます、全部」

 エアリアがヒトの気配を感じると扉に手を触れた。箱にはそれぞれ何人か閉じ込められていた。中央塔は、補助電源が入る場所が何箇所かあるはずだった。

「中央管制室で手配すれば動き出すだろうけど」

 中枢サントォオルの上に中央管制室があり、この建物の管理をしている。一部は通電しているので、正面玄関から入れたのだ。

 アートランが奥の扉の前に立ち、二枚扉の真ん中に手先を入れた。

「はっ!」

 手先が輝き、ぐにゃっと扉が捻じれた。太い鋼鉄の縄がぶらんとなっているのが見えた。箱ははるか上にあるようで、見えない。

「いくぜ」

 勢いよく下に向かって降りていく。一番下までそれほど掛からなかった。太い鋼鉄縄を動かす歯車のようなものがあり、それより上に扉があった。その扉もこじ開けると、白い通路が続いていた。すっと歩き出そうとしたアートランにリィイヴが注意した。

「防御システムは動いてるよ」

 アートランが俺たちには無駄だと歩き出した。天井、壁床からアートランの身体に向かって赤い光線が発射された。パアッとアートランの身体が輝いた。

「アートラン!?」

 レヴァードが腕で眼を覆って叫んだ。赤い光線は魔力のドームに当ってチュイーンと撥ね返り、発射口を破壊した。行き止まりの白い扉まで到達した。通路は崩壊寸前になっていた。エアリアがリィイヴとレヴァードを抱えて、盛り上がったり、落ち込んだりしている床を飛び越え、扉の前までやってきた。

 アートランが拳を振り上げて、認識盤を叩き壊し、ぐいっと鋼鉄の扉を引っ張った。

 黒い壁と床、高い天井。中央に大きな椅子があった。椅子の周囲には壁が立っていて、そこにモニタがたくさん埋め込まれていた。ほとんどがザーッと音を立てて、砂嵐のような画面だった。わずかな非常用のトォオチの光が椅子の周りを照らしている。バチバチッとあちこちで短絡が起きている。さすがに慎重に近づいた。

 小柄なヒトが椅子から落ちていた。時折ビクビクッと痙攣している。口からねばねばしたものを吐き出し、下半身は汚物で汚れていた。頭にはたくさん線が出ている帯のようなものを巻き、身体にもたくさん線が張り付いていて、どこかに繋がっていた。足元に顔の半分ほどの幅の帯のようなめがねが落ちていた。

「こいつが、ヴァドか」

 アートランがかがみ込んで帯を取った。エアリアが息を飲んだ。

「なんで、こんな……」

 髪の毛がなく、頭皮に線が繋がった丸い板をいくつも接着していて、身体から外れていたが、粘食用の管や排泄用の管が身体中にからまっていた。レヴァードが口元を押さえた。

「これは……たしかにひどい……」

 ディクスが気分が悪くなるといった意味がわかった。

「あ……あっ……」

 意識を戻したらしく、ヴァドが細く眼を開けた。リィイヴが固まったように立ち尽くしていた。

 レヴァードが首筋や手首から脈を取った。

「脈が細い……強心剤打って、手当てしないと」

 生命維持装置が必要な段階だった。アートランが台座の後ろに回った。

「こいつが補助装置だな」

 リィイヴがようやく身体を動かして見に行った。補助装置は盤の付いている箱型をしていたが、動作状況を表示するランプがすべて消えていた。開けてみないとなんとも言えないけどと前置きしてからリィイヴが眼を閉じた。

「修理はすぐにできそうにないね、おそらく非常用の予備装置は用意してると思うけど」

 それと入れ替えなければ動かないが、どこにあるのか、捜さないといけない。本来、作動するはずのほかの補助装置も動いていないようだった。

 険しい眼で補助装置を睨みつけていたアートランが間に合わないと判断して、リィイヴの手を握り、台座の横に引っ張っていった。

「おまえがヴァドの代わりをしろ」

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