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第334回   イージェンと極南の鋼鉄都市《キャピタァル》(上)(1)

 極南島ウェルイルの地下奥深くにあるマシンナートの首都キャピタァルは、プラントや動力源であるユラニオゥム発電所などを含め五十層にも及ぶ。ただし、現在使われているのは、上部の二十五層のみだった。

 外殻はラカン合金鋼で覆われていて、上層地区と下層地区に分かれている。管理棟や研究棟のある上層地区は、インクワイァの居住区も兼ねていた。その上層地区と下層地区の間にはプラントや作業棟が集まる共同地区コマァンディがあった。そこでは、管理指導するインクワイァとワァカァ作業員とが共同でワァアクを行っていた。

 レヴァードはその共同地区から下層地区に入り込み、第十三階層のワァカァ居住区まで降りてきていた。だが、特殊班に見つかり、逮捕されてしまった。特殊班の装甲車には、ディクスも乗っていた。手錠を掛けられ、ボォムの首輪をされたレヴァードを気の毒そうに見ていたが、救急箱を持ってきた。

 救急用の消毒布を出してオゥトマチクで殴られて血が滲んだ額に当てようとした。

「手当てなんてしなくていい」

 レヴァードが首を振って、特殊班の黒いゴォム服を着た男を睨みつけた。

「さっさと殺せ」

 特殊班の班長らしき男が長身のオゥトマチクの銃口で衝いた。

「ヴァド様からの指令があったらな」

 装甲車は管理区南口の大型の揚重台に向かっていた。それで上の階に上がっていくのだ。

 ……死のう。舌噛み切って。

 死んでくれと言っていた。生きていてもアートランの邪魔になるだけだ。そのくらいで死ねるかどうかわからなかったが、やってみよう。そう決意したときだった。

「待てよ、おっさん。そう早まることはないぜ」

「えっ!」

 レヴァードがあわてて見回した。耳の側でアートランの声が聞こえたのだ。

「なんだ、どうかしたのか」

 班長が不審がって尋ねた。

「おっさんにしか聞こえないように話しかけてる。今このモゥビィルの屋根の上にいる」

 レヴァードがぷいとそっぽを向いた。

「なんでもない」

 レヴァードがもしかしたら、心の中で言えば読み取るのかもと察して、置いて逃げるようにとうながした。

「生きて帰ろう。おっさんの死に場所は、女の腹の上のほうが似合ってるぜ」

 レヴァードがくくっと笑いそうになって、下を向いてこらえた。

……ああ、そいつは最高の死に場所だな。

 併走していた護衛車の行法士が屋根の上のアートランに気が付いて、班長に連絡してきた。

「なにっ! このモゥビィルの上にだって!?」

 班長以下天井を見上げた。運転士が急に操縦輪を大きく捻った。

「わあっ!」

 車内のみんながどおっと反対側の壁に叩きつけられた。ディクスもレヴァードとぶつかった。

「振り落とせるもんか!」

 レヴァードがあざ笑った。

 外では両脇の護衛車の窓から身を乗り出した特殊班員がオゥトマチクを撃ち捲くっていた。弾丸は魔力のドームに当って全て撥ね返っている。

「まったく、無駄だってのに」

 両脇のあちこちの建物の屋上に監視キャメラがある。集音装置もあるに違いない。

「ヴァド!おまえも頭悪いなっ! いいかげん、俺にはどんなアウムズも効かないって学習しろよっ!」

『うるさいっ! 頭が悪いだと!? (かす)のくせに、ぼくを侮辱したなっ!』

 アートランがシュンッと飛び上がった。

「このままじゃ、おふくろに怒られるなっ! どうする?! ヴァド!」

『くそっ、なんとしても殺してやる!』

 ヴァドの声が階層全体に響き渡った。

 すでに夜中だったので、階層内は寝静まっていた。だが、幹線道路近くの集合住宅では、ワァカァたちが、この騒ぎに何事かと、起き出し、窓から見下ろしたり、両脇の道に出てきたりしてきた。幹線道路を爆走している装甲車やモゥビィルに驚いていた。しかも、その装甲車に向かって銃撃している。その上、中枢主任の怒鳴り声が響いたので、なにごとかとみんな強張っていた。

『レヴァードのボォムを爆破してやる!』

 それを聞いた装甲車の運転士が急停止させた。班長たちがあわてて飛び出してくる。ディクスが、逃げながら回りに集まってきていたワァカァたちに怒鳴った。

「逃げてくれっ!爆発するぞ!」

 ワァカァたちがわあぁっとわめきながら散っていく。転んだり、腰を抜かしてしまったものもいた。

「やれるもんなら、やってみろ」

 空中に浮遊していたアートランが挑発した。

一瞬の後、バチバチバチッと火花が散り、電光があちこちに走った。夜空になっていた空中にキラキラと光り輝く粉が散らばっていた。その電光は、監視キャメラや班長たちのオゥトマチクに伝わり、監視キャメラは爆発し、班長たちは悲鳴を上げて黒こげになった。

アートランがひらっと下りてきて、車内に入った。

「ア…トラン…」

 モゥビィルごとドームで包んだのかと手を差し出した。

「いや、張ってないぜ」

 その手をぎゅっと握り、手錠と首のボォムを粉々に砕いた。

「じゃあ、なんで、ボォム……」

 ぐったりとしているレヴァードを脇に抱え上げた。

「このあたりに魔力の粉を撒いたんだ。遠隔操作の電波が届かないように」

 電波がその粉に当って、火花が散ったのだ。

「電波妨害粒子か……」

 まあそんなとこだなとシュッと飛び立った。ヒトの身体にはむしろいいものだぜとにやっと口はしを上げた。

 近くにへたり込んでいたディクスが呆けたようになってキラキラと光る粉が舞い散っている空中に眼を向けていた。レヴァードがちらっとその方を見たが、すぐに前に眼をやった。

 飛びながらアートランがレヴァードの血の滲む頭や額を癒した。

「カトル、助け出したぜ」

 レヴァードがぱぁと顔を明るくして喜んだ。

「そうか。よかった!」

 レヴァードのうれしそうな様子にアートランも胸があたたかくなった。

 幹線道路の途中にドーム型の建物があり、壁際にめり込んでいる。壁の向こうにある移動用の通路や階段、エレベェエタ、揚重台などがある管理区に入れる。何台かモゥビィルが行き来していて、その間を飛んでいるアートランに驚いて、急停車して、他の車や壁にぶつかっていた。

「事故多発だな」

 レヴァードがワァカァたちには罪はないんだがとすまなそうだった。

「そうだな、あいつらは何にもわかってないけどな」

 だが、パリスが、というよりマシンナートが自らテクノロジイを放棄しない限り、手を差し伸べるゆとりはない。マシンナートを気遣って、テェエルが被害受けたら本末転倒というのが本音だった。

 後ろでガガガーンッという音がした。どうやら、階層への出入口の扉を閉めたようだった。

「ここに閉じ込めるのか」

 さっと壁際に下りて、人造石の通路を拳で叩いた。ガシャーンッという硝子が砕けるような音がして通路の向こうにある側道が見えた。

「カトルたちが港口に向かってる」

 作業抗というのがあって出入りできるらしいと聞かされ、そんなのがあったのなら、そこから入ればよかったなと悔やんだ。

「裏方用だからな、おっさんは貴族みたいなもんだから、清掃や糞の始末をするための道なんて知るはずもないさ」

 太さがさまざまな管や線条が這っている中をものすごい速度で飛んでいる。管や壁に当りそうになるかと思うほどスレスレのところを飛んでいた。さすがに恐ろしくてレヴァードが眼をつぶってしまった。港口のあるパァゲトゥリィに向かって飛び続けた。


 中枢主任ヴァドは、素子殺害のため、隔離ラボからアンフェエル最終処理場に繋がっている搬送管にメタニルを流したが失敗し、次に冷凍液アゾトゥを流した。搬送管にヒビがはいるだろうが、そんなことをかまっていられなかった。

 ところが、素子はまったく凍りつかず、アンフェエルで扉を壊し、外に出て行ったのだ。

「なんでアンフェエルに行ったのか」

 ただ逃げただけかと思ったが、どうやらカトルというワァカァ出身の違反者を助けに来たようだった。

「意味がわからない……」

 とにかく、アートランという素子をなんとしても殺さないと、このままではパリスに無能と思われてしまう。そして中枢主任をロジオンと代えられてしまう。それだけは嫌だった。

『ヴァド主任、レヴァードを第十三階層から第四階層に移送します』

 ヴァドが南口ではなく北口から入るよう指示した。アートランはティスラァネの小箱を壊してしまい、位置確認ができなかったが、一緒にいるカトルの位置からすると、パァゲトゥリィに向かっていると思われた。一応パァゲトゥリィから遠い方から上げることにしたのだ。

 こんなにいらいらしたのは生まれて初めてだった。意志が強いからとパリスが中枢主任に選んでくれたのだが、この事態にうろたえてしまった。こんな想定外のことが起こったのだから、パリスに報告して打開の示唆を受けるべきだった。だが、嫌われたくないためにごまかそうとして余計に事態を悪くしていた。

『カトル確保に特殊班の別班を向かわせろ』

 抵抗するなら殺してもいいと言われ、特殊班の班長が了解した。

 しばらく各所からの電文を処理していたが、なかなか集中できなかった。いつもは楽しみな睡眠前の母パリスとの定時連絡も、忙しくてとそこそこに切った。パリスは苦労させるなとすまなそうだった。母に心配かけてしまって、ますます、こんな事態になったことを知られたくないと思った。

『ヴァド主任、素子が装甲車の屋根の上にいます!』

 特殊班のひとりから連絡が入った。

「なんだって!」

 てっきりカトルと一緒かと思っていた。カトルは螺旋回廊を第十階層まで上がってきている。第十三階層の監視キャメラを映し出した。パッパッと切り替わっていく。装甲車に向かって両脇の護衛車から銃撃していたが、屋根の上の素子は弾いていた。

 集音装置が忌々しい素子の声を捕らえた。

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