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第331回   イージェンと贖いの島《エトルヴェール》(2)

 引き金を引いた。その弾丸がピキィンと魔力のドームに撥ね返された。エアリアが風のように動き、子どもたちの手を叩き払って、オゥトマチクを弾き飛ばした。

 引き金を引いた娘を平手で床に叩きつけた。

「あうっ!?」

 身体を打った痛みに顔を歪めて、エアリアを見上げた。

「異端の技を捨てられないのなら、殺します」

 左手にシュッと光の杖を出した。遠くから見ていたリィイヴが目を見張った。

「まさか、エアリア、本気?!」

 背筋が凍った。エアリアは光の杖を胸に突き刺した。

「あっ!」

 杖がパァンと粉になって、娘の身体に降りかかった。死ななかったとわかって、娘が身体の力が抜けて、ぐったりと横たわった。

「異端の道を捨てて、正しい道に戻りなさい」

 エアリアが娘の腕を引っ張って立たせ、後ろで立ちすくんでいる子どもたちに自分の部屋に戻っているよう手を振った。

「しばらく部屋にいなさい」

 娘がううっと泣き出した。エアリアが抱えていた子どもが顔を上げた。くしゃくしゃに泣いていた。

「ごめんね……ごめんね……」

 しきりにあやまっていた。娘がはっと赤くなった目を見張った。

「アルシン様……」

 娘が両膝をついた。

「アルシン様のせいじゃありません」

 両手を床に付けてお辞儀した。

 アルシンを連れて中央棟に向かうことにした。

「カーティアにいる姉上様に報せますが、閣下も伝書を書いてください」

 空を飛んでいる間にエアリアがアルシンを説得した。アルシンはぐったりしていた。

「うん、姉さま、戻ってきてくれるかな」

 ええもちろんですとエアリアがうなずいた。中央棟の玄関口に到着すると、カサンがモゥビィルから降りるところだった。

「こちらに来ていたんですか」

 エアリアが医療棟に寄るのを忘れていたので丁度よかったとしらっとしていた。カサンが忘れたのかと真っ赤な顔をして怒ったが、エアリアはさっさと玄関口に向かった。

「急ぎましょう」

 玄関口は外側に鋼鉄の柵が下りていた。外から入れないようにしたのだろう。エアリアがぐいっと柵を握り、押し開いた。鋼鉄の柵が歪み、ヒトが通れるくらいに開いた。柵の向こう側の硝子の扉に向かって、光の杖を突き出した。

 まぶしく光って、杖の先がガシャーンッと硝子を叩き割った。

「ひえっ!」

 カサンが悲鳴を上げ、飛び散る破片を避けるように腕で顔を覆った。アルシンを抱え上げ、さっと中に入り、リィイヴ、カサンが続いた。警報音が鳴り響いた。

『緊急事態、正面玄関破壊、侵入者、警戒レェベェル6、警備班、急行せよ』

 抑揚のない女の声が被った。

「警備班、来るのか」

 カサンがいきなり撃たれるかと首をすくめた。

『侵入者、そこを動くな』

 ザイビュスの声が聞こえてきた。警報音は続いていた。エアリアがかまわず先に脚を進めた。

「待って、こっち」

 リィイヴが玄関受付に導いた。受付のタァウミナァルは動いていた。さっと棟内図を表示した。

「管制室は地下ですね」

 エアリアが了解した。エレベェエタァを使わないと降りられないが、エレベェエタァは止まっていた。そのうち、一基が地下から上ってきた。

「警備班が乗っているのか」

 カサンにアルシンを預け、リィイヴと後ろに下がらせた。エレベェエタァの扉が開いた。エアリアが首を傾げた。

「誰も乗っていません」

 リィイヴが乗って行こうと入った。

「罠でしょう」

 エアリアが止めると、そうだねといいながら、箱の中を見回し、小箱の細い紐を耳に入れた。

「ザイビュス主任」

 ザイビュスに呼びかけた。

『ハァーティ所長……ではないな』

 ハァーティは第二大陸のユラニオウム精製棟所長だ。リィイヴはハァーティの小箱を使っていた。

「ええ、ぼくをご存知かどうか。バレー・アーレの行法士だったリィイヴです」

 ザイビュスが息を飲んだように思われた。

『管制室まで降りてこい』

 リィイヴがエアリアやカサンに乗るよう手招いた。

 シュンッと音がして扉が閉まり、ふわっと降下していった。扉の向こうに警備班がオゥトマチクを構えているかもしれないので、エアリアが魔力のドームで包んだ。

 箱の降下が止まり、すーっと扉が開いた。だが、誰も出迎えていなかった。少し暗い照明の広い部屋にたくさんのモニタが光っていた。正面には大きなモニタがあり、島の地図が浮かび上がっていた。

「リィイヴって、死んだんじゃなかったのか」

 カサンチィイムのワァカァだろと言いながら近づいてきたものがいた。

「ザイビュス」

 カサンが呼び掛けると、ザイビュスがえっと仰け反った。

「カサン教授……も……?」

 レヴァード教授と同じかと肩で息をした。

「何がなんだか、もうわからんな」

 女素子も一緒だしと呆れたようだった。

「殺すんなら、後にしてくれ」

 ワァアクしてるんでなとさっさと机に戻っていく。確かにどこか変わっているとエアリアが背中を見つめた。

「啓蒙ミッション、強制終了してキャピタァルに帰還って指示が出されただろう」

 カサンが机の横まで付いて行った。ザイビュスがボォゥドを叩きながらうなずいた。

「ああ、退去計画も立てないで、みんな出て行った。エヴァンス指令もどこかに行ってしまって、行方がわからない」

 モニタには電力消費計画表が表示されていた。

「ここはあなたひとりですか?」

 リィイヴが見回して尋ねた。

「ああ、俺だけだ。南ラグン港も最後のマリィンがもうすぐ出航する。アンダァボォウトも残っていないと思う」

 カサンが呆れた。

「おまえはどうするんだ。取り残されるぞ」

 すぐに港に向かえと急きたてたが、ザイビュスが首を振った。

「この島の連中をすっかり啓蒙しておいて、いきなり放り出していけるか。そんな無責任なこと、俺はしたくない」

 エヴァンス指令が全権を移管してくれれば、療養棟の重患も死なずに済んだと唇を噛んだ。

「昨日から連絡が取れない。連行されたのかもしれないが」

 いずれにしても電力をなんとかしないととモニタを睨んだ。

「困ったことに、ラカンユゥズィヌゥに直結していたユラニオウム発電所の管理ができないんだ。明日にでも電力不足で動力が止まるプラントが出てくる可能性がある」

 発電所も今はシステムが自動で動いているが、設備は監視整備が必要だし、いずれ、送排水も止まってしまう。堰水門工事現場や北ラグン港などの重要性の低い施設への送電を止めているが、それでも足りないと嘆いた。ラカンユゥズィヌゥの使用電力量が大きいのだ。ラカンユゥズィヌゥへの送電を停めたいが権限がなくて、できないでいた。管理者も担当もいなくなったが、ラカン合金鋼を精製するシステムが自動で動いているのだ。

「それなら、この小箱のクオリフィケイションでなんとかなるのでは」

 リィイヴが、ユラニオウム精製棟所長のものですからと差し出した。

「殺して奪ったんだろ」

 ザイビュスが受け取りながらエアリアを睨んだ。

「バレー・カトリェイムの事故も素子たちの仕業じゃないのか」

地熱プルゥムの暴走で全滅したそうだがと言いながらも淡々としていた。すぐにクオリフィケイションを移した。

「これでなんとかなるな」

 小箱をリィイヴに返して、ボォオドを叩く速度を上げた。カサンがウォホンと咳払いしてからザイビュスの顔を覗き込んだ。

「通信システムを使いたい」

 好きにすればいいとモニタから目を離さなかった。

カサンが相変わらず生意気な態度だなとぼやきながら、近くの席に座った。リィイヴもカサンの隣に座り、ボォオドを叩き出した。

「何する気だ」

 カサンの使用は認めたが、ワァカァのリィイヴの使用を咎めた。

「あなたは聞かないほうがいいです」

 リィイヴが無視して続けていると、ザイビュスが立ち上がって側にやって来た。エアリアがその前に立ちはだかった。

「後はリィイヴさんとカサン教授がやりますから、あなたはここを立ち去りなさい」

 ザイビュスがフンと鼻で笑った。

「都市管制システムの運用、そんなに簡単にできないぞ」

 リィイヴがはっと顔を上げた。

「マニュアルを見れば現状維持くらいならなんとか」

 大教授向けの報道ファイルを引き出そうとしていた。

「なんとかだって、ふざけるな」

 ワァカァが何言ってると怒っているので、カサンが通信システムを開きながら、ぼそっとつぶやいた。

「リィイヴはもとはインクワイァだ、それもメイユゥル」

 ザイビュスがえっと眼を見張った。

「マリィンの位置、ここではわからないな、さすがに」

 カサンが個人通信できるかなとマリィン艦長のアランストを呼び出そうとした。

「だめだ、やはりわたしの認識番号は使えない」

 がっくりと肩を落とした。席に戻ったザイビュスが呆れた。

「あなたは死んだってデェイタが更新されてるから無理だろう」

 ポンと小箱を投げて寄越した。

「わっ!」

 あわてて受け取った。

「どっちにしても記録は取られてるが、俺の小箱からの個人通信のほうが目立たない」

 管制棟から直接だとすぐに中枢主任の検閲が入りそうだから避けたほうがいいと貸してくれた。

「助かる」

 カサンがマリィン艦長アランストに個人通信をかけた。しばらく呼び出していたが、なかなか出なかった。リィイヴがカサンのほうを見た。

「もしかしたら、時差で深夜とかかも」

 マリィンの位置によってはそうなるなとうなずいた。

「先にレヴァードさんに連絡してください。アートランに策謀を伝えないと」

 エアリアが少しいらついてきた。カトルはあきらめてもらうしかなかった。

 カサンが今度はキャピタァルのレヴァードにかけたが、通話制限となってしまった。

「なにかあったんだな」

 カサンが青ざめた。なんらかの理由で通話や送受信が制限されているのだ。

「こちら、エトルヴェール島、中央管制棟主任ザイビュス、キャピタァル中枢、確認事項があります」

 いきなりザイビュスが音声通信でキャピタァルのヴァドに連絡した。リィイヴとカサンがえっと驚き、エアリアがさっとザイビュスに近寄り、首筋に手を当てた。

「余計なことを言ったら、首を刎ねますよ」

 耳元で低く脅した。ザイビュスが不愉快そうに顎を上げた。

『こちら、キャピタァル中枢、ヴァドだ、なんの確認だ』

 音声を開放しているので、よく聞こえる。リィイヴの顔色が悪くなった。

「ヴァド……に……さん…」

 ザイビュスがカタカタとボォゥドを叩きながら話し始めた。

「レヴァード教授に連絡を取りたいのですが、通話制限されています。問題ありましたか」

 まったく通常の連絡のように尋ねた。

『レヴァードになんの連絡だ』

 ヴァドの声はいらだっているようにも聞こえた。冷静で意志の強いヴァドとしては、珍しいことだった。

「レヴァード教授が着用していたシリィの衣服などの私物を預かっています。キャピタァルには持ち込めないので、こちらで処分してもよいかどうか、いちおう確認したかったのですが」

 ザイビュスは平気で嘘をついていた。

『レヴァードとはもう連絡がとれない。そんなもの、そっちで始末していい。それより、ザイビュス、なんで撤退しない』

 ヴァドのもともとかん高い声が苛立ちでいっそう高くなっていて耳障りなほどだった。

「ラカンユゥズィヌゥの担当官たちが施設を閉鎖せずに撤退しました。もし素子たちが来るとまずいと思い、防御システムの監視で残りました」

 ヴァドがへえと感心したような声を出した。

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