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セレンと黄金の戴冠式(3)

 式場の左側扉にイージェンとセレン、右側扉にジェデルが待機した。ジェデルの横に立っていた女、第三王女ネフィアが、侍女の介添えで式場に入ってきた。その美しさに押し殺したどよめきが場内に広がる。続いてフィーリが入場し、朗々とした声で式開始を宣言した。

「これより、カーティア王国国王戴冠の式を執り行う。開始に先立ち、新しい魔導師学院学院長イージェン師をご紹介する」

 イージェンがゆっくりと歩を進めた。後ろからセレンが白いクッションの上に王冠を乗せて付いていく。つまづいたり落としたりしたらどうしようと緊張して顔が青ざめていた。ぎこちなく歩くセレンにフィーリがはらはらとして見ていた。壇上中央近くでイージェンが停まり、その横にセレンが着いた。イージェンが正面を向き、一同に軽く頭を下げ、左の手の中に光の長杖を出した。杖でトンと床を叩いた。

「このたび、カーティア魔導師学院学院長となり、本日の式を執り行う大任を仰せ付かったイージェンである。異議あるものはこの場で申し出よ」

 出席者が動揺していないところを見ると、イージェンなるものが学院長となったことは通達済みなのであろう。

 イージェンが光の長杖で右の扉を指し示した。右の扉が黄金に輝き、滑るように開いた。扉の入口から壇上中央に黄金の道が伸びてきた。水を打ったように静まり返った中、その上をジェデルがゆっくりと歩いてきた。歩みに合せてガラスの鈴の音が聞こえてくる。よく見るとイージェンがジェデルの歩みに合せて長杖で床を叩いていた。黄金の道の端まで来て、ジェデルが止まり、ゆっくりと片膝を付いた。光の長杖でジェデルの頭の上を何回か払い、杖を戻した。

「先王の第二王子ジェデル、汝、王室の長として、その秩序と繁栄に勤めることを誓うか」

 ジェデルが右手を左の胸において答えた。

「誓います」

「先王の第二王子ジェデル、汝、国政の長として、真義と秩序のために勤めることを誓うか」

「誓います」

「先王の第二王子ジェデル、汝、国の父として、将来妃となりし女を国の母として、カーティアの国土と民を慈しむことを誓うか」

「…誓います」

 ジェデルが一瞬息を呑んでから答えた。

「カーティアの青き空、緑なす大地、真義の民の許しを得て、ここにジェデルの王位継承を認める」

 イージェンが宣言すると、セレンが抱えていた王冠が輝き出した。長杖を振る。王冠がすーっと浮き上がり、イージェンが差し上げた右の手のひらの上に載った。長杖が消え、左の手を王冠に添えた。一歩前に出て、ひざまずくジェデルの頭の上にかざした。王冠はいっそうまばゆく光り、さらに黄金の煌きを落とし始めた。その煌きはジェデルに降り注ぎ、身体中について、全身を輝かせた。

「おおっ…」

感嘆の息が式場のあちこちで漏れる。イージェンが腰を折りジェデルの頭に王冠を被せた。床に付けているジェデルの手を取り、立ち上がらせた。そして、ひざまずいた。

「国王陛下」

 式場の一同もひざまずき、唱和した。

「国王陛下!」

 フィーリが震えながら王杖を捧げて差し出した。別の従者が国王の外套をジェデルに掛けた。ジェデルが受け取った王杖でトンと床を付き、一同に向かって声を掛けた。

「大儀である。立て」

 一同は立ち上がりつつ顔を上げた。

「ありがとうございます、陛下」

 立ち上がったイージェンがふたたび長杖を左手に出し、頭上に掲げて大きく振った。

「国王陛下に祝福を、カーティアの国土と民に祝福を」

 イージェンが唱えると、黄金の煌きが杖先から噴出し、式場に降り注いだ。きらきらと輝く光の雨に儀式殿の一同が驚いた。さらにカーティアの国章と王家の紋章の大旗が輝き出した。誰からともなく声が上がった。

「国王陛下、万歳!」

 次々と声が上がり、殿内を揺るがすほどとなった。その声を浴びてジェデルはますます輝いていた。

 新国王は即日新体制を発表する旨宣言し、解散とした。

 魔導師の控室に入ったイージェンがフードを背中に落とし、大きな椅子にどっしりと腰を下ろして、セレンを手招きした。セレンが白いクッションを机に置いて側に寄った。膝の上に横座りさせた。

「疲れるな、ああいうのは」

 自嘲気味につぶやいた。従者に甘い茶を入れるように言った。イージェンが側卓に置かれた茶碗を取り、一口すすって何度か息を吹いて冷ましてからセレンに渡した。

「まだ熱いぞ」

 セレンが注意して茶碗の縁に唇を付けた。緊張していたので喉も渇いていた。甘いお茶はとてもうれしかった。

 扉が叩かれ、フィーリが入ってきた。フィーリは目も鼻も真っ赤にしていた。感激して泣いたらしい。ひざまずいて声を高ぶらせた。

「学院長殿!あんなすばらしい戴冠式をしていただき、まことにありがとうございます!感謝の念に耐えません!」

 何度もお辞儀をした。イージェンが不愉快な顔をした。

「そんなにたいしたことじゃない、立ってくれ」

 フィーリが立ち上がった。その時、ふたたび扉が叩かれた。入ってきたのは、ジェデルだった。イージェンが椅子から立ち上がり、セレンを降ろした。ジェデルが間近まで来て、言った。

「老人たちが父王のときはあのような祝福の黄金雨は降らなかったと申して喜んでいた」

そして、イージェンに向かってひざまずいた。イージェンもさすがに驚いて目を見張った。

「感謝する」

 頭を下げた。イージェンがますます不愉快な顔をした。

「俺は式次第通りにやっただけだ。先王の時の学院長は魔力があまり強くなかったんだろう」

 そうであっても、おそらく民びとは、めでたきしるしと見るだろう。そしてそれは国王の威光となる。

 イージェンは、ひざまずいたままふたたびお辞儀をする国王を見て、父がよく言っていたことを思い出した。

…俺はな、国王もお辞儀をするくらい偉い魔導師だったんだぞ、貴族も金持ちもみんな俺の機嫌をとりにやってきて、へこへこ頭を下げた…

 吐き気がした。結局軽蔑していた父親と同じことをしている。それがイージェンをいっそういらいらさせた。

 ジェデルが立ち上がり、尋ねた。

「なにか礼がしたいが、望みはないか」

 イージェンは肩で息をし、首を振った。

「なにもいらん、マシンナートの戦闘に立ち会わせてもらえればそれでいい」

 セレンの手を引いて出て行った。

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