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第202回   イージェンと海獣王《バレンヌデロイ》(5)

 サンクゥ・ドゥに着いたエアリアとリィイヴは、アンダァボォウトの一艦に入り込んだ。操縦席に着いたリィイヴは、小箱で操縦システムを起動させた。いくつかの目盛盤を点検した。空気は大丈夫だったが、燃料はゼロを示していた。

「燃料がない」

「動きませんか」

 エアリアが覗き込んだ。外から補給しないと。

「外にある部屋で操作するから」

 一度外に出た。操作室には二名ほどヒトがいた。他のアンダァボォウトに補給管を挿管していた。

「こっちも補給するかも」

 別の補給管が伸びてきた。そっと後部をうかがうと、整備士が、燃料槽の補給穴を開けていた。

 急に整備士が係留壁との間の板を渡っていく。

『マシンナートに告ぐ…これからこの海底研究所を消滅させる。三十ミニツやる、逃げたければ逃げろ』

 イージェンの声が聞こえてきた。

「この間よりは脱出の時間があるようですね」

 エアリアが言った。

「マリィンがキャル・ドゥにあるって知ってるヒトたちは間に合うかな、それでも反対側の区域にいたら無理だね」

 モゥビィルで走ってきても難しいとリィイヴが言った。

「充填にあと十分はかかる。それまでにこのボォウトに乗ろうとするヒトたちが来たら」

 どうしようという言葉を飲み込んだ。気持ちを察したエアリアが言った。

「リィイヴさんは中で待っていてください」

 リィイヴがあの管が外れたら、穴の蓋を閉めてくれと頼んだ。エアリアがうなずき、リィイヴは艦内に戻った。

 操作室の整備士たち五人ばかりが、あわてて出てきた。もう一艦のほうは管が外れていく。そちらに乗り込もうとしたひとりに別のマシンナートが怒鳴った。

「出航できるのか?!俺たちじゃあ、システム起動できないぞ!」

「マリィンのほうに行こう!」

 扉の側にあるモゥビィルに乗り込んで走り去った。艦体を蹴って隣のアンダァボォウトに移ったエアリアは、燃料槽の蓋を閉めた。リィイヴのところに戻った。

「もう一艦の蓋を閉めました。ここにいたマシンナートたちは、マリィンのほうに行くそうです」

自分たちでは動かせないようなことを言っていたと告げると、リィイヴがもう一艦も出航できるようにしようと外に出た。

 エアリアに隣に連れていってもらい、システムを起動させた。ナビゲェイションとオォウトシステムで海上への浮上を指示しておいた。これでなんとか海上まで出られる。ナビゲェイションが使えるものがいれば、目的地の入力をするだろう。

 もとのアンダァボォウトに戻った。あと少しで充填できる。エアリアが『耳』をそばだてた。

「モゥビィルが五台、こちらに向かっています」

 手元の燃料目盛板が全充を示していた。

「もう充填終わる。蓋を閉めてきて」

 こちらのアンダァボォウトを沈めて、乗り込めないようにすることにした。エアリアが了解して外に出た。果たして補給管が外れていた。蓋を閉め、艦内に戻り、入り口の蓋も閉めた。

「潜るから」

 リィイヴが操舵管を握った。ギュンギュンと艦内全体から音がして、目の前のモニタァや計器が点灯し出した。

ゆっくりと沈んでいく。外の様子は、エアリアが『耳』でとらえていた。

「モゥビィルがドームの中に入ってきました、全部停まりました」

 ヒトが何名かアンダァボォウトに入っていく。

「五台で何人来たのかな」

 アンダァボォウトは、座席は十五名ほどだが、詰め込めば、二十五名から三十名は乗り込める。どの型のモゥビィルかによるが、全員乗れればいいと願った。

「正確ではありませんが、おおむね二十名くらいです」

 それなら乗れそうだと胸をなでおろした。

「アートランたちが!」

 ドームに入ってきたという。

「なにか、警報が鳴っています!」

「水門が開くんだ!」

 ドーム内の空気圧が上がる。

「アートランでももたない!」

 すぐに浮上した。早く入れるよう入り口を開けさせた。アートランたちが、中に飛び込んできた。ひとり、ふたり、最後にアートランが入ってきた。

「はあっ…」

 アートランが大きく息をついた。エアリアがアートランの背中にしがみ付いている小さな身体を抱き上げた。

「セレン!」

 セレンが振り向いた。

「エアリアさん!」

 しっかりと抱きしめた。先に入ってきたふたりのうち、ひとりがエアリアを見て、キンキンした声で怒鳴った。

「お、おまえ、エスヴェルンの!」

 エアリアも驚いた。

「カサン教授!?」

 床に座り込んでいたアートランが足で空を蹴った。

「狭いよここ」

 追い立てられてカサンともうひとりが船室に入って行った。アートランとセレン、エアリアが続いた。操縦室では、リィイヴが前面モニタァを見ながら、水門から出ようと操舵管を動かしていた。

「外に出るよ」

 リィイヴが後ろを見ないで言った。

「リィイヴ、おまえ…」

 リィイヴがちらっと後ろを振り返って、眼を見張った。

「カ…カサン教授?!」

「前!」

 誰かが声を上げた。モニタァに水門が迫っていた。リィイヴがあわてて操舵管を大きく動かした。

「わっ!」

 艦体が大きく揺れ、操縦席に座っていたリィイヴ以外は足元をふらつかせた。だが、なんとかぶつからずに水門を通り抜けた。

「あと何ミニツ?」

 リィイヴがエアリアに尋ねた。

「あと十ミニツくらいです」

「マリィンが脱出できていないかも」

 カサンが隣に座って音波探知装置で周囲の状況を見た。

「アンダァボォウトが三艦、マリィンの影はないな」

 まだ出航できないのだ。

「マリィンの起動システムを動かせるのは、艦長だけだ、あのマリィンの艦長は所長だから」

 カサンと一緒に来た男がカサンの後ろから探知装置のモニタァを見て言った。アートランがつぶやいた。

「所長ってやつはたぶん、仮面が始末した」

 マリィンにはおそらく百名近く乗艦しているのでは。

「キャル・ドゥの水門、開いてるから、入れる」

 リィイヴがキャル・ドゥに艦首を向けた。

「わたしのクォリフィケイションでは動かせないぞっ!」

 カサンがリィイヴの横顔を睨んだ。

「大教授の小箱があります、これならできますよ」

 キャル・ドゥはすぐ隣だ。前面モニタァにも光の四角が見えた。

「行くなよ、どうせ、ここで助かったって、仮面が始末するんだから」

 アートランが言った。

「テクノロジイを捨てても生きたいというヒトがいるかもしれないよ」

 自分のようにとリィイヴがアンダァボォウトを水門から中に入れた。水門を閉じ、ドーム内の気圧を下げた。

「レヴァード、おまえ、リィイヴと行って、マリィンの蓋を開けさせてくれ」

 カサンがリィイヴだけでは不審に思うだろうと、一緒に来た男に言った。

「そのまま、マリィンに乗っていけ」

「カサン、あんたも行けよ」

 アートランが背中を押しやった。カサンが戸惑った顔をしてすぐに動かなかった。

「時間ないよ、カサン教授は後からでも合流させればいいから」

 リィイヴがレヴァードという男と外に出た。操作室から何かで連絡を取ったようで、マリィンの口が開いた。ふたりがマリィンの中に入っていく。すぐには出てこなかった。

「後五ミニツ…」

 エアリアが心配そうにしていたが、急に外に飛び出した。マリィンの口の上に飛んで行く。リィイヴの頭が出てきて、手を伸ばした。エアリアがその手を取り、引き上げた。その後から先ほどの男も出てきた。ふたりが出ると、マリィンの蓋が閉まった。

「このヒト、カサン教授に話があるから、あっちに乗るって」

 エアリアが眉をひそめていたが、しかたなくその男も抱えた。

「この魔導師、女か…」

 レヴァードが抱えられて胸が当たるのに気づき、しげしげとエアリアを見た。

 マリィンが沈み出した。三人が戻ってすぐにアンダァボォウトも潜って水門を出た。マリィンから離れるように進路を取った。

「時間です」

 エアリアが言うと、リィイヴが見えないながらも後ろを振り返った。

「消えていくのわかる?」

 エアリアに尋ねると、黙って顔を伏せた。

 わかるのだろう。全てが消えていくさまが。

 海底研究所マリティイムは、一〇〇〇〇セルの深海から消え去った。

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