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第181回   イージェンと極南島《ウェルイル》(4)

 バレーと精製棟をレェベェル6で待機させ、『ユラニオゥム弾道ミッシレェ』を発射するとアルティメット・ヴィルトに『脅し』を掛ける。その後は、牽制しつつ、ヴィルトの寿命が尽きるのを待つ。

 あと五年。うまくすれば、その前にヴィルトは死ぬ。できるはずだ。

 マシンナートを追い詰めるな、追い詰めるとかつてのようになるぞと脅せばいい。

ヴィルトは千三百年前、泣いてすがったパリスを殺せなかった。同じことはできないが、アーレで消し去ったものたちのことで責めればいい。今まで殺した何十億ものマシンナートのことを思い出させればいい。殺戮者のくせに変に情に弱いのだ。

 パリスが個人通信で腹心のレヴィントに通信を送り、発言させた。

『さきほど、第二大陸のパミナ教授の情報待ちであることは説明していますので、レィベェル6のままでよいと思います、それほど時間はかからないでしょう』

 エヴァンスがどこで『隠し球』を出そうかと思案した。このまま最後までしらを切りとおすつもりならば、最後の最後に暴露したほうがいいかもしれないが。

 エヴァンスのモニタァ上に個人通信の白い四角が届いた。

『アルティメット死亡、信じます?』

 友人のタニアからだった。返信した。

「レェベェル7でも生きていると?」

 古くからの友人だが、慎重に返した。

『ええ、そのくらいで死ぬはずないわ』

「それは単なる感想だな」

 タニアがそうだけどと返してきた。

『わたしはアルティメットが死んでいるほうがいいと思うのよ。パリス議長に使用権限を与える必要がなくなるから』

 エヴァンスがなるほどと考えなおした。生きていたら、恫喝のために使用権限を認めるものもいるだろう。死んでいるなら、素子相手にそこまでのアウムズは必要ないと反対できる。

「そうだな。ここは死んでいるというパリス議長の主張を逆手にとろう」

 タニアが了解した。

 壱号議題は承認を得た。

 弐号議題。いよいよ佳境だった。

「弐号、素子牽制のための『ユラニオゥム弾道ミッシレェ』発射決議にはいる」

 質問、タニアが真っ先に発言した。

『素子牽制とのことですが、アルティメット死亡しているなら、素子にそこまでの恫喝は必要ないのでは』

 続いて、別の議員からも意見が来た。

『わたしもユラニオゥムまでの導入は必要ないと思いますね。素子は全員合せても三百人程度と目されています。しかも、その異能の力のレェベェルはさまざまで、飛行力がないものもいるのですから』

 レヴィントがパリスからの通信を自らの意見のごとくに発言した。

『素子たちがもっとも恐れること、それがユラニオゥムによる地上の汚染です。素子たちにはもっとも効果的ですから、実際に使用するかどうかは別として、いつでも使える状態にしておく必要はあるのでは』

 この男は、パリスの『犬』だ。

 ここからでは見えないが、パリスの満足そうな顔が浮かぶ。

 エヴァンスが発言した。

『現状、ユラニオゥムを弾道ミッシレェに回す余裕があるのかね』

 第二大陸の精製棟が消滅したなら、ユラニオゥム精製は第三大陸だけで行うことになる。ラカン合金鋼の精製の火力と第三大陸のバレーの維持、マリィンの動力源でぎりぎりではないのか。再生処理システムはまだ稼動していないはずだ。

 パリスがエヴァンスの発言に不審を抱いた。

…アーレが消滅しているのだから、精製量はむしろ余ると見るのが普通だが…

 まさかなと、副議長に報告させた。

『アーレ消滅により、その分を回しますので、まったく問題はありません』

 これまでまったく発言しなかったセラガンという議員が発言した。

『パリス議長は、素子と交渉するつもりのようだが、以前主張していたように全弾打ち込んでしまえばよいのでは』

 パリスも答えに窮した。もちろん、できればそうしてしまいたい。しかし、アルティメットが死んでいない今、それをやったらアルティメットは死ぬ前にマシンナートを全滅させるだろう。こちらがそれを先にやってはまずいのだ。セラガンが続けた。

『わたしはユラニオゥム使用には反対ですが、素子と交渉などというばかげたことよりはましだと思いますよ』

 セラガンは素子の存在を特に嫌っていた。物理的に証明できない『魔力』など存在してほしくないのだ。

 パリスがようやく応えた。

「素子と交渉するわけではない。あちらに選択の余地はない。逆らえば容赦なく発射するだけだ。そのためにも、いつでも使えるようにしておきたい。理解してくれ」

 セラガンが礼を言った。

『お気持ち分かりました。ありがとうございます』

 パリスは質問を打ち切りたかった。すぐに採決を取ってしまいたい。

 キャセルが発言した。

『ユラニオゥム使用は必要ないと思う。せっかくアルティメットが清浄化してくれた地上、脅しのためとはいえ、使用許可を出してしまうと、使わなくてもいいところで使うことになりかねん』

 タニアが続いた。

『キャセル議員に賛成ですわ。千三百年前の過ちをまた繰り返すことになりかねません。独断を許す状況にしてしまうことはまずいですし』

 パリスが珍しくかっとなった。

「わたしが独断でユラニオゥム弾道を使用するとでも言うのか」

 エヴァンスはパリスがいらだってきたのを感じていた。

 クロゥセィがやや呆れたように言った。

『なにもパリス議長のことを言っているのではないと思うが』

 クロゥセィが聞こえるほどのため息をついた。

『議決権はないが、バレー議長たちの意見も聞いてみたい、実際地上に打ち込むとなると、バレーにも影響があるだろう』

 副議長のクィスティンが別室でこの様子を見ているバレーの議長たちに声をかけた。

『ユラニオゥム使用についてのご意見のあるものは』

 アーレ議長ニーヴァンが発言した。

『わたしは実際にアルティメットの攻撃を受けまして、その恐ろしさを体験しました。素子だけになったとはいえ、異能の力に対抗するための大規模破壊兵器は必要です。使用については慎重を期すとして、パリス議長に一任したいです』

 バレーの評議会ではまとまらない可能性があるのでと言い訳をした。パリスが口はしをあげてほくそえんだ。ニーヴァンの発言は実際に体験したものだから、かなり有効的だ。

 だが、第五大陸バレーの議長ローイェンが発言すると空気は一変した。

『今回のアルティメット攻撃のきっかけを振り返っていただきたい。持たざると約束したものを持ったからです。わたしは、ユラニオゥムはラカン精製炉のみに使用したらどうかと思うくらいです。素子相手に大規模破壊兵器は必要ありません。たしかに何名かの素子の異能の力は侮れませんが、ほとんどはたいしたことないんですから』

 第四大陸のリセッツも同意した。

『タニア議員のご意見に賛成です。千三百年前の過ちを忘れてはいけないと思います』

 パリスが個人通信でディゾンに連絡した。

「まとめられなかったんだな」

 ディゾンが返信した。

『すまない、やはりわたしでは…』

 きっと『泣きべそ』をかいているのだろう。ここまで役に立たないとは思わなかった。こんなヤツは早く投げてしまって、トリストをバレーの議長にしたかった。

「もういいから、あなたの意見を発言してくれ」

 先に第三大陸のジーントスが意見を述べた。

『わたしもユラニオゥム弾道使用には反対です。通常弾道でもシリィの王都は破壊できます。それどころか、白光空弾装備のリジットモゥビィルでもたちまち全壊しますよ。むしろ、その分のユラニオゥムを利用してマリィンやバトゥール(戦艦)を増やすべきです』

 ディゾンが第一大陸のニーヴァンに賛同すると短く言った。

…まったく、もっときちんと主張してくれ。

 パリスがいらだち、テーブルに拳を押し付けた。

…しかし、所詮、バレー議長の意見など参考にすぎん。評議会の決議ではこちらが多数派だ。

『バレー議長たちの意見も聞いたことだし、決議する』

 決議には議長も一議員として投票する。全員、手元のボォオドで投票した。結果がモニタァに表示された。

 使用賛成 七票

 使用反対 八票

「ばかな…」

 パリスが絶句した。誰が反対票を入れたかはわからないが、何人か造反したものがいるのだ。

 アンディランがエヴァンスに個人通信を送ってきた。

『やったな』

 エヴァンスが発言した。

「この結果を受けて、私の主張を述べよう」

 パリスが唇を噛み、硬く握った拳を震わせた。

…エヴァンス、みんなを丸め込んだな。

「地上には啓蒙をもって進攻すべきだ。敵は素子のみ、シリィたちはむしろ犠牲者だ。われわれが救ってやるべきものたちだ。シリィたちは善良で従順だ。学院のない地域であれば、テクノロジイの有益性を知ると喜んで受け入れる。アーレでのユワン教授のミッションもあと一歩で成功したはず。かならずテクノロジイを受け入れる国がある。素子たちを排除するのは、われわれではなく、シリィたちの意思で行うべきだ、われわれはその手助けをしてやればいい」

 アンディランとタニアが拍手をした。他の議員たちも続いた。パリスが個人通信でディゾンに命じた。

『アルティメットが生きていることを言え』

ディゾンがすぐに返信しなかった。

『言うんだ』

 ディゾンが発言要求の釦を押し、許可された。

『第三大陸のユラニオゥム精製棟が、アルティメットによって消滅しました。アルティメットは生きています…』

 バレー議長の部屋で他の議長たちがみんな腰を浮かせた。

「知ってて隠していたのか」

 ジーントスが険しい眼を向けた。ディゾンが縮こまっていた。

 会議場でも重苦しい空気になっていた。パリスが口を開いた。

「アルティメットが生きていたとなると、やはり『ユラニオゥム』使用は必要だ。追い詰めるとふたたび悲劇が訪れることをアルティメットに知らしめる必要がある」

…これで賛成せざるを得ないだろう。再決議すればいい。

 副議長のクィスティンに言わせた。

『今の情報にもとづき、再決議の要請をします』

 だが、エヴァンスがそれを遮った。

「アルティメットが生きているなら、なおさら、『パリス誓約』を持ち出すべきだ。『ユラニオゥム』アウムズを廃棄し、開発使用を推進した指導者を罷免したと申し出る。アルティメットに恫喝はむしろ逆効果。アルティメットとの交渉など不愉快ではあるが、そのうちに寿命は尽きる。残る素子など、問題ではない。受け入れない国に対しても、わたしの推進する啓蒙ミッションの範疇での非『ユラニオゥム』アウムズで十分対抗できる。」

 タニアが賛成と叫んだ。

『それが一番消耗も危険性も少ない計画ですわ』

 アンディランはじめ他の議員たち何人かも賛同した。

 エヴァンスが提議した。

「評議会運営細則第二十五条第二項に基づき、パリス議長罷免を提議する。それをもって、アルティメットと交渉する」 

議題決議において、議長が投票した議題が否決された場合議長罷免提議ができるのだ。

 …ザンディズ議長、ジェナイダ、やっとふたりの無念を晴らすことができる。

 エヴァンスは、今はもういないふたりを抱きしめる代わりに、ジェナイダの息子を抱きしめたいと胸を熱くした。

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