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イージェンと空の船《バトゥウシエル》(5)

「大丈夫なのか、電源入れると自動的に発信するとか」

「それはないと思うけど」

 プライムムゥヴァの中にわずかな波を感じるが、遠くまで飛ぶようなものは発信されてはいないようだった。

「大丈夫そうだ」

 イージェンが指を離した。リィイヴが三の大陸の地図があればと言うので、ダルウェルがイリィの荷物の中にあったと借りに行った。

 イリィはすでに休んでいたので、起こさずにそっと借りてきた。箱をどけ、地図を広げた。四人とも立ち上がり、上から覗き込んだ。エアリアが差し棒をリィイヴに渡した。

「このブワァアトセンダァルがどこから盗まれたものかはわからないけど、もしこの海岸沿いで使うとしたら、近くにトレイルがいるか、あるいは…」

リィイヴがその差し棒の先でセラディムの海岸およそ二十カーセル沖合いあたりに線を描くようにたどった。

「この付近をマリィンとかアンダァボォウト…マリィンより小さい潜航艇が浮上しているときになる。これが届く範囲は障害物がなくてせいぜい二十カーセルだからね、出力…発信する力があまり強くないんだ。トルワァのミッションがどうなっているかわからないけど、定期的に周回しているのかもしれない。それから」

 大陸のある場所をトンと指してから、そこを中心にぐるっと円を描いた。

「この範囲内」

 イージェンはその場所が何を示すかわかる。リィイヴが中心をトントンと叩いた。

「ティケア・トルワァ、この大陸のバレー」

 ダルウェルもエアリアも穴が開くほどその場所を見つめた。

 イージェンがリィイヴに仮面を向けた。

「トレイルでも受信できるのか。おまえの乗っていたトレイルではどうだった」

 首を振った。

「この型のセンダァルからの受信なんて聞いたことはない」

 隠していることもありうるがと付け加えた。

「マシンナートが潜入してるってことか?」

 ダルウェルが参ったなという顔で頭をかきむしった。

「もしマシンナートだったら、こんな単純な発信機じゃなくてもいいんだけど」

 これはひどく簡単なものだ。電源を入れてどちらかを押す。何分かしてから自動的に発信が終わるので、電源を切ればいい。どこで会うかはあらかじめ打ち合わせしていなければならないが。リィイヴが箱を裏返して、小さく書かれている数字を示した。

「これは製造番号で、今から五年前に作られたってことはわかるけど、ここではそこまでしかわからない。このプライムムゥヴァを動かしている動力源はリスィテ電池で、寿命は三年から五年」

 ベェエスのデェイタで走査すれば、作られた工場棟などもわかるという。イージェンが裏の番号を見てから言った。

「いずれにしてもマシンナートを呼び出すものだ、シリィの情報を提供するものがいるんだろう」

 大魔導師の動向などはそういったところから得ているに違いない。おそらく各大陸ごとにいるだろう。

「盗まれたやつは今頃青くなってるんじゃ…」

 ダルウェルが窓の外に目をやった。

イージェンが買った店の場所と状況を書くよう、紙を出した。地図を片付けて、インク壺を出した。リィイヴが市場の地図を書き出した。船着場から地図の店までの間をいくつか区切り、店で扱っていた品物を書き記した。その中のひとつに二重丸を描き、店主の特徴を書き、そのときのやり取りの再現を書き足した。

「その娘、店を見張っていたとか…ないか?」

 イージェンが尋ねた。もしや、『餌』かもしれないと思った。

「むしろ、ぼくたちを追いかけてきたのかもしれないね、踊りをしていた場所とここは別の区画だし」

 別の紙に区画を書き始めた。王都の水路図の一部で、丁寧で正確な図面だった。ラウドと水路図を見ていたので覚えていた。

「ここが踊りをしていた場所で…こっちが売っていた店がある場所、別の区画だけど、船でなくても橋をふたつ使えばここまでこられるね」

 区画の間で狭い水溝には橋がいくつか架かっていた。ダルウェルが感心した。

「うーん、いや、これはなかなか見事だ、たいした記憶力だ」

 記憶力と先読みを競うラ・クィス・ランジが強いはずだった。

「これをアリュカに送って、詳しく調べさせよう」

 イージェンも羽ペンをとり、インクをつけずに書いた。

 少しは休もうとダルウェルがリィイヴとエアリアに言った。エアリアがラウドから頼まれたことを話した。

「絹糸を買っていかないと飾り手巾が縫えないのです。エスヴェルンの王宮にはほとんどないので、アルディ・ル・クァの港市場で買って来たいのですが、お許しいただけますか」

 イージェンが許した。

「リィイヴ、おまえも一緒に行って、道具屋とかのぞいて来い。まあ、そんなにあちこちにあるわけはないが」

エアリアが露骨に嫌な顔をした。リィイヴも困ったが、イージェンがかまわず伝書をまとめて、魔力で圧縮して折り畳み、小さな筒に入れた。

「アリュカに送れ」

 エアリアに渡した。ダルウェルと三人、お辞儀して下がった。

 

 翌朝、リィイヴが厨房をのぞくとすでにイージェンがひとりで朝飯の支度を終えていた。

「どうした、寝てないようだが」

 目が真っ赤なのだろう。あわててリィイヴが擦った。

「少し考えごと…あのセンダァルのこととか、いろいろ」

 ほんとうはエアリアのことを考えていて、眠れなかったのだ。やかんから杯に白湯を入れ、なにかちろちろとまぶした。

「俺は、シリィとマシンナートの間に繋がるものなどあるわけはないと思っていた…マシンナートはシリィをヒトとして見てないしな」

 少なくともヴィルトやイメインの記録にもそのような記述はない。その杯をリィイヴに寄こした。受け取り、熱さに気をつけて口をつけた。

「ヒトとして見てないっていうのは、インクワイァくらいだよ。ワァカァは、テェエルのこと、ほとんど知らない」

 口に含むと、ただの白湯のはずなのに、ふわっと花のような香りが広がって、頭がすっきりとしてきた。

「おまえは両方の事情を知っているからな、とても参考になる」

 リィイヴがコクッと顎を引いた。イージェンの助けになれば、それでいいか。エアリアと仲良くしたいけれど、ラウドと争うことなどできるわけもないのだ。レクチャーが必要なときはすればよいのだし。

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