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国作りをしよう  作者: 廉志
第一章 村作りをしよう
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第八話 ドワーフに会いに行こう



宿屋の店員の誤解を解くのには苦労した。

何を言っても「分かっていますよ、うふふ」と受け流す店員に、最終的にはトールの自腹で部屋を別々に取ることとなってしまった。



「食料は買いましたし、あと必要なのは……」


翌日、馬車に買った食料を積み込みトールたちはある家……というよりは工房のような場所に来ていた。


「ここですね」

「……なんだここ? 薄汚いところだな……」

「薄汚いとはあんまりじゃなぁ、お嬢さん」


イリーナが見たままの感想を述べると、いつの間にかイリーナの隣に小柄でひげを大量に蓄えた老人が姿を現していた。

しかも、老人の手はイリーナの尻を捕らえ、撫でていた。


「…………っ! きゃあっ!!」


普段は男と間違えるような口調のイリーナ。しかしそこはやはり女性ということもあり、黄色い悲鳴を上げ……老人を蹴り飛ばした。


「ぐあああっ!!」


きれいな放物線を描いて吹き飛んでいく老人。

すさまじい音を立てて地面に吸い込まれていった。


「お久しぶりです。グルジットさん……大丈夫ですか?」

「ひ、久しぶりじゃなトール君。そちらのお嬢さんもなかなか良い尻をお持ち…………ガク」


イリーナの尻を褒め称える老人だったが、吹き飛ばされた衝撃で絶命……








◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「いやいや、真に素晴らしい尻じゃった」


……しなかった。

吹き飛ばされた衝撃で気絶してしまった老人。だが、数秒と経たずに立ち上がり、何事もなかったようにトールたちを建物の中へと案内した。

建物内は外から見たとおりの工房のようだった。鉄を溶かした物や、木を曲げてある物などが置いてあり、それらを数人の職人らしき男たちが加工していた。


「蹴られ足りないようならもう一度宙を舞ってみるか?」

「なんじゃ、冗談の通じんお嬢さんじゃなぁ。老人には優しくするものじゃぞ?」

「女性の臀部を触ると言うのもどうかと思いますよご老人」


ジェイクが呆れたように言った。ただし、その顔は少し赤くなっており、ジェイクが初心な事を現していた。


「……ふむ、ダークエルフの坊やもつまらんことを言うのう。若いのじゃからもう少しがっついてもよいのではないか?」

「…………グルジットさん、そろそろ本題に入りましょう」

「おお! そうじゃったな。注文の品は出来上がっているぞ?」


トールに急かされると、グルジットは床に置いてある布を引っぺがした。

すると、金属でできている変わった形の物体が姿を現した。


「確か……『ポンプ』という物じゃったな。相変わらず変わった物を思い付くものじゃなぁ」

「いえ、グルジットさんこそいつも通り良い仕事をなさいます」


『ポンプ』と呼ばれた物を一通り見回した後、トールは「うん」とうなずいてから懐から数枚の羊皮紙を取りだした。


「それでは次はこれをお願いします。お代の方はいつも通り……」

「分かっておる。『銀行』から必要な分いただくつもりじゃ」


いつも通り、とトールが言ったことからこのやり取りは何度か行われたことが分かる。だが、事情が分かっていない上、聞きなれない『銀行』という言葉にイリーナとジェイクは首を傾げた。


「『ぎんこう』って何だ?」

「なんじゃお譲ちゃん、トール君の傍にいて知らなかったのか? 『銀行』はトール君が作った制度のことじゃよ」


「制度を作った?」とイリーナとジェイクは首を傾げた。

制度なんてものを作るにはどう考えても通常の人間に出来る訳が無い。もちろん、二人ともトールのことをただの人間と思っているわけではないが、それでも制度を作ることができるほど影響力がある人間だとは思っていなかった。


「『銀行』というのは、簡単に言えばお金を預ける仕組みのことを言います。出し入れの際手数料というものが生じまして、その一部が僕のお金になっています」

「なるほどねぇ……それがあんたの資金源って訳だ。けど、この『ぽんぷ』も含めてだけど、一体いくつの発明をしているんだ? 優秀とか利口とかじゃ済まないだろう?」

「い、いえ……発明といっても十数個程度ですよ? それに、そのほとんどはメルカトラム家に手伝ってもらって……」


メルカトラム家。

そう言った直後、トールはハッとして口をつぐんだ。

誰から見ても不自然なその態度に、今までトールの素性について聞かなかったイリーナ達でもさすがに気になった。


「メルカトラム家……どこかで聞いたことがある気が……」


ジェイクがそうつぶやくと、観念したのかトールが話し始めた。


「……メルカトラム家は昔、僕がお世話になっていた家です。商業の名家だったので、発明品などの普及に手を貸してもらっていました」

「ああ! どこかで聞いたことがあると思ったら……確か三年前に『教会』に逆らって滅んだ家ですよね?」


ジェイクが何かに納得した様子だ。

奴隷というものは基本的に学が無い。『元』奴隷であるジェイクも例外ではなかった。

世界の奴隷市場を取り仕切っている『教会』。その法律に「奴隷には教育を施してはならない」という物がある。

それによって、仕事に必要な最低限の知識や、噂として耳に入ってくる情報くらいしか奴隷には情報が回ってこないのである。イリーナのように読み書きができると言うのは極めて稀な例であった。

そして、耳に入ってくる噂も、もっぱら奴隷に関することと『教会』に関することのみであり、ジェイクがメルカトラム家に関して知っていたのもこのような理由からだった。


「『教会』の法令を違反して、しかも私兵を動かして反乱を起こしたとか……」

「……すみません。それ以上は聞かないでください」


あまりに……そう、あまりに重い口調でトールが言った。

その顔は何か思いつめたような、泣きそうな、とにかくとても暗い表情をしていた。

そのあまり浮かべないトールに、イリーナにジェイク、そしてとばっちりでその場にいたグルジットは息を飲んで会話を止めるしかなかった。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「それじゃあ、次に来るまでには新しい発明品を作っておくよ」

「はい。よろしくお願いします」


結局、少し空気の悪いままグルジットとは別れることになった。今は別れの挨拶をしているところだ。


「…………しかし、ワシももう歳じゃし、トール君が来る時まで体がもつかどうか……」

「そんなこと言わないでください。まだまだ元気でやっているじゃないですか」

「ふ~む、元気なうちはまだいいが……そろそろ後継者も見つけないとならんしな」

「ああ……『ドワーフの誓い』ですか……」


ドワーフ。

この世界には人間、獣人族(ビストロイド)、エルフにダークエルフ。そしてもう一つ、ドワーフと言う種族が存在する。

だがはるか昔、人間と世界の覇権をめぐり対立していたドワーフは最終的に人間に敗れ、種族そのものが滅んでしまった。

しかし、その体力と手先の器用さが重宝され、少数であるが現代までその子孫が存在している。


「全くもってめんどくさい。『同じドワーフの血を引くものにしか技術を教えてはならない』など、変な制約を設けおって! おかげで弟子たちにまともな技術を教えられん」

「確かに、変わった制約ですが……技術が乱用されないためには必要だったのでしょう」

「……はあ、トール君。誰かドワーフの血が流れている者に心当たりは無いか? 人より力持ちだったり、手先が器用だったり……」

「ドワーフの血縁者……ですか。残念ですが心当たりは……」


トールが知る限りドワーフの知り合いはいない。にもかかわらず、頭には村にいるある人物の顔がよぎった。




「がっはっはっは!!」という笑い声をあげる村人……




「もしかしたら、ですが……心当たりがあるかもしれません」


トールの頭によぎった人物……ダリスだった。









どうも、廉志です。

専門ではないジャンルに挑戦してしまい、現在四苦八苦しています。

皆様からの感想も、ネタバレになるものもあるので返信は出来ていませんが、大いに参考にさせていただいていますのでありがたいです。


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