プロローグ
もう一つの作品をほっぽり出しての投稿です。
もちろんそちらも更新しますが、息抜きにもう一つ作品を書きます。
色々調べながらの小説ですので、間違いも多々あるでしょうが、生暖かい目で見ていただくとありがたいです。
イリーナ=マグダウェルは奴隷だった。
夢も希望もない。
剣を携え、魔法で悪人をなぎ払い、奴隷を解放してくれる勇者なんてものもいない。
あるのは現実だけだった。
目の前には私腹を肥やし、腹に肉を蓄えた貴族達。
労働力を欲し、身なりだけはきれいな大商人。
それがイリーナをなめ回すように見ている。
ここは奴隷の競市場。
この世界で最大の奴隷の売り買いがされる『ケミファ』と呼ばれる大都市。
その中の小さな市場にイリーナはいた。
「さあお集まりの皆々様!! 本日の商品、一番はこちら! 獣人族、イリーナ!!」
横に並ばされている奴隷達から、イリーナが客達の前に引きずり出される。
その姿は痩せこけ、口元には大きな傷。獣人族にあるはずの頭の上にある猫耳は片方がちぎれてしまっている。しかも、十六、七と言った年頃ではあるがその体は栄養不足のためかお世辞にも色気があるとは言い難い。
「さて、この商品。見てくれは傷物ではございますが正真正銘の生娘にてございます。性奴隷として楽しむも良し! 獣人族としての身体能力を使い、労働奴隷として使うのもまた良し! ただ……先ほど申しました通り、見てくれが良くありません。ですので! 通常の獣人族が千五百オルカするところ……なんと!! 五百オルカからの開始とさせていただきます。さあ!! これより競売をはじめます!!」
競売が始まった。
貴族や大商人が次々に値段を言い始める。
「六百オルカ!」「六百五十!」「八百オルカ!」
一気に八百まで値段をつり上げる貴族。その言葉に他に競っていたもの達が一斉に手を下ろし始めた。
傷物ということもあり、イリーナに金を出す人間はあまり多くなかったのだ。
「八百! 八百オルカ!! 他は? 他にはいらっしゃいませんか!?」
司会者が会場の人間に確認を取る。
八百オルカ以上の金を出そうとするものはいなかった。最後に値を提示した貴族は下卑た笑みを浮かべている。恐らくはイリーナを性奴隷にしようとしているのだろう。
「いらっしゃいませんね!? それでは八百オルカで決……」
司会者が決定の小槌を振り下ろそうとするそのとき……
イリーナが自らの運命をあきらめようとしたそのとき……
会場にいた一人の青年が値を提示した。
「二千オルカ」
その風貌はまったくこの場には似つかわしくない。
黒髪に眼鏡をかけ、ボロボロのマントを羽織った、商人とも貴族とも思えない風貌。見た目の年齢としては二十五、六だろうか……
「はっ……? 今、なんとおっしゃいましたか?」
司会者が自分の耳を疑い、その青年に聞き返す。
すると、再度はっきりした口調で青年は答えた。
「二千オルカ」
青年の提示した値段に、先ほど笑みを浮かべていた貴族は黙り込んだ。
青年が出した値段は正規で獣人族を購入する値段よりも高い。そんな値段で買えば競売をしている意味が無くなる。しかもわざわざ傷物を買う必要も無い。
「そ、それでは! 二千オルカでイリーナ……落札でございます!!」
今度こそ司会者が小槌を振り下ろした。会場に甲高い音が鳴り響く。
こうして、イリーナ=マグダウェルは一人の青年によって買い取られたのであった。