二、
昼休み、すっからんと開いてしまった窓際の席を見つめながら少女は、御山菫は、ポカンとした表情をしていた。
「あれ、彼、いなくなったの?」
菫と部活が同じ同級生が、彼、優がいなくなったことに気づいて、からかうようにいってきた。それに首をかしげて立っている彼女に目を移した。
「彼ってなによ」
「付き合ってんじゃないの? お二人さん」
「なわけないでしょう。どうしてそんなこというの……」
「だって、そうでしょ。傍から見たらそういう風に見えるよ?」
「馬鹿いわないで」
ため息混じりにいう菫に同級生はからかいの笑みを浮かべながら肩をすくめる。
「だって、そういう噂だよ?」
「でま、だよ。まったく、そんな事実も根拠もないような事なんで流すかな」
「あんたは嬉しくないの?」
「あっちが困るでしょ」
「あんたはどうなのよ」
質問返しに質問で返されて、意味がないと思って、深くため息をついた。別に優に対して恋愛感情を持っているというわけではないのだ。いつも、話し相手になってもらっているだけで、それだけなのだ。
そういうと、おもしろくないなと同級生はいって唇をとがらせた。
「だって、寂しいでしょ」
「だれが?」
「鬼無里君」
「どこが?」
「なんとなく」
そういって、ふと優の横顔を思い出した。どこか思いつめたような強い瞳。淋しげな瞳。無表情の中にでも少しは混じる、郷愁と、寂しさ。それをいつの日からか感じ取っていた。
「なんとなくって、どういうことよ」
「うーん。言葉にしにくいんだけどなあ。なんか、隣の席になってから気づいたんだよね。たまに、淋しそうな顔してたり、悲しそうな顔してたり」
「まあ、笑ってるとこなんて見たことないもんね」
その言葉にうなずいた。同じクラスになってからのこの五ヶ月、どんな学校行事の中で、彼の笑顔をいうものを見たことがなかった。
いつも、つまらなそうに、外を見て、雨の日は、今日のように昼休見に早退して、晴れでも、憂鬱そうにため息をついて、黒板をぼんやりと見ているだけだ。
だから、鉄面皮とも仮面野郎だのと呼ばれているのだ。本人の耳に届いているのに気づいていないのはただの馬鹿だろう。問題は、彼は、そう呼ばれてもくだらないと一言で一蹴してしまうことだった。
「でも、いくら年上だからって、ああいう風に大人ぶられるのもね」
「仕方ないよ。だって、あたし達だって、そうね、多分二つ上ぐらいだとおもうから、中二の連中に混ざってみなよ」
「やだね」
「と同じ状況だと思うよ。最近、学校辞めようかなとかいってるし」
「へえ」
一度も聞いたことのない言葉の種類に同級生は目を丸くさせている。ただ、言葉が少ないのではなく、自分から話しかけないだけなのだ。人見知りというよりは、それすらもめんどくさいと思っていそうな優は、たまに、菫がいったように漏らすのだ。
「でも、仲よさそうに見えるよ」
「そうかな」
ただの友達なんだけどねといいつつ肩をすくめるとちょうど、予鈴が鳴った。次は数学A、古典、現代社会と続く。昼寝タイムと笑って、今朝、優に咎められたにもかかわらず、開いていない教科書に顔をうずめた。