一、
熱を測るが、熱はないのがいつものことだ。
だが、この頭痛は雨の日に出てくるのだ。
一種の心的外傷だろうなと自己分析をして借りたベッドに寝そべった。このまま寝ても、うなされ、頭痛が酷くなる一方だと判断して白い天井を見上げていた。
かすかに聞こえるのは雨の音と、リラクゼーションのために保健室で流れている、胎教用のようなオルゴールの音だ。
ぼんやりとありもしないこと、今までのこと、これからのことを考えていた。そろそろ、学校辞めても良いかなと思いっていると左手がびくりとひきつけを起こした。
右手でそれを押さえ込んでもびくびくがたがたと肩も波打つ。
手首をきつく握って収まるのをひたすら待つ。
左手が刃を求めている。
そう呼んでいる現象だった。
「鬼無里君」
「はい?」
右手を振って握り締め、光をさえぎっていたカーテンのすきまから顔を覗かせると、保健医が優のバックを持ってきた。保健委員がつめて持ってきたらしい。どうやら早退しろということらしい。
「すいません」
「担任の先生にはいっておくから早く家に帰って横になりなさい」
いつもの言葉にうなずいて、バックを右手で持って左手を使わずに学校を出て行った。
優の家は、学校から歩いて十分の小さなアパートだった。1LDKのバス付き。家に帰ってベッドに倒れこむように寝そべって左手を一振りした。
かすかな風がその手を中心に沸き起こり、風が収まった時、そこには一振りの刀があった。
ようやく、左手が落ち着きを取り戻した。脱力したように頭を枕に預けて刀を抱えて丸くなった。
「塁」
かすかに漏れるのは、今は亡い親友の名。そして、この刀の本当の持ち主。
刀に縋るように握り締めながら、優は意識を失っていた。