五、
それを見て優が首をかしげる。意味がわからない。
「どういう意味だ?」
「せっかく面白い友人が得られたんだ。そう簡単に閻魔に渡しやしないよ」
「閻魔も友人の一人じゃないのかお前」
「その通りさ。閻魔代行もできる俺だ。ささっと死という事実を書き換えればどうにかなるさ」
どうやら、既成事実を作るらしい。恐ろしいやつだと思いつつ、こんなやつに恨まれたらどんな仕打ちをあの世でされるのかがわかったものじゃないと判断してため息をついた。なぜ、自分の周りには個性的なメンバーが集まるのだろうか。
思えば塁もこんな感じだった。
「じゃあ、行ってくる」
そういって、優は手を振った。差されたところはかなり遠い。だが、ふっ飛ばせばどうにか一時間弱でいけるだろう。
流を後ろに乗せて優はバイクをふっ飛ばしていた。目的の場所についても鬼の気配すらしなかった。
「逃げたな、こりゃ」
「ああ」
うなずいた流を尻目に辺りを見回すと、少しはなれたところに一人、だれが倒れているのが、見えた。
「だれだ?」
走っていると、携帯がなった。
菫からだった。
適当にあしらい、めんどくさくなってぶち切りしてその影に駆け寄った。
スーツを着込んだ男。その姿に見覚えがあると思いつつ、菫からの携帯の内容を思い出して、抱き起こすと確かにそれは、菫の叔父、峰也だった。
「峰也さん?」
最悪のことを覚悟して、呼吸を確認すると、意識を失っているだけらしい。
ふうと、ため息をついて、ぐったりしている、四十過ぎの男性だとは思えない若々しい顔を眺めやって目を閉じた。
「魔術抗争で負けたな。風が吹いたあとだ」
「……そうか。命には別状はないか」
流の言葉にうなずいて、峰也をその場に寝かせてジャケットをかけてやると携帯で応援を呼んで峰也を介抱させた。
そして、いなくなった鬼の行方に苛立ち、舌打ちをした。それと、菫の父、隆也のことも気にかかる。
「一度、あいつが封印してあったところに行ってもらえないか?」
と、流の要望にうなずいて、バイクでひとっ走りして、崩れた山の山頂に登った。
その山頂に、白妙の鬼の封印が為されている。否、山全体で封じていた。
ちょうど、山頂。山のてっぺんに三メートルほどの四方で下に向かっての穴が開いていた。そこから見えるものはただの闇。
「この山は、封印が解けて力の均衡が崩れたのか」
「ああ。みたいだ。……ん?」
闇に目を凝らしていた優が身を乗り出して中を覗く。なにかが見えた。
「中に降りられるか?」
近くにあった小石を中に投げると、意外に早くこつんと音が聞こえた。意を決して下に下りると、すぐに足がついた。
衝撃を膝で受け流して携帯の電気をつけて辺りを照らすと、粉みじんにされた祠と玄室のようなものが見えた。
注連縄が四方八方にまかれ、結界をなしている。
「これは」
同じく降りてきたらしい流がなにかを拾った。それを照らすと、雫型のペンダントトップがついたペンダントだった。
おそらく、水晶だろう。澄んだ光で周りの妖気を浄化している。
「この魔力は、塁のか?」
「……ああ。仕方ないかもしれん。塁はこいつに殺されたからな。その後魂を喰われても…………」
「魂は無事だ」
首をかしげると、この鬼に喰われる前に流が保護したらしい。今は、あの世で元気らしい。
「まあ、お前達が来るまで、冥官やってるのもいいとかいってたな。まったく、ノー天気もいいところだ」
知る術もないあの世での彼の生活にポカンと口を開けて聞いて、その直後に呆れたように深い溜め息を漏らした優は口をへの字に曲げて苦笑を隠していた。
「確かに、ノー天気だな。まったく、あいつは……」
「そうそう、伝言預かってた。呪物、一つ隠してあるから、探しといてくれだって。多分、お前に宛てたものだな。あと、彼女の分と、妹の分もあるって」
「自分で渡せこの馬鹿野郎」
「まったくだよ、めんどくさい」
こういう風に塁のことを話して笑いあえるのは何年ぶりだろう。
そう思いつつ、上に見える曇り空を見た。