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一、

 何故、二回も巻き込んだのだろう。

 菫に説明し終わり、家路についた優はそう考えていた。何故、二回も巻き込まれたのだろうか。

「……」

 むっとした表情の青年がMP3のイヤホンを耳に引っさげながらつかつかと街の歩道を行く。聞こえてくるのはヴィジュアル系の激しい音楽。

「…………」

 その激しいドラムスの音に脳内をかき乱されながらも、考えていた。

菫が巻き込まれるのは、その血のせいだろうかと。

 冷たい秋風が足元を横切っていく。思考に意識の大半を持っていかれても足は止まることはない。

 その血のせいで、彼女の兄は死んだ。

 彼女自身、優と同業者の血を引いていると知らないらしい。高校生になると同時に父母に縁を切られたらしいから、縁を切られたのは高校生になったからではなく、兄が死んだからなのだろうと思った。

 全ては自分が存在したから。

 イヤホンから聞こえてくる歌はなにかを喚きながら交錯的なエレキギターのハウリングを交えながら流れる。

 脳裏にあの日にいわれた言葉が再再生される。今もなお心をえぐる、あの一言。だが、そう思うのも仕方のないことだった。

『あんたが死んじゃえば良かったのよ』

 深くため息をついて、心の奥底に張り付いているその言葉を流して目を伏せた。そして、菫について、これからどうすればいいかを思った。

 今日、このネックレスを渡すつもりだった。いつも身につけている、菫の兄の、優の親友の、塁の形見。龍玉を模して、優と対照的に作られた、白玉を使った、自分の身を守るための守護の首飾り。

「……どうしたものか」

 渡すためには、塁と親友だったという事実を明かす必要と、塁が優と同じ職業についていたという真実を明かさなければならない。

もし必要になるならば、塁が死んだあの日の情景を、状況を説明しなければならなくなる。

 もう一年経ったのだが、それでも、まだ、苦痛だ。

 渡す機会を逃してしまったがいつか、上手く渡せればいいなと思いつつも、いつの間にかついていた家の前に立って家に入った。

 殺風景な部屋。

 だれが見てもそう思うであろうその部屋は、必要な家具、白くシンプルな小さい机と、テレビ台、小さなテレビ、白いソファーがポツリポツリと置かれている。

隣の部屋などはただ寝る部屋だ。

 ベッドが置かれ、黒い書棚が何個かと白いカラーボックスと小さなドレッサーが適当に壁に取り付けてある。

冷蔵庫などの家電は小さく、ストーブや扇風機は押し入れに突っ込んであるが、その押し入れでさえどこかがらんとしている。

 深くため息をついて財布と鍵を机の上に投げてベッドに横たわった。相も変わらずMP3は強い音色を奏でている。

 ベッドの反対側の壁につけてある棚の一番上には伏せられた写真立てがある。その傍らに、忘れ去られたように黒真珠の龍玉のネックレスがポツリとおいてある。

 目を閉じるとMP3の音楽のほかに、雨の音が聞こえた。いつの間にか降り出していたらしい。

 現実と、幻想。

 その境目をうろうろしているような人間が果たしてこのまま生きていていいのだろうか。

そう思いながら優はいつの間にか、眠りについてしまっていた。

 夢と、現実。

 その境目がわからないわけではない。だが、懐かしむべき夢も、身を苦しめる毒となりつつあるのだ。

今宵もまた、あの頃へと舞い戻る――。

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