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四、 

そう思って、ふと、なんで自分はこうも簡単に飲み込めているのだろうかと思った。いつもなら、半分も理解しないで首をかしげているところだろう。

「大体理解したか?」

 一つうなずいてお冷に手をつけた。ウェートレスを呼んで紅茶を頼んで待った。以上、話すことはないといいたげに温かいコーヒーに口をつけ始めた優を見つめながら運ばれてきた暖かい紅茶の暖色系の琥珀色にふっと表情を緩ませた。

「紅茶、好きなのか?」

 そう、嗜好を聞いてくる優も珍しい。私事だからだろうか。かなり人付き合いに関してゆるくなっている。

「うん。死んだ兄さんも好きでね。その影響かな」

 頬をかいてその紅茶の香気を吸い込んで目を細めた。砂糖もミルクも入れないで一口つけて目を伏せた。

一年前に、突然死んだ兄。兄が死んでから、菫は親に捨てられた。まだ、十五歳だったが為に、親に手を切られたのだ。

 そこまで親と仲が良かったわけでなく、傷つくということはなかったのだが、兄の死がとても響いた。その死因すら聞いたことがない。

「……そうか、すまない」

 少し、声の調子を落としていう彼も珍しい。なぜか、今日だけで、優の評価が変わりそうだった。あまり悪いイメージはないものの、人付き合いや、無愛想度で勝手に評価していたらしい。

「……俺の家に、紅茶があるんだが、飲むか?」

「え?」

「俺、紅茶よりコーヒー派だから、あんまり飲まないんだ。そのまましけらせるのももったいないし。まあ、もう一年も前のものだが、いろいろ乾燥剤だのなんだのって入れてあるからどうにかなってると思うが」

「いいの?」

「そのまま放っておくのもあれだからやるよ。どうせ、家に人を呼ぶことなんてないだろうし」

 学校の状況を見ればわかるだろう。自分でも自覚しているらしいその言葉にくすりと笑って付け合わせのレモンを絞った。

「まあ、たまに紅茶も悪くないが、少し、苦手でね」

「匂いが?」

「……うん、まあ、そんなところかな」

 少し言葉を濁した優に首をかしげつつもその首に揺れる華奢とも取れるネックレスに目を奪われた。

「ああ、あんまり見るな」

 と、さっさと仕舞われたが、錆びだと思っていたところがかすかに赤黒いのに気づいてしまった。

それを見なかったふりをしてもう一度紅茶に口をつけて気持ちを落ち着かせて目を伏せた。

「今日は、奢る。もう昼だから、なんかくいな」

 そういって、メニューを広げてもらって遠慮もなくパスタを指差して、優に呆れられたのはいうまでもないことだ。

 そして、優に昼食を奢ってもらい、帰った頃には序盤に話された非現実的な彼の日常をすっかりと忘れた菫は上機嫌で家に帰っていった。

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