さよなら、私のマリー・アントワネット
骨を拾う。
拾って、拾って、拾ってみて。
鼻につく、焦げた香りに、ふと身体が楽になる。
ああ。なんて、冷たい火なのだろう。
家に帰る。
空白になった一部屋が、胸の奥をゆら、ゆら、ゆらと揺らす。
お前はマリーだ!だから、私はお前が嫌いだったのだ!
無垢な心は、どんな穢れよりも腹立たしく、私のこころを狂わせる。
(Donne-moi cette tarte, mademoiselle.)
誕生日に、タルトをねだったあの脇役を、どうして好きになれようか。
誕生日に、私にたんぽぽをくれたあの脇役を、どうして嫌いになれようか。
あの愚かであどけないマリーの死をもって、私は枯れるのか。
テーブルに銀食器を並べ、ドリッパーに湯を注ぐ。
濡れたペーパーフィルターに、魔法の粉を振りかけた。
しばらくすると、乾いた香りに、鼻腔のカーテンが開かれる。
もうすぐ、もうすぐ。
冷蔵庫から取り出したタルトタタン。
お皿に乗ったそれを前に、私は席に着く。
口の中を支配する、ほろにがいキャラメリゼ。
酸味のある林檎。
ああ。マリーは、今死んだのだ!
少しだけ、解説させてくださいませ。
(Donne-moi cette tarte, mademoiselle.)
これは、妹の声を私が感じたように書いた言葉。仏語で「お嬢さん、タルトを頂戴」という意味でございます。妹が私をお嬢さんと呼んだのかは、分かりません。
私にとって、妹の言葉は子供っぽくて、気品があった。ただ、それだけなのかもしれません。なぜ妹の声をそのまま描かなかったのか。彼女の言葉を私がどう受け取っていたのか、みなさまのご想像にお任せします。
タルトタタンを食べて、私は彼女の死を見つめる。
マリー・アントワネットの死後、タルトタタンがタタン姉妹によって生まれたという説があります。その由来に着想を得て、日常の営みの中に、彼女の死を重ねました。二人のマリーの死を、一つのお菓子に背負わせた。タルトタタンは、このお話の核になっています。
ふと、思いついたので書いてみました。




