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さよなら、私のマリー・アントワネット

作者: 海倉レノ
掲載日:2026/10/20

骨を拾う。


拾って、拾って、拾ってみて。

鼻につく、焦げた香りに、ふと身体が楽になる。


ああ。なんて、冷たい火なのだろう。


家に帰る。


空白になった一部屋が、胸の奥をゆら、ゆら、ゆらと揺らす。


お前はマリーだ!だから、私はお前が嫌いだったのだ!


無垢な心は、どんな穢れよりも腹立たしく、私のこころを狂わせる。


(Donne-moi cette tarte, mademoiselle.)


誕生日に、タルトをねだったあの脇役を、どうして好きになれようか。

誕生日に、私にたんぽぽをくれたあの脇役を、どうして嫌いになれようか。


あの愚かであどけないマリーの死をもって、私は枯れるのか。


テーブルに銀食器を並べ、ドリッパーに湯を注ぐ。

濡れたペーパーフィルターに、魔法の粉を振りかけた。


しばらくすると、乾いた香りに、鼻腔のカーテンが開かれる。

もうすぐ、もうすぐ。


冷蔵庫から取り出したタルトタタン。

お皿に乗ったそれを前に、私は席に着く。

口の中を支配する、ほろにがいキャラメリゼ。

酸味のある林檎。


ああ。マリーは、今死んだのだ!

少しだけ、解説させてくださいませ。


(Donne-moi cette tarte, mademoiselle.)


これは、妹の声を私が感じたように書いた言葉。仏語で「お嬢さん、タルトを頂戴」という意味でございます。妹が私をお嬢さんと呼んだのかは、分かりません。


私にとって、妹の言葉は子供っぽくて、気品があった。ただ、それだけなのかもしれません。なぜ妹の声をそのまま描かなかったのか。彼女の言葉を私がどう受け取っていたのか、みなさまのご想像にお任せします。


タルトタタンを食べて、私は彼女の死を見つめる。


マリー・アントワネットの死後、タルトタタンがタタン姉妹によって生まれたという説があります。その由来に着想を得て、日常の営みの中に、彼女の死を重ねました。二人のマリーの死を、一つのお菓子に背負わせた。タルトタタンは、このお話の核になっています。


ふと、思いついたので書いてみました。

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― 新着の感想 ―
読了しました!! 読者の方に解釈を任せる文体も書けるんですか!? 想像力を色々と膨らませて、拝読出来る楽しさに惹かれました。 無駄や隙のない文章力に惚れ惚れします!!(*´ω`*) 素敵は物語をあり…
近世の崩壊から近代への移行、 歴史性のある美しい文学を、今この時に耽溺する愉悦感たるや? これは私には書けない文学ですね!だから面白い!
読み手によって色んな解釈が出来る話で面白い! お姉さんの複雑な心境を短い文章で見事に表現してると思いました! レノシーはこんな洒落た物語も書けちゃうんだね( ´ᾥ` ) 溢れる才能に嫉妬するぜ!!:…
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