「ぉ…ぉ…ぇ……」
「シャーーッ!!」
ミケが全身の毛を逆立て、威嚇を始める。
何もいない、天井の角に向かって。
何かいるのか? 耳をすます。
「ぉ…ぉ…ぇ……」
何かが聴こえる気がする。
だが、それは意味を持たない。
なぜなら、俺は××××だからだ。
ミケは三毛猫ではない。
種類も分からぬ、グレーの毛並み。
窓から勝手に入ってきて、いつのまにか
この部屋に居ついたメス猫。
適当に呼んでるうちに
「ミケ」で反応することが分かった。
だからミケ。
飼い主は何を考えてつけたのだろうか?
「シャーーッ!!」
威嚇しながら、後退りするミケ。
そのまま、俺の足にぶつかり、
驚いて飛び上がり、
今度は俺の胡坐の内へと逃げ込む。
そんな可愛いミケの頭を撫でながら、
俺はまた耳を澄ます。
―― ドンドンドンッ!
玄関の扉が力強く叩かれる。
「おい、お前がここにいるのはわかってんだ!
出て来いよっ!!」
女の怒声。隣の部屋のババァだろうか。
このアパートは、精神障害者が多く住む。
篤志家のオーナーが、行き場のない
狂った連中を格安で住まわせる<町の病棟>。
それが、このアパートだからだ。
当然、近隣住人からのいやがらせも引っ切り無し。
だが、こちら側も負けてはいない。
下の階の山田なんて、
気違いの俺でも距離を置く相手だ。
俺の病は、ひどい幻聴。
だから、さっきから聴こえてる声も、音も、
ほんとうに現実かどうか定かではない。
だが、玄関を叩き続けるババァだけは、
現実かどうかを別にしても許せねえ。
俺は包丁を片手に玄関へと向かい、
ドアを開けた。
「ちょっと失礼するよ!」
俺の脇を器用にすり抜け、
部屋の中へと土足で侵入するババァ。
刹那、背中から刺してやろうかと思ったが、
「やっぱり、ここにいやがったか!」
金切り声で叫ぶババァ。
―― ミケの飼い主は、このババァか?
しかし、ババァは窓際から
逃げようとしているミケではなく、
天井の角に向かって、威嚇を始めている。
よく見れば、ババァの左手にも
家庭用の包丁が一本。
「アンタも大変だね。こんなやつに狙われて!」
ババァもこちらの包丁に気づいたようだが、
違う意味で解釈したらしい。
どうにも腹の立つババァだが、
さっきからずっと天井の隅から、俺の頭に直接、
何かを語りかけてくるアイツにも、
そろそろ限界だ。
「こ、ろ、せぇ……」
今度は、はっきりと聴こえた。
だが……どっちをだ?
天井の隅のアイツを片付けるのは、
少し面倒くさそうだ。
だったら先に ―― 。
語られていない部分が大半のショート。
どう捉えるかは、アナタ次第。
なんだそりゃ?の
リアクションがあれば、うれしい。




