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「ぉ…ぉ…ぇ……」

作者: エンゲブラ
掲載日:2026/07/02

「シャーーッ!!」


ミケが全身の毛を逆立て、威嚇を始める。

何もいない、天井の角に向かって。


何かいるのか? 耳をすます。


「ぉ…ぉ…ぇ……」


何かが聴こえる気がする。

だが、それは意味を持たない。

なぜなら、俺は××××だからだ。


ミケは三毛猫ではない。

種類も分からぬ、グレーの毛並み。

窓から勝手に入ってきて、いつのまにか

この部屋に居ついたメス猫。


適当に呼んでるうちに

「ミケ」で反応することが分かった。

だからミケ。

飼い主は何を考えてつけたのだろうか?


「シャーーッ!!」


威嚇しながら、後退あとずさりするミケ。

そのまま、俺の足にぶつかり、

驚いて飛び上がり、

今度は俺の胡坐あぐらの内へと逃げ込む。


そんな可愛いミケの頭を撫でながら、

俺はまた耳を澄ます。


―― ドンドンドンッ!


玄関の扉が力強く叩かれる。


「おい、お前がここにいるのはわかってんだ!

出て来いよっ!!」


女の怒声。隣の部屋のババァだろうか。

このアパートは、精神障害者が多く住む。

篤志家とくしかのオーナーが、行き場のない

狂った連中を格安で住まわせる<町の病棟>。

それが、このアパートだからだ。


当然、近隣住人からのいやがらせも引っ切り無し。

だが、こちら側も負けてはいない。

下の階の山田なんて、

気違いの俺でも距離を置く相手だ。


俺の病は、ひどい幻聴。

だから、さっきから聴こえてる声も、音も、

ほんとうに現実かどうか定かではない。


だが、玄関を叩き続けるババァだけは、

現実かどうかを別にしても許せねえ。

俺は包丁を片手に玄関へと向かい、

ドアを開けた。


「ちょっと失礼するよ!」


俺の脇を器用にすり抜け、

部屋の中へと土足で侵入するババァ。

刹那、背中から刺してやろうかと思ったが、


「やっぱり、ここにいやがったか!」

金切り声で叫ぶババァ。


―― ミケの飼い主は、このババァか?


しかし、ババァは窓際から

逃げようとしているミケではなく、

天井の角に向かって、威嚇を始めている。

よく見れば、ババァの左手にも

家庭用の包丁が一本。


「アンタも大変だね。こんなやつに狙われて!」


ババァもこちらの包丁に気づいたようだが、

違う意味で解釈したらしい。


どうにも腹の立つババァだが、

さっきからずっと天井の隅から、俺の頭に直接、

何かを語りかけてくるアイツにも、

そろそろ限界だ。


「こ、ろ、せぇ……」


今度は、はっきりと聴こえた。

だが……どっちをだ?


天井の隅のアイツを片付けるのは、

少し面倒くさそうだ。


だったら先に ―― 。





語られていない部分が大半のショート。

どう捉えるかは、アナタ次第。


なんだそりゃ?の

リアクションがあれば、うれしい。

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― 新着の感想 ―
ミケの反応と主人公の幻聴、隣人の行動が重なり、どこまでが現実なのか揺らぐ感覚が不気味でした。互いに包丁を持ちながら別の何かを見ている場面が特に印象的で、語られない部分を想像したくなる短編です。
あー、いましたねこういう人、近所に。 さずがに包丁は持ってなかったですけど。 病気じゃなくても、妄想を軸に判断や行動してしまう人もいますしね。 この話題はこれくらいにしておきます(終)
タイトルに惹かれて読ませていただきました。 不思議で不気味な読み味のお話しですね。 何が本当で、何が幻か… ただ、脳内が常にこんな感じでカオスな状態の人、というか病気がありそうですね。
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