コイ
濃い霧の中、たたずむ私は今
見渡す限りの水に沈むように
果てのない白に心を蝕まれる
故意ではなく、迷ったのです
気が付いたらここにいただけ
こんな夜を歩きたかっただけ
苦しくなる程の霧の中に水音
静かに、しかしてはっきりと
歩む私の足先に、水が触れる
水面を見る。よくは見えない
けれど、ナニカを反射する影
黒、赤と白、黒と赤、金色も
凪いだ水面が時折揺れていて
ぱくぱくと顔を覗かせる、鯉
こちらを見やり、水底に戻る
私は何も、持っていないよ…
なんて届く筈もない声を吐く
興味を失った様に見えたのも
それもきっと…コイの気まぐれ
届くことなんてない。そうだ
この霧の様に、何も見えない
あの人にもきっと、届かない
立ち上がる私に、金色が光る
見られているような気がして
でも、見ないように逸らした
見渡すと、さっきまでの霧は
ゆったりと晴れてきて、空は
さっきの金色みたいに瞬いて
私を見下ろすような、星空が
瞬いては消えて、また瞬いて
勝手に輝いて、消えていった
それはまるで、私なんていないかのように
あぁ…またそうやって消えていくんだね…
なんて、誰に届くこともない言葉を吐いて
私は水面を背にして、歩む
ポケットの中が震えた気がして
その主であるスマホを覗き込む
『さっきはごめん』
だなんて、たったひとことだけ
でも、それだけで…
空を見上げる
満天の星空に
月が輝いて…
澄み渡った空気と、私の心
似ているようでどこか違う
けれど
あなたへの気持ちは、どうか届きますように
とある企画にて
『コイ』をテーマに詩を書く、というものがありまして。
色んなコイを私らしく表現しよう、との試みでした。
あえて直接は書かなかった『コイ』の雰囲気を感じてくださる事を祈って。




