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出席番号、ひとつ多い

作者: 臥亜
掲載日:2026/04/16

「……27、佐藤さん」

「はい」

「28、水瀬 梓」

「はい」


 そこで、担任の声が一瞬だけ途切れた。


 ページをめくる音。


「29――」


 名前は、聞き取れなかった。


 けれど先生は、迷いなく丸をつけた。


 返事は、なかった。


 水瀬梓は、28番だ。


 だから、その“次”に気づいた。


 教室のいちばん後ろ、窓際。


 机と椅子がひとつ増えている。


 昨日まで、あんな席はなかった。


「ねえ、あそこって前からあった?」


「あるじゃん、ずっと」


 小山由衣は迷わず答えた。


 その自然さが、梓を教室から浮かせる。


 その席には、誰も座らない。


 朝も、昼も、放課後も。


 なのに。


 授業が終わるたびに、ノートだけが更新されていく。


 整った文字。


 見覚えのないはずの筆跡。


 ページをめくるたび、胸の奥がざわつく。


 ――知っている。


「29番、今日は欠席か?」


 担任が言う。


 誰も答えない。


 それでも黒板に書かれる。


 29 欠席


 その瞬間、梓は理解する。


 おかしいのは席じゃない。


 数え方のほうだ。


 放課後。


 梓は一人でその席に座る。


 冷たい。


 けれど、しっくりくる。


 机の中のノートを開く。


 今日の出来事が、すでに書かれている。


 最後のページだけが空白。


 そこに、一行。


 「水瀬梓が、ここに座る」


 指が止まらない。


 ペンを握る。


 ページを開く。


 続きを書く。


 自分の字で。


 最初から決まっていたみたいに。


 翌日。


 席替え。


 くじを引く。


 29。


「29って誰?」


「最初からいるだろ」


 担任の視線が、梓に向く。


 教室を見渡す。


 全員の顔が分かる。


 知らない人はいない。


 なのに。


 ひとつだけ思い出せない。


 決定的に、欠けている。


 梓は席に座る。


 ノートを開く。


 最後のページ。


 今日の出来事が書かれている。


 そして、その下に。


 まだ乾いていない文字。


ラスト


 そこに書かれていた名前は、


 朝、聞き取れなかったはずのそれと、


 一字一句、同じだった。



 「29、水瀬梓」

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