出席番号、ひとつ多い
「……27、佐藤さん」
「はい」
「28、水瀬 梓」
「はい」
そこで、担任の声が一瞬だけ途切れた。
ページをめくる音。
「29――」
名前は、聞き取れなかった。
けれど先生は、迷いなく丸をつけた。
返事は、なかった。
水瀬梓は、28番だ。
だから、その“次”に気づいた。
教室のいちばん後ろ、窓際。
机と椅子がひとつ増えている。
昨日まで、あんな席はなかった。
「ねえ、あそこって前からあった?」
「あるじゃん、ずっと」
小山由衣は迷わず答えた。
その自然さが、梓を教室から浮かせる。
その席には、誰も座らない。
朝も、昼も、放課後も。
なのに。
授業が終わるたびに、ノートだけが更新されていく。
整った文字。
見覚えのないはずの筆跡。
ページをめくるたび、胸の奥がざわつく。
――知っている。
「29番、今日は欠席か?」
担任が言う。
誰も答えない。
それでも黒板に書かれる。
29 欠席
その瞬間、梓は理解する。
おかしいのは席じゃない。
数え方のほうだ。
放課後。
梓は一人でその席に座る。
冷たい。
けれど、しっくりくる。
机の中のノートを開く。
今日の出来事が、すでに書かれている。
最後のページだけが空白。
そこに、一行。
「水瀬梓が、ここに座る」
指が止まらない。
ペンを握る。
ページを開く。
続きを書く。
自分の字で。
最初から決まっていたみたいに。
翌日。
席替え。
くじを引く。
29。
「29って誰?」
「最初からいるだろ」
担任の視線が、梓に向く。
教室を見渡す。
全員の顔が分かる。
知らない人はいない。
なのに。
ひとつだけ思い出せない。
決定的に、欠けている。
梓は席に座る。
ノートを開く。
最後のページ。
今日の出来事が書かれている。
そして、その下に。
まだ乾いていない文字。
ラスト
そこに書かれていた名前は、
朝、聞き取れなかったはずのそれと、
一字一句、同じだった。
「29、水瀬梓」




