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ふたりの羽がつなぐもの  作者: ちわっすママ


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【最終章 光の中の兄弟達】

季節がいくつも過ぎた頃、ぼく達の世界もまた少しずつ変わっていった。


ママのそばに、新しい人が現れた。

あたたかい声の人。

ぼくらのことを「家族」と呼んでくれた人。


ママの涙の跡をそっと隠すような、そんな人だった。


それから、ママとその人は新しい家を建てることになった。

ママは言った。

「この子たちの居場所を、ちゃんと作ってあげたいの。」


そうして家の図面に、ぼくとうーちゃんの“ハウス”が描かれた。

ハウスメーカーの人と何度も打ち合わせをして、階段下のスペースにぼく達のための可愛い黄色い壁紙のハウスを作ってくれた。


完成したその日、ぼくは思わず鼻をくすぐる木のにおいに顔を寄せた。

新しい家に、ぼく達の居場所がちゃんとある。

玄関の表札にもぼく達が描かれている。

幸せだ…あのころの寒くて汚れた部屋とはまるでちがう。


「ここが、わい達の“おうち”なんやな」

うーちゃんが嬉しそうに笑った。

その声が、家の空気をさらにふわっと明るくした。


ぼくとうーちゃんの為の、世界にひとつだけのハウス。

あのとき失った“居場所”が、今度は家の真ん中にあった。


そのぼく達の為に作られたハウスには、やがて次々と新しい命が増えていくんだ。


最初にやってきたのは千羽矢ちはや

おっとりしてて、やさしい顔をしたイケメンの弟。

ぼくはひそかに「この子は、家の空気を柔らかくする天才だ」と思っていた。


次にやってきたのは雪羽せつは

チャカチャカして落ち着きはないけど、誰より優しくて、みんなのこと事をよく見ている。

誰かが泣くと一瞬でそばに来る優しい子。

きっといつかぼくが虹の橋へ渡ったら、この家の“ボス”は雪羽になるんだろう。

そんな未来が、自然と見えた。


そして、小羽菜こはな

オシャレがだいすきな女の子。

自分のリボンを選ぶのにも時間がかかるけど、

その姿を見ている雪羽はいつもデレデレだった。

「かわいすぎる…」って顔でついて歩く雪羽を見るたび、ぼくはちょっと笑ってしまった。


そのあとにやってきたのは愛音羽あおは

愛音羽は、とにかく食いしん坊すぎる食いしん坊な女の子。

ママがおやつ袋を“カサッ”と鳴らすだけで、

家じゅうの壁を曲がりきれない勢いで走って行く。

末っ子らしい天真爛漫さで、泣いてる子も笑顔に変えてしまう不思議な魅力を持った子だった。


そしてちわっす家には、ちはやの後に迎えた、猫の月香るかもいるんだ。

鈍臭くて、ちょっと犬っぽい猫。

下の子たちに追いかけられてドタバタすることも多いけど、ネーネに溺愛されている。


兄弟が増えるたびに、家の音がどんどん賑やかになっていった。


誰かが走る音、笑う声、小さな爪が床をかく音、食べ物を見つけた兄弟達の弾む息。


その全部が、ぼくの胸の中で“生きてる音”として響いた。


小羽菜を迎えた頃、ママはYouTubeを始めた。


「ちわーっす!ちわっす兄弟チャンネルです!」


カメラの前で仮装したり、パーティーをしたり、ぼく達の笑顔が誰かの笑顔になる。

そんな不思議な毎日が始まった。


画面の向こうの“みんな”と笑いあった。


ぼく達の家は、笑顔でいっぱいだった。

うーちゃんも、ぼくも、幸せの真ん中にいた。

あの頃の寂しさなんて、もうどこにもなかった。


けれどある日、

うーちゃんの目の光が突如消えていった。


最初は小さな影、それがすぐに世界を包み込み黒くなった。

緑内障という目の病気が、うーちゃんの視力を一瞬で奪ったんだ…


ぼくは見ていた。

それでも前を向こうとするうーちゃんの姿を。


「だいじょうぶ、においでわかるんや」

うーちゃんは笑って屁をこきながら言った。

ぼくの後をついて歩いていたうーちゃんが、たくさんの兄弟を迎え、強いお兄ちゃんになっていた。


そして、ぼくも歳をとった。

わく爺というあだ名に、もっと相応しい見た目になった。

足腰の関節は硬くなり、持病と老化で目も見えなくなり耳も聞こえづらくなってきて、毎日がとても眠いんだ。


けれど、若い兄弟達が走り回る音を聞くと、心がほっと温かくなる。

それは“命の音”だ。


ぼくとうーちゃんの時間は、ゆっくり。

けれど、止まってはいない。


見えなくても、ちゃんと見えるものがある。

聞こえなくても、ちゃんと感じられるものがある。


この家に流れる笑い声。

あの日から続いてきた奇跡。

その真ん中には、いつもぼくとうーちゃんがいた。


ママが、よく言う言葉がある。


「ごめんね…

 あの時、辛い思いをさせてしまって…

 ごめんね…」


ママがそう言いながら頭を撫でる。

そのたびに、ぼくはしっぽを振った。

だって、それはもう過ぎたことで、ぼく達は今、ここにいるから。


それでもママはまた言う。

「わく爺、羽太…

 あの時、生き抜いてくれてありがとう。

 私のところに来てくれてありがとう。

 ほんとうに…ごめんね。

 そして、ありがとう…」


聞き飽きたけど、その言葉は、胸の深い場所に届く。


ぼくは言葉を話せない。

でも目や鼻や息やしっぽで「ママ、もう大丈夫。ぼくもうーちゃんも幸せなんだ。ありがとう。」と伝えてるんだ。


それが、ぼくなりの返事だった。

うーちゃんの返事はお決まりの屁だけどね。

きっとママに伝わってると思う。


風が吹いた。

庭の木々が優しく揺れた。


どこかで誰かが言った気がした。


「おかえり」


ぼくはしっぽをゆっくり動かした。

それが、ぼくの“ただいま”の合図。



そして、今日もこの家の真ん中で、ぼくとうーちゃんがつないできた羽と、みんなの羽が、そっと重なっている。


                     完


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