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第6章 ― ヴァシュ vs カイル、壮絶なる戦い

第1部 ― ついに解放された魔力区画


カイルは、これまでに二度も俺の命を救ってくれた。


この世界で初めて、俺を「地球人」と呼ばずに接してくれた人だった。


だから今日は――彼の弟子として、その想いに応えたかった。


剣と剣がぶつかり合い、

火花が雷のように散る。


ほんの一瞬、俺たちは互角に見えた。

だが次の瞬間、鋭い痛みが右手を貫いた。


「ぐっ……!」


熱い血が地面に飛び散る。

よろめいた俺に、カイルは一切のためらいを見せなかった。


彼の動きは速く、正確で、容赦がない。

一撃ごとに、避けるか受けるしかない。


これは訓練なんかじゃない――生き残りを懸けた「試し」だ。


空気を裂く剣閃が喉元をかすめ、思わず息を呑む。

筋肉が悲鳴を上げ、身体が言うことを聞かない。


「ちっ……!」


右脚に浅く刃が走った。

あと一寸深ければ切断されていたかもしれない。


カイルの眼差しは冷たく、まるで殺意を隠そうともしない。


――それでも、胸の奥が燃えていた。

痛みよりも強い、興奮が。


「うおおおおっ!」


俺は吠え、渾身の力で踏み込み、喉を狙って剣を突き出す。

だがカイルは片手で俺の剣を受け止め、そのまま拳をみぞおちに叩き込んだ。


「ぐっ……!」


肺の空気が一気に抜け、血が口から溢れ出る。

身体は宙を舞い、岩に叩きつけられた。

視界が歪み、肋骨が悲鳴を上げる。


気づけば、俺の剣はカイルの手にあり、

次の瞬間、その剣が俺に向かって投げ返されていた。

鋭い軌跡が空を裂く。


「ヴァシュ! 動け!」


頭の中で警告音が鳴り響く。


[ フラックス ] : 疲労度91%到達。


身体が……動かない。

剣の刃が喉元をかすめ、髪の一房が舞い落ちる。


呼吸が荒くなる。

全身が血と汗で濡れ、心臓が悲鳴を上げる。

それでも――一太刀も入れられなかった。


沈黙を破るように、カイルの声が響いた。

冷たく、鋼のように。


「それで終わりか? 六日間で学んだのがそれだけか。

 ……弱いな。お前は、この世界で生きていく価値がない。」


その言葉が、剣よりも深く胸に突き刺さった。

父の声が頭の中で反響する――『無能だ』と。

頭がガンガンし、耳鳴りが止まらない。


「これはただの稽古だ。

 本気で地球人を憎む相手なら、お前は一分ももたない。

 ここでは、誰でも誰かを殺せる。法も、正義もない。」


その言葉が、現実の重みとしてのしかかる。

――このままじゃ、俺は死ぬ。


[ フラックス ] : 緊急警告! 魔力区画の起動が必要です!


「……え?」


視界に、光るウィンドウが現れた。


[ フラックス ] : 解放に必要な犠牲を選択してください。

 ① 左手

 ② 致命的器官

 ③ 左手の小指


「ふざけるな……どれも犠牲じゃねえか!」


カイルが冷たい目で俺を見下ろす。


「変われないなら、ここで終われ。帰れ。」


彼が背を向けた瞬間、俺は叫んだ。


「待てッ!」


喉が焼けるように痛い。

ウィンドウが点滅する。――選べ。今すぐ。


……くそっ、なら――小指だ。


決定した瞬間、焼けるような痛みが左手に走る。

指が縮み、感覚が消え、床に落ちた。


「う、ああああああッ!」


だが、その痛みの先に――力が溢れた。


全身を駆け抜ける電流のような感覚。

青い光が身体を包み、空気が震える。

水の渦が空中に生まれ、轟音を立てて渦巻いた。


「……なっ!?」


カイルが目を見開く。


俺は叫びと共に手を突き出した。

渦が膨れ上がり、巨大な水の竜巻となってカイルを呑み込む。


「おおおおおおッ!」


カイルの剣が閃き、幾度も水を切り裂く。だが、渦は止まらない。

俺は痛みに耐えながら前へ踏み込み――彼の剣を掴み取った。


そして――


「これが……俺の力だッ!」


剣が閃き、鋼が肉を裂く。

カイルの首筋に深い一閃が走った。


俺の身体はそのまま崩れ落ち、視界が暗く染まる。


【フラックス】:よくやりました。

魔力区画、第一段階解放。初回魔法試練、完了です。



*****


第2部 ― 再び訓練の時


目を開けると、そこは自分の部屋だった。

ベッドの横の床で、シミが眠っていた。

俺の手を握ったまま、静かに寝息を立てている。


夜――ということは、あの戦いの後、ずっと眠っていたのか。


頬を布団に押しつけて眠る顔は穏やかで、

長いまつげが影を落としていた。


……可愛い、なんて言葉が自然に浮かんだ。

手を握る感触は、綿のように柔らかい。


ふと我に返る。

――カイルは? まさか、本当に……殺したのか?


慌てて身体を見下ろすと、傷は浅い擦り傷になっていた。

包帯もない。痛みもない。


「ヴァシュ!」


シミが目を覚まし、次の瞬間、勢いよく抱きついてきた。

あまりの力で息が詰まる。


「ちょ、ちょっと……息が……!」


「お父さんも同じこと言ってたよ!」


「え……? まさか、レイクさんが治したのか?」


「うん。すごかったよ。でもね……カイルさんが――」


シミが少し言葉を濁した。


「……カイルは?」


「無事だよ。さっき出かけたの。

 娯楽街に泊まるって。お父さんも一緒。」


「はぁ……。」


思わず安堵の息が漏れた。だが同時に、胸の奥が痛んだ。

――あの人は、何を考えてるんだ。


部屋に二人きり。

静かな夜。心臓がうるさいほど鳴る。


一瞬――本当に一瞬、馬鹿な考えが頭をよぎった。

「このままシミと……いや、やめろヴァシュ!」


「何考えてるの?」

「な、何も!」


疑わしげな目で見られたが、彼女は笑って流した。

「今日の戦い、すごかったね。どうして水魔法が使えたの?」


「……たぶん、偶然だよ。」


嘘だった。フラックスのことは誰にも言えない。


「もう遅いし、そろそろ帰れよ。」


「うん。でも、明日また見せてね。ヴァシュの魔法。」


「……ああ。」


シミを家まで送り届ける。

夜風が涼しく、二人の足音だけが響いた。


彼女は何度も「どうやって地球人なのに魔法を?」と聞いてきた。


俺はただ、「勝手に起きた」と嘘をついた。

彼女は気づいていたようだが、それ以上は追及しなかった。


部屋に戻り、肉を食べながら、魔力区画のメニューを開く。


[ フラックス ] : 魔力区画

水 ― 解放済

??? ― ロック中

??? ― ロック中

??? ― ロック中

??? ― ロック中


五つのスロット。そのうち「水」だけが解放されている。

他を触れると、説明が表示された。


[ フラックス ] : 第二スロットはレベル10で解放。

第三・第四はレベル15。第五は特別任務で解放。

現在レベル:6(カイル戦後)


さらに警告が続く。


[ フラックス ] : レベルアップによる解放は犠牲なし。

緊急時の解放は犠牲を伴います。


「……もう二度と、指は失いたくないな。」


魔法には「水」「火」「地」「風」の四大属性があるらしい。

今の俺は「水」だけ。


明日はシミと、レイクさんとも練習しよう。

カイルは火属性だから、あまり助けにはならないだろう。


「……寝よう。」


ベッドに横たわり、天井を見つめる。


今日のカイルの行動――

あれは本気の教えなのか、それとも俺を見下しているのか。


……明日、聞いてみよう。


強くなる。

いつか、あの人に今日の傷のすべてを返してやる。


そして、いつか――

あの嵐のような戦いを、妹にも見せてやりたい。


いつか、きっと。





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