第5章 熱くてセクシーな友達
パート1 ― 新しい友達を作る時間
朝日が地平線に広がる中、腕を伸ばす。
また一日が始まる。日課の雑用も、いつも通り。
でも今日は、いつも通りの日ではない。
昨夜、カイルが言った。
「明日の訓練は面白くなる」と。
面白い=大変、
大変=楽しい…少なくとも俺みたいなマゾには。
待ちきれない。
…とはいえ、今は時間を潰さなければ。
「よし、ランニングに行こう。」
いつも訓練している広場は遠くない――カイルの家から10〜12キロ程度。
地球人なら狂気の距離かもしれない。
俺にとってはただの朝のカーディオ。
ここはこの世界で一番好きな場所。
短い緑の草が風に揺れ、一本の木が見張りのように立つ。
空気は清らかで、湧き水を飲むような感覚。
車もない。スモッグもない。交通信号でくしゃみしてもクラクションは鳴らない。
ただ静寂と風。
そして――もっと重要なことに――彼女がいた。
今日もひとりで、昨日と同じ服を着て立っている。
一部の俺はもう「愛しい」と呼びたかったが…
まだいくつかのイベントを飛ばしてはいけない。
それでも…今日は違う。
今日こそ話しかける。
もしかしたら――この世界で、やっと彼女を彼女にできるかもしれない。
俺は歩み寄り、息を整えて口を開いた。
「こんにちは。…やっと言えた。」
彼女の目が上がり、柔らかく答えた。
「こんにちは。」
その声は穏やかで、石を滑る水のように心に染み込む。
耳を通り抜け、心に突き刺さった。
まずい。どうすればいい?
頭が壊れたWindowsの更新みたいに回転する。
言葉?語彙?それは何だっけ?
でも彼女が救ってくれた。
「名前を教えてくれる?」恥ずかしそうに。
「…ヴァシュ。君は?」
「シミ」
少し明るい口調。言うだけでほっとする。
「素敵な名前だね」心からそう思った。
彼女は首を傾げる。
「今日、ランニング一緒にしてもいい?
君の惑星のことを教えてくれたら、私のことも話す。面白くない?」
心臓が跳ねた。
「う、うん。いいよ、行こう。」
笑顔で頷く。
「じゃあ走ろう。」
ランニングはいつの間にか、奇妙なデートに変わった。
地球の悲劇的な過去は話さなかった――早すぎると彼女を落ち込ませる。
だが地球の技術や文化、車に人間が閉じこもり、交通で叫び合うことは話した。
彼女の瞳はキラキラと輝く。好奇心が満ちていた。
――どうやら彼女の関心を引くには、地球の話で十分かもしれない。
…あと、俺、見すぎてたかも。肩の下を。やばい、反省。
訓練場に着く頃には、彼女の声も少し弱くなる。
まだ笑顔だが、息は荒い。
そうか、疲れてる。喉も渇いてる。
フラックス、助けてくれ。
[ フラックス ]:ストレージコンパートメント…空。
おめでとう、フラックス。役立たず。
心の中でつぶやく。
[ フラックス ]:「…ありがとう」
「水はないの?」シミが尋ねる。
首をかく。
「え…うん、ない。ごめん。」
彼女の唇がいたずらっぽく曲がる。
細い杖を取り出し――一瞬で水の玉を召喚した。
「な、なに――」
水は俺の顔に全力で飛んできた。
仰け反り、咳き込み、ずぶ濡れ。
シミ?笑い転げている。
「顔が――ハハ!最高!」
「面白くない」ふくれっ面。
「冗談よ。友達ってこういうことするでしょ?」少し不安そうな声。
「…友達?」思わず口に出す。
眉をひそめる。
「バカ。友達じゃなかったら、わざわざここまで来る?」
「待って、そういう意味じゃ――」
「やっぱりバカね」背を向ける。
ため息。地球では「友達」とは、最初にメッセージを送らなくなると存在を忘れられる存在だった。
だから彼女が何気なく言ったとき、予想以上に胸に刺さった。
そして彼女は手を差し出す。
「でも私はあなたの友達よ。さ、立ちなさい。濡れた子犬みたいに座ってないで。」
手を握る。水は冷たくて、澄んでいる。
その後、俺は地面に伏せて腕立てを始める。
「運動?」シミが首を傾げる。
「これだ」シャツを脱ぎ、地面に押す。
「地面を押す?それが運動?」不思議そう。
「定義通りだ」俺は言い返す。
「やってみる」
待て。
待て待て待て――
彼女、服を引っ張り始めた?!
この惑星、恥じらいは存在しないのか?!文化的トラップ?!どうすれば――
「できた」宣言。
振り向くと、凍りつく。
完全に露出していない、神に感謝。
だが白のスポーツブラとタイトなショートパンツだけ。
脳がショートするギリギリ。
見るな、ヴァシュ!変態だと思われる!
そして横に並び、腕立て開始。
フォームがすごい。流れるように滑らかで、筋肉も完璧。
集中、集中…。
「六十」吐息交じり。
「もう六十?」
「父がAランクで訓練してる」
「なるほど」
俺も腕立てに集中するが、新しい動きを教えたり、恥ずかしさで混乱したりで集中は分散。
終わると服を戻し、一本の木の下で息を整える。
「魔法はどうやって覚えたの?」
「小さい頃、父に教わった」
「…俺は無理だな」
「オーラがないもの」
「うん、カイルに聞いた」
「カイル…猿人?」
「ここではそう呼ばれてる」
「なんで?」
「本人に聞きなさい」
「じゃあ行こう」俺は言った。
「うん、でも家まで競争ね!」いたずらな笑顔で走り出す。
「ちょ、それ不公平!」追いかける。
*****
パート2 ― いい子だけど恐ろしい父
家に着く頃には、彼女は息を切らしていた。
俺は笑顔が止まらない。
可愛いだけじゃない。
強い、水魔法使い、Dランクでダンジョンをクリア。
長い間、誰かと一緒に走る感覚を取り戻した。
だが――
「シミ!」
雷のような声。
父が家の前に立っている。
圧倒的な存在感、オーラは鋼より冷たい。
「この男と話すなと言っただろう!」
反応する前に、手を彼女に向ける。
本能で、手首を掴む。
そして理解する――
やばい、Aランクだ。
[ フラックス ]:警告。地獄に変わる寸前。推奨行動:逃げろ、絶叫、または両方。
フラックスの声は皮肉まみれ、だが血が沸く。
「地球人め!」雷のような咆哮。
剣を抜き、一瞬で振りかぶる。
「父さん、やめて!」シミが叫ぶ。母と妹も外に。
手遅れ。
剣が俺に向かう。
右手が痺れる。
この瞬間、終わりかと思った。
地球の思い出、父の声――「お前には何もできない」――が甦る。
鋼が閃く。
そして――
一瞬。
カイル。
瞬時に間に入り、手で刃を押さえる。火花が散る。
剣を押しのけ、俺を後ろに押す。
「俺の後ろに隠れろ!」壁のように立つ。
胸を荒くしながら後退。
生き延びた。ギリギリで。
「お前はAランクのレイク…それでも娘と同じ年頃の少年の手を斬ろうとしていたのか?」
カイルの声は冷静。刃より深く刺さる。
レイクの目が狭まり、嵐のようにオーラを押し付ける。
「これが噂の地球人か?南の砂漠から拾ったやつか?」
カイルは頭を傾け、金色の目が光る。
「何をして怒らせた?」
「娘と何してたのか、自分で聞け」粗い声。
カイルの視線が俺へ。眉を上げて質問。
「何もしてません!」両手を挙げる。
「ただランニング――彼女のアイデアです。悪いことはしてません!」
[ フラックス ]:そうか?腕立て中に胸を見てたのは誰だ?
「今じゃない、フラックス」歯を食いしばる。
「父さん!」シミの声。顔は真っ赤だが瞳は揺るがない。
「ヴァシュは何もしてない!友達だよ!」
「黙れ」レイクが言いかける。だがカイルが口を挟む。
「この少年は悪くない」カイル。
「一週間以上一緒に暮らした。全ての地球人が悪いわけではない。
彼は娘に向かって手を上げた君の剣を止め、身を危険にさらした。
娘を思っていることがわかるだろ?」
言葉が重い。
シミの頬も赤みを増す。
「娘が悪くないと言えば、悪くない」母が柔らかく言う。
レイクは剣を下ろす。
「猿人よ、元パーティーメンバーだ。お前の判断を信じる。娘が友達と言うなら、認める。」
「地球人、名前は?」
「ヴァシュ」声を殺さないように言う。
「姓は?」
「ヴァシュ・カウシク」
「うむ、分かった。悪かった。」
「大丈夫。でも娘にも謝ったほうが」
カイルは微笑む。「その通り」
レイクも少しだけ柔らかく、シミに謝る。
「まあ…パーティー局行く」
「俺たちも行く」カイル。出席登録のため。
やっと胸の圧迫が消えた。呼吸できる。
「じゃあ、また明日」シミ、声は軽く。
「今日もありがとう」
なぜ顔が赤いんだ?
[ フラックス ]:ボス戦を無傷でクリア。レア実績解除。
「もう十分」俺。
「楽しみすぎだろ」
「行こう、ヴァシュ」カイルが先に歩き出す。
「時間を無駄にした」
「今行くよ。でも特訓は?」
カイルが俺を見る。
「君の冒険で遅れた。急げ、腹減った」
「は、はい。でも――」
「黙れ、ヴァシュ。明日からレイクと俺、二人で鍛える」
「え、俺同意してない――」
「お前も黙れ、レイク」カイル。
笑うしかない。二人そろうと…面白くなりそうだ。
*****
パート3 ― ヴァシュ vs カイル 開始
出席登録後、朝食をかきこみ、訓練場へ。
太陽は高く昇り、土のアリーナに光を撒く。
風は汗と鉄の匂いを運ぶ。
カイルは中央に立つ。剣が鈍く光る。
レイクはフェンスに寄りかかる。腕を組み、無言。存在だけで空気が重い。
カイルの金色の目が俺を捕らえる。
「戦え」剣を抜き、滑らかに構える。
冷たい鋼のように無言の命令。
「傷一つつけられれば、訓練続行。無理なら帰れ」
腹が沈む。
「戦う?6日間でほとんど教わってないのに」
カイルの唇がわずかに笑う。
「傷一つのために必要な全てを教えた」
俺の言い訳も許さず、次の瞬間動く。
警告なし、構えなし、ただの一瞬。
足が土を蹴る。
銀の刃が光る。
本能で飛び上がる。
剣を間一髪で抜く。
鋼が鞘と擦れる音。
フラックスが声を届ける、女性の声で画面にテキスト表示。
[ フラックス ]:警告。敵対A級捕食者接近。
[ フラックス ]:推奨行動:逃げろ、叫べ、または両方。




