第4章 「融合」と呼ばれる現象
パート1 ― モンスター狩り?回復魔法?なにそれ?!
また、夢を見ていた。
巨大な影が、俺の上に浮かぶ。
ドラゴン。骨の奥までその存在を感じる――鱗が微かに光り、ありえない光の中で揺らめく。
だが、どれだけ目を凝らしても、細部はすぐにぼやけて消える。
轟音は、綿に包まれた雷のようにこもっていた。
そして――あの少女――顎の先に…いや、今にも飲み込まれそうだ!待って!
俺は飛び起きた。
[ フラックス ]:疲労度が87%から34%に減少。
出血が臨界。今すぐ何か食べろ。
瞬きを繰り返し、周囲を確認する。
木造の壁。ベッドひとつ。
身体は包帯に包まれ、胸や胴、手に痛みが走る。
――誰が、俺を手当てしたの?
「やっと目を覚ましたか。」
落ち着いた声。木の扉から姿を現した人物が、夕暮れの光に縁取られていた。
「あ…あなたか。救い主だ。」
声はかすれていたが、安堵が全身を駆け抜ける。
「助けてくれて、ありがとう…酔っ払いからも、傷の手当ても。」
「ベッドから動くな。まだ治っていない。
回復魔法は使えないから完全には治せない。
でも包帯は巻いた。縫えるところは縫った。」
――回復魔法?使えないのか、この人。
考えが追いつく前に、フラックスのいたずらな声が頭に響いた。
[ フラックス ]:食べろ。今すぐ。飢え死にする気か?
「あ…そうか。」俺はその男を見た。
「何か食べるものはある?」
男はため息をつく。疲労と苛立ちが混ざった音。
「悪い。もう残ってない。十日間モンスター狩りしてなくて金もない。朝、最後の食事を済ませたところだ。今日は狩りの予定だったが…お前の世話が優先だ。」
モンスター狩り…まぁ、後でもいい。
そうだ――日課の報酬、アルセスの肉。
今、食べたい。
フラックスが楽しそうに脈打つ。
その瞬間、肉がベッドの上に出現した。
男の目が見開かれた。
「待て!それはアルセスの肉だ!どれだけ高価か知ってるか?これを売れば何ヶ月も暮らせるぞ!売るのか?それとも二、三日で腐るぞ!」
俺は薄く笑った。
「全部二キロ使え。少しは俺に料理して、残りは売れ。」
男は反論せず、飢えに目を輝かせ台所へ向かった。
部屋を見渡す。ベッドひとつ、木製の机、小さなバルコニー。
街は手の届かない向こうに広がっている。
身体は痛むが、好奇心が痛みよりも深く俺を突く。
…まずは回復。
腹の虫が大声で鳴る。生きるためにはまず食べる。
好奇心はあとだ。
20分後、男が湯気の立つ鍋を持って戻る。
黒く磨かれた金属の鍋がランプの光を反射して柔らかく輝く。
肉入りカレーを器に盛り、俺の前に置いた。
肉を食べたことはない――地球ではベジタリアンだった。
だが、生きることは理想を待たない。
スプーンですくう。
その瞬間、胸に不安が刺さった。
――家族は大丈夫か?生きてるか?食べてるか?
涙が視界を曇らせる。
「なんで泣いてる?」男が静かに聞いた。
「家族…無事?どこにいる?何が起きてる?」小さな声で答える。
男はゆっくりうなずく。
「まず食べろ。そのあと話そう。
食べながらでいい、君のこと、家族のこと、世界のこと――全部話してくれ。」
そうして俺は話した。
地球のこと、家族のこと、ここに来るまでの混乱。
だがフラックスのことは伏せた。秘密にしなければならない気がした。
*****
パート2 ― 融合?新しい惑星?
夜、カイル――この男の名――はまだ起きていた。
ランプを普通に灯すのではなく、指先に炎を巻きつけ、芯に滑らせるように部屋を柔らかい金色で照らす。
――ここは地球ではない。
カイルは俺の横に座り、落ち着いた声で信じられない話を紡ぐ。
――俺の知る世界、地球とトラウマが融合した。
新しい惑星が生まれた:E-ラウマ。
崩れる建物、裂ける大地、落ちる空――それが融合。
両世界の人口の半分が一度に失われた。
生き残った者たちは、トラウマと地球の文化をそれぞれ受け継ぐ。
だから俺は「地球人」と呼ばれる。
トラウマの文化が支配する中、地球の断片――ヒマラヤ、富士山、エッフェル塔――が散らばる。
カイルと数人――インドラ王国の姫シヨミを含む――は真実を知っていた。
この惑星は双方のものだ。
だが、王国にはそれぞれの思想がある。
インドラ:地球人の平等を主張
デヴァ:地球人を奴隷扱い
アスラ:地球人を脅威と見なし抹消対象
幸運にも、俺はインドラに落ちた。
アスラかデヴァなら、もう死んでいただろう。
「家族は?」俺が尋ねる。
カイルの暗い瞳が俺を見つめる。
「融合時、君に近くにいた。家族もこの王国に来た。」
安堵で再び力が抜ける。
――これで、生き延びて家族に会える希望ができた。
*****
パート3 ― E-ラウマの生活
技術は消えた。
電話も電車も飛行機もない。
この世界は王と帝国。移動は月単位。
そしてモンスター。どこにでもいる。
希少なモンスターの部位――最も高価な交易品――はダンジョンで手に入る。
ランク:
D:弱い、一般的
C:手強い
B:危険
A:精鋭、致命的
S:神格級、ほぼ不可能
ハンター(ランカー)も同じランク付け。
SランカーのみSダンジョンに挑める。
多くのランカーは剣と魔法を扱う。
扱えない者はEランク。
地球人は特異。魔法はない。
だが剣は――速く、正確、致命的。獣よりも速い。
獣は…ヒョウ獣、ウーパード獣、人間の知恵と怪物の力を兼ね備える。
それ以外は原始的――木、石、モンスター部位から作られた武器や鎧。
カイルは壁にもたれ、にやりと笑う。
「明日から剣士訓練だ。短くても長くても関係ない。終わる頃には、ここで生き延びられる。」
希望が芽生えた。
生き延びれば、家族を守れるかもしれない。
どんな代償でも。
*****
パート4 ― E-ラウマでの生活の日々
六日が過ぎた。
学んだこと:ここで死なずに生きるには努力が必要だ。
日の出前に起きる。
「午後」も「夕方」もない。
朝は太陽とともに、夜は太陽が沈むと始まる。
時計も電話もない。直感だけ。
フラックスは手伝うが、優しくはない。
[ フラックス ]:おはよう、眠り坊。腕立て:200回。ラン:12km。呼吸を忘れるな。
文字は水のように揺れ、いつものようにからかう。
だが、訓練は効いた。
経験値が増え、レベル1から3へわずか一週間で到達。
各レベルで2ステータスポイント獲得:
知力
力
敏捷
体力
容姿
感覚力
実感できた。筋肉は鋭く、反射神経は速く、周囲の世界が軽くなる。
朝のランニングで街もさらに見える。巨大だ。六日経っても、まだ表面しか見ていない。
そして彼女。
毎朝、同じ場所にいる。
長い赤茶色の髪、緑の瞳、目立つ服。
通り過ぎるたびに髪を弄る。
ヒントか?それとも俺が必死なだけか?
ラン後、家に戻るとカイルを無理やり引きずり出す。
「起きろ、カイル。もう朝だ。腹減った。」
「ん…あと五分…」枕に顔を埋めてつぶやく。
彼を起こすのは、モンスターとの戦いより大変だった。
カイルの弱点:女なしでは夜を越せない。
初夜で学んだ――俺の部屋の下に彼の部屋がある。
叫び声で寝られない。彼も女も。
それ以来、寝る前に耳を塞ぐことを学んだ。
朝食は彼の手料理。うまい。
食後、風呂。パーティー局で登録確認。
昼前から訓練。6時間。剣と打撲。
3時間ごとに休憩。夜には完全にぐったり。
登録パーティー2人以上ならレストランで無料食事。
食事は良い。相手は…まぁ、カイルだ。
帰り道、毎晩娯楽街の女を連れ帰る。
毎回違う。戻ってくる者はいない。
戻ると、彼は自室に消える。
その夜、消える前に言った:
「明日の訓練は…ちょっと面白くなるぞ。」
面白い、か…わかるだろう。
「おやすみ。」俺は小声でつぶやく。
そして叫び声。
「アァ――やめて――ああ!」
女の声。俺の部屋の真下から。
「しまった…また耳塞ぐの忘れた…」
フラックスが頭でくすくす笑う。
[ フラックス ]:音声危険検出。提案:耳栓を使用せよ。
俺は枕に顔を埋め、もう一晩E-ラウマで過ごすのだった。