ヒヨワの発見
木から木へと飛び移って移動していた群れの中から一匹の猿が落ちてきた。
小柄で虚弱。仲間たちからは「ヒヨワ」と呼ばれ馬鹿にされていた猿だった。
樹上から仲間が早く上がってこい、と声をかけてくる。しかしヒヨワは落ちたときに足を挫いてしまったのかうまく立つことができない。
地面でもがいて立てない様子のヒヨワを見た群のボス猿は置いていくぞ、と言った。前々からこの貧弱な猿が自分と同時に産まれたことを苦々しく思っていた大柄な体躯のボスはヒヨワを追い出す口実を探していたのだ。
ボスの言葉を合図にして群はどんどんヒヨワから離れていく。
ヒヨワと仲が良かった何匹かは彼を心配するように何度も振り返ってはいたが、やがてはすべての猿がヒヨワの視界から消えていってしまった。
群が完全にいなくなってしばらく経った頃。ヒヨワはなんとか立ち上がろうともがいていた。そうして手を振り回す内に、たまたま近くにあった木の枝が手に触れる。
寝転がったままその枝を掴んだヒヨワは、それをうまく支えにすることでとても簡単に立ち上がることができると気が付いた。
もしかしたらヒヨワはこの枝を使うことで遠くにある果物を簡単に取ることが出来ることに気が付くのかもしれない。それどころか枝を武器にすることで簡単にほかの動物を倒せることに気が付くかもしれない。さらにこの枝をもっと尖らせて武器と呼べるものに改造することを思い付くのかもしれない。
そうした知識を子どもたちに伝えることを思い付いた果てに、ヒヨワの子孫はいつか万物の霊長を名乗るようになるのかもしれない。
だがいまはこの枝はただ立ち上がるのを楽にしてくれるだけのものに過ぎなかった。




