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ワインが特産品らしい

ヒビノはガルドに連れられて村の入り口をくぐった。目の前に広がるのは、十数軒の木造の家々が点在する小さな村。家々の屋根には藁が敷かれ、簡素な作りながらも手入れが行き届いているのが分かる。


「貧しいわけじゃないけど、裕福でもない……そんな印象だな」


村の中央には小さな広場があり、村人たちが集まって話し合ったり、農作業用の道具を手入れしたりしている。家畜として飼われているヤギのような生き物が、村の隅で草を食べていた。


「リカオン村へようこそ、と言いたいところだがな……まあ、外れた場所だから大したもんはないぞ」


ガルドが不器用に肩をすくめながら言う。


「リカオン村……この村の名前ですか?」


「そうだ。この辺り一帯を治めているリカオン領の端っこにある小さな村だ。領主様の顔を拝めるなんて滅多にないけどな」


「なるほど……リカオン領の端、か」


ヒビノは耳にした単語を頭の中で繰り返しながら、情報を整理しようと努めた。エーテル王国という国が存在し(エーテルって名前なんかやだな...)、その西部にリカオン領がある。その中でもこの村は辺境で、普段から村人たちは外部との接触が少ない生活を送っているらしい。


ガルドに案内され、村長の家で簡単な挨拶を済ませた後、ヒビノは村を自由に見て回る許可を得た。村長は優しそうな初老の男性で、「村でのルールを守ってくれれば好きにしていい」と快く受け入れてくれた。


「さて、散策してみるか」


ヒビノは村の中を歩きながら、周囲の様子を観察する。


まず目についたのは、村の人々が持つ雰囲気だ。どの家もそれなりに整備されていて、村人たちはしっかり働いている。笑顔で会話する声も聞こえる。


「貧しい、って感じじゃないけど……やっぱり余裕がない気がするな」


ヒビノはそう思った。たとえば、村の道具類はしっかり作られているが、明らかに古く、使い込まれているものばかりだ。新しい物を買う余裕はなさそうだ。


村の中心近くで、女性たちが大きな樽の前で作業している姿が目に入った。何やら木の実をすり潰しているようだ。


「あれは……なんだ?」


興味を引かれたヒビノは近づいて様子を伺う。すると、近くにいた中年の女性が声をかけてきた。


「おや、あんたが迷子のヒビノさんだね。村長さんから話は聞いてるよ」


「あ、はい。よろしくお願いします」


「これはね、森で採れる『シュリの実』を潰して、ワインを作ってるんだよ。村の特産品でね、これが貴重な収入源なんだ」


「ワインですか……シュリの実って、この辺りで採れるんですね」


ヒビノは樽の中を覗き込む。潰されたシュリの実からは濃い赤色の液体が染み出しており、甘酸っぱい香りが漂っていた。(これってよく食べてたやつだよな...まぁいっか。)


「この実はとてもおいしいんだけどね、困ったことに森の害虫がたくさん湧いてねぇ。採れる量が年々減ってきてるんだよ」


女性はため息をつきながら、すり潰す作業を続けている。


「害虫……なるほど」


ヒビノは眉をひそめた。虫害によって生産量が落ちているという話は地球でもよく聞く話だが、それが村の収入に直接影響しているというのは深刻だ。


「しかも害虫だけじゃなくて、森の小動物もシュリの実を食べ尽くしちゃうからね。ガルドさんが小動物を狩ってくれてるけど、いたちごっこだよ」


「あのガルドさんが……そういうことだったんですね」


村の収入源であるワイン。その生産を支えるために、ガルドが頻繁に狩りに出ている理由が少し見えてきた。


「害虫の対策……何か方法があればいいんですけどね」


ヒビノはぼそっと呟いた。地球での農薬や駆除の方法が思い浮かぶが、この世界にそんな便利なものは存在しないだろう。だが、材料さえ揃えば、何かしら代用品を作ることができるかもしれない――そう考え始める。


「まぁ、村では昔ながらのやり方でやるしかないのさ。あんたも滞在中は暇だろうから、手伝ってくれると助かるよ」


「はい、ぜひお手伝いさせてください」


ヒビノは笑顔で応じた。


夕方、ヒビノは村を一通り見て回った後、ガルドの家に戻った。


「どうだ、村の様子は?」


「はい、思ったより落ち着いた場所で安心しました。でも……村の人たち、大変そうですね。シュリの実を食べる害虫や小動物の話を聞きました」


「そうだ。村の収入のほとんどはシュリのワインだが、ここ数年で生産量が激減している。おかげで、俺たち狩人の負担も増えたってわけだ」


ガルドはテーブルに肘をつきながら溜め息をついた。


「それでも、なんとかやりくりしてるのは村の強さだな。だが、このままじゃいずれ限界が来るかもしれない」


「……そうですか」


ヒビノは考え込むように黙り込んだ。自分に何かできることはないか――この考えが、少しずつ彼の胸の中で大きくなっていった。

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