生き延びたらしい
「……おい、大丈夫か?」
低く響く声が耳に届き、ヒビノはハッと顔を上げた。目の前には、弓を背負った男が立っていた。たくましい体つきに無骨な装備、まさに「狩人」という雰囲気だ。
「え、えっと……助けてくれて、ありがとうございます!」
ヒビノは慌てて礼を述べた。相手の表情は険しいが、敵意は感じられない。むしろ冷静にこちらを観察しているようだった。
「ここに一人でいたのか? こんな森の奥で、ゴブリン相手に生き残るとは大したもんだな」
男はゴブリンの死体を見下ろし、矢を引き抜くとそのまま矢筒に戻した。血がべったり付いているのに、全く気にした様子がない。
「いや、その……焼いた肉の匂いにつられてきたみたいで、完全に僕のミスです……」
ヒビノは苦笑いを浮かべながら状況を説明した。男はしばらく無言でヒビノを見つめていたが、やがてふっと小さく笑った。
「そうか、匂いか……まぁ、初心者にはよくある話だな。お前、冒険者か?」
「い、いえ、違います。ただの迷子です……」
「迷子、ねぇ。変わった格好をしてるし、見たことのない道具も持ってる。まるで別の国から来たみたいだな」
ヒビノは一瞬答えに詰まった。「異世界から来た」と説明するべきなのか迷ったが、どうせ信じてもらえないだろうと思い、とりあえず曖昧に答えることにした。
「まぁ、そんなところです。とにかくここで生きるのに必死で……」
男はそれ以上詮索せず、軽く顎をしゃくった。
「俺の名前はガルド。こっからそう遠くない村で狩人をしている者だ」
「ガルドさん……ありがとうございます。僕はヒビノです」
「ヒビノ……変わった名前だな」
ガルドは少し考えるようにしてから言葉を続けた。
「この森は危険だ。お前一人じゃ生き残れないだろう。村まで連れていってやる」
「え、本当ですか!? ありがとうございます!」
喜びを隠せないヒビノ。これでようやく文明らしい場所に行けるかもしれないと思うと、心底ほっとした。
「ただし条件がある」
ガルドはそう付け加えた。
「村ではお前が何者か説明してもらう。それと、村の掟に従ってもらうぞ。それが守れるなら連れていく」
「わかりました! よろしくお願いします!」
ヒビノは珍しくも深々と頭を下げた。