食糧を見つけるらしい
焚き火の炎がパチパチと音を立てる中、ヒビノは炎の向こうの森をぼんやりと眺めていた。
「……この世界、まだまだ謎だらけだな」
食料、水、道具、そして安全な場所――異世界で生き延びるために必要なものは多い。だが、最初に手をつけるべき課題は「何をどこから確保するか」を明確にすることだった。
「さっき拾った硫化鉄の鉱石は使えそうだな。あとは食べられるものを探さないと……」
焚き火の光に照らされる手のひらに目を落とすと、そこには先ほど記録したスキル経験値が1だけ増えているのが確認できた。
《スキル経験値:2/10》
「……ふむ。スキルの成長は遅いけど、それは逆にありがたいかもな。簡単に強くなれるより、ちゃんと努力しながら進む方が俺には合ってる」
そう呟きながら、ヒビノは次の実験プランを頭の中で組み立て始める。
翌朝、ヒビノは森を再び探索していた。夜明けとともに辺りの様子が見えやすくなり、昨夜は気づかなかった植物や地形が次々と目に入る。
すると、ひときわ目立つ赤い実がなっている低い木を見つけた。
「……これは果物か?」
ヒビノは慎重に赤い実を一つもぎ取り、まず匂いを嗅ぐ。甘酸っぱい香りが微かに漂う。次に皮を少しだけ裂き、果汁が染み出てくるのを確認した。
「見た目はベリー系の果物っぽいけど……毒だったら怖いな」
地球では「毒草テスト」として知られる方法を思い出し、ヒビノは実験を始めた。
実を少量だけ舌に触れさせ、味を確認する。
数分待ち、体に異変がないことを確認する。
実をほんの少しだけ噛み、飲み込まずにさらに様子を見る。
「……今のところ異常なし、か」
次に、実の果汁を葉っぱに垂らし、周囲の昆虫の反応を観察する。小さな虫が果汁に集まってくるのを見て、ヒビノは確信を得た。
「この果物、たぶん食べられるな」
彼は赤い実を慎重に口に運び、少しずつ食べ始めた。甘みと酸味が広がり、空腹がわずかに和らぐ。
「よし、これでエネルギーは補給できる……この辺りに同じ木がもっとないか探してみよう」
探索の中でヒビノは、この赤い実が群生しているエリアを発見した。さらに木の根元には茶色く乾燥したキノコのようなものも生えている。
「このキノコ……形状的には地球でよく見るものに近いけど、念のためテストしないと」
ヒビノは同じように毒性の有無を確かめるため、慎重に実験を繰り返す。結論として、このキノコも無毒で食べられることが分かった。
焚き火を再び起こし、赤い実とキノコを炙って簡単な食事を作るヒビノ。熱を通すことで風味が引き立ち、満足感が増した。
「やっぱり火があると生活が安定するな……」
焚き火の前で一息つきながら、ヒビノはふと思った。
「この世界の素材、まだまだ未知のものが多いけど、ちゃんと“観察”して“実験”すれば、いくらでも使える可能性があるな」
その言葉通り、ヒビノの頭には次々と新しいアイデアが浮かんでくる。例えば、この赤い実の果汁に糖分が多ければ、発酵させてアルコールを作ることも可能だろうし、キノコを乾燥させて保存食にすることもできる。
「あれ、なんか今の俺、やたらといろんなこと思いついてる気がするぞ……?」
普通なら思いつかないような応用案が次々と出てくる自分に驚きつつも、ヒビノは確信した。「化学教師」スキルが彼の思考力や実験能力を少しずつ底上げしているのだろう。
《スキル経験値:3/10》
「まだレベル1のままか……まぁ、焦らずにやっていこう」
こうしてヒビノは、この未知の世界での生存と探索を続けながら、現代化学を武器に自分なりの道を模索し始めた。