第三話:廻る昼
「ありえないよ、だって僕、おはよう、としか言ってないんだよ?なんで?どうして?why?なんで僕覚えてないの?ねぇ教えてよ。教えてよ!教えろおおおお!」
「オチツクでござるよ。ギンジ。それはきっとギンジのノーミソが低speckなだけで
ござる」
「アルクレスてめぇええええ!前々から気になってたけどてめぇは一体何人だあああ!」
「ペルー人とカナダ人のハーフでござる」
「じゃあなんで日本にいるんだよ!」
「リョウシンのシゴトのツゴウだと前言ったと思うでござるが……」
「ミゲル、相手にすんな。バッドトリップ決めているときの銀は別の人間だ。いや、別の生命体だ。アノマロカリスだ」
「龍華……ペルー、カナダ、……ナンシー……ジーちゃん……龍華……」
「……そのようでござるな。というか拙者、ギンジが長々とかようなスガタをさらすのは初めて見たでござる」
「まぁあいつは普段はっちゃけて先生に鉄槌を食らう以外は別段普通だからな。普段だったらゴッドハンド一発で正常に戻るだろ?でも今日はずっと錯乱状態で授業中も虚ろだった。俺も初めて見るよ」
「たしかに。まさかテッシンからgod hand ver5.7まで出るとは思わなかったでござる」
「ああ。最後の方は先生も肩で息してたもんな」
テッシン、とは我がクラス担任の踝鉄心のことである。体罰?いいえ愛の鞭です、が彼の信条。教育委員会?PTA?彼の辞書にそんなものは無い。
「おお、ギンジのヒトミにhigh rightが戻ったでござる」
「よう、おかえり銀。やっと人間になれたな」
「ああ、アルクレス、世話を掛けたね。あとヒロ、ちょっとこっち来い」
この珍妙な忍者言葉と奇妙な片言と妙にいい英語の発音を駆使するハーフ君は、ミゲル・うんたら・なんたら・かんたら・アルクレス。なんか名前と名字の間にやたら長いミドルネームが付くらしいのだが、長すぎて覚えていない。そのミドルネームは先祖由来の由緒正しいものらしいが、そんなの関係ないね。だって興味ないんだもの。覚えられない名前を付ける方が悪いんだよ!ばーかばーか。そして高校に入ってからの僕のfirst friendだ。ん?なんか感染してる?
そして僕をなんだか分けのわからない生き物にして下さりやがりましたのが、中学校からの腐れ縁、ヒロだ。以上。
「おい、なんだか俺の扱いがひどいような気がするんだが」
「拙者もなにかセンゾの誇りを踏みにじられたような気がするでござる」
むむむ。なかなか鋭いな……しかしそんな事はどーでもいい。コンビニでコーヒーだけ買ったあとのレシートぐらいどーでもいい。僕には聞かなければならないことがある。
「なぁ二人とも。僕、脳内異次元旅行中になんか変な事言ってなかった?」
そう、これである。僕が思いを寄せている龍華はとてつもなくファンが多い。「苦羅威死巣」はもちろんの事、龍華ファンの女の子のみで構成されている「苦露弐駆琉」(構成員二百二十四人)というものも存在している。
そんな中仮にも幼馴染で彼女と比較的近い位置にある、というだけでたまに殺気を感じる事がある僕である。そんな僕が彼女に恋愛感情を持っている事がバレたら、恐らく骨どころか灰も残らないで塵になるであろう。事実彼女に告白した人は、両組織になんらかの制裁を受けているらしい(もちろん龍華はその告白を断っている。今のトコ、誰かと付き合うつもりはないらしい。チッ)。ちなみに「苦羅威死巣」は全員男だ。暑苦しい。
ともかく、内のクラスにこの最悪組織のメンバーがいるかは分からないが、仮に居なくてもそこはこの情報社会。瞬く間に全校生徒に知られてしまい、僕の人生はジ・エンド。
次回のタイトルは恐らく「廻る塵」になるだろう。
ギンジVS六百人オーバー!僕の明日はどっちだ!?
まぁ、どっちもこっちもないのは明らかである。
そんな訳で 一・応、親友としてカウントしているこの二人にも言えないのだ。もし誰かに知られたら前述の通り僕はこの世界を廻る塵になってしまう。
ぶっちゃけいくら僕が別の世界にコンニチハしている、といってもそんなアウトな事は言ってないであろう。いや、その筈だ。そうだと言ってくれ!
「……いや、特には」
「……なにかブツブツと言っていたようでござるが,良く聞こえなかったでござるでござる」
……ほっ、ということで僕はまた明日を見る事が出来るらしい。残念だったね、次のタイトルは「廻る夜」だよ。お楽しみにね!しかし、久しぶりに龍華に会えたのに全然話せなかったな……とかいって用もないのに会いに行くと絶対あの組織`sに目を付けられるし……でも学校以外じゃあんまり会えないし……うーん一体どうしたら……
「ブツブツブツ龍華ブツブツブツ龍華……ブツブツの龍華?……おっけい、まだ愛せる……」
「(うーん、ホントにリュウカ嬢を好いているようでござるな)」
「(ああ、中学の時はチラチラ見ていたぐらいだったんだが、まさか高校に入っていきなりアレをやらかすとはなぁ。俺も恋愛感情は無い、と踏んでたんだが……)」
「(ええ、隣の席の私も、藤原君が「龍華―!結婚しようぜー!」なんて、高校一発目の授業で寝言言うなんて思いもしなかったわ。というか一発目の授業で寝るとも思わなかったわ)」
「(おお、委員長。ガーデニングクラブの仕事は終わったのか?相変わらず良く切れそうなチェーンソーだな。……ああそうそう、その野球に誘う軽い感じで求婚しちまったせいでクラス全員に知られちまったんだよな)」
「(うん、あの時のクラスの微妙な雰囲気と鉄心先生の憐みの視線は忘れられない……アレが切欠で、クラス皆で銀次を見守ろうって決めたんだよな)」
「(おろ?ヤマダ、居たでござるか?)」
「(おお、ヤマダ、うす)」
「(あら、ヤマダ君、こんにちは)」
「(……いや、最初から居たけどね。あと俺の名前はヤマダじゃなくて――)」
「おーい、ヤマダ、英語のノート見せてー」
「ヤマダー、数学の宿題教えろー」
「ヤマダ君、クーラー買ってきてちょうだーい」
「いや、だから俺はヤマダじゃなくて……って最後だれだ!?クーラーなんて買えるわきゃないだろうが!パシリとかいうレベルを超えてんぞ!?」
わーわーぎゃーぎゃー
ふう、結論から言うとカレーにちくわは入れないよね。あと龍華カワイイってことか。
とりあえずカロリーめ~いとでも食べよ。
あ、委員長だ。
「やぁ委員長。相変わらず良く切れそうなチェーンソーだね。仕事終わり?」
「こんにちは、藤原君。ええ、今日の相手は中々手強かったわ。あなたは相変わらずヘンなものを食べているのね」
んー?結構おいしいのに。カロリーめ~いと・ファントムレインボー味。
っと。食った食った。んじゃ。お休み。
「ってお前!もう寝るのかよ!」
うるさいなぁヤマダくん。食ったら寝る。それが人生の真理なのだよ。鳥が空を飛ぶように。魚が海を往くように。ヤマダくんが座布団を運ぶように……そして――
「だ・か・ら!俺はヤマダじゃねぇって言ってんだろうがああああああああ!」
ぷっちん☆
「ヤマダ君、ちょっと君、……煩いわよ」
ぶーん、ぶーん。ギャリギャリギャリ。ぶーん、ぶーん。
「ちょ、え?い、委員長?な、何故チェーンソーを起動してらっしゃるのですか?……い、いやー相変わらず良く切れそうなチェーンソーですねー。あはははは……」
「………………………………」
ぶーん!ぶん!ぶん!ぶんぶんぶんぶーん!ぎゃ、ギャリギャリ、ギャリギャリギャリギャリ!
「……た、たたたたた、助けてー!ヒロ!ミゲル!銀次でもいいから!」
「総員退避!ミゲル!銀を担げ!アイツは中々起きないぞ!」
「yeah!……よっこらせ、でござる」
「……龍華―……すピー……」
「ああああああ!だ、誰かー!へるぷ!へるぷみー!」
「じゃあな、ヤマダ。お前の事嫌いじゃなかったぜ」
「惜しい奴を亡くしたな……」
「ヤマダ君は悪くない……ただ委員長を怒らせた。それが彼の死因よ」
「クーラー……」
「おお、お、お前ら……!覚えていろよ!ぜってェ化けて出てやる……!特に最後!せめて見捨てるなら俺の心配をしろ!そして俺の名前は――」
「スラッシュ」
ざ
ん。
キーンコーンカーンコーン……
お、予鈴。ふぁーあ、良く寝た。あれ?ヤマダくん。どったの?
死体一歩手前っていうか一回死んだけど神様の気まぐれで現世まで戻ってきたのはいいけど結局死に体、って状態だよ?というかここどこよ?ん?焼却炉か?
「……ぎ、銀次、か……?」
うん。
「……銀次、生きているって、素晴らしいんだな……ガクッ」
おおー、ヤマダくんが命の素晴らしさを悟った。うんうん。まさしく真理だよねー。生きているのは素晴らしい。食ったら寝る。鳥は空を飛び、魚は海を往く。ヤマダくんは座布団を運ぶ。
そして――
世界はただ廻る、悲しみも喜びも、愛も憎しみも、日常も超常も、全部ごちゃ混ぜにして。
うーんまさに真理。さ、授業行こう。ヤマダくんは気持ちよさそうに寝ているから放っておこう。きっと食後だね。