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第十話:廻る力

『……まさか、停葬回廊も所持しているとは、な。アンタ、最高に何者だ?』



 僕は今、家の階段を上り僕の部屋に向かっている。長話になりそうだったので、庭やリビングでは万が一な事があるかも知れないからだ。それに、どうせ神器について粗方話すつもりなので、ナンシーも居る僕の部屋の方が何かと都合が良い。ちなみに、喋る日本刀、雷貫光は僕の手の内にある。流石に珊瑚に持たせる訳には行かないからな。前述の台詞はそんな奴が発したものだ。意気消沈、と言うよりはどこか呆れた様な雰囲気を出している。

対する珊瑚は、今は一応大人しく付いて来ているが、未だその目には闘志が宿っている。負けん気が強いのは良い事だが、こっちにはこっちの事情があるんだ。そのギラついた目は止めて欲しい。


 僕はこれから起こるであろう、しち面倒くさい話し合いに既にうんざりしながら部屋のドアを開けた。


『銀次さん!だ、大丈夫でしたか!?下で何かあったん……うえええっ!ら、雷貫光!?ま、まさかの四つ目ですか!?さ、流石銀次さん……。って、ええっ、い、妹さんまでいる!?何で!?』


 ああ、そういえばナンシーには「下でなんか音がしたからちょっと様子を見てくる」って言って出てったキリだもんな。ってかナンシーもコイツ知ってたんだ。


 僕は勘違いプラス、テンパリングをしているナンシーに「こいつは珊瑚のだ」とだけ言い、『……三つ……だと?』やら「ベ、ベッドが喋った……?」とか呟いている雷貫光と珊瑚に向けて、クールに(あくまで僕主観)こう言い放った。


「とりあえず、一から説明する。黙って聞いとけ」


やべ、今の僕、カッコ良くない?




 僕はベッド(というかナンシー)に腰掛け、すぐ手の届く範囲にジャックとキャシーを置く。雷貫光はベッドの上に置き、尚且つ壁に立てかけている。これで、珊瑚も迂闊に手を出せないだろう。ちなみに、珊瑚は床の上だ。ん?良いんだよ。ここ、僕の部屋だから。


「さて、お前ら、とりあえず自己紹介しとけ。そこの日本刀はともかく、珊瑚は何も分からんだろうからな」


 僕はジャック、キャシー、ナンシーにそう促す。先ほどまでテンパっていたナンシーは、状況が把握できたのか大人しくしている。その空気の読めるっぷりは素晴らしい。見習って欲しい程だ。色々な奴らに。


『では、小生から参りましょう。妹君、いえ、珊瑚殿と御呼びしても宜しいでしょうか?』


「あ、は、はい。よ、よろしいです!」


 何だか可笑しい言葉遣いになってるぞ、珊瑚。僕はその様子を見てニヤニヤと笑ったのだが、彼女はそれはもう強烈な視線を僕に送って来たので、止めた。おー怖い怖い。つか珊瑚、ジャックにそんな畏まらなくてもいいぞ。こいつは物腰は柔らかいけど、びっくりするぐらい性悪だから。だが僕は声に出さない。無駄な会話は避ける。僕は大人になったのだ。


「ありがとうございます。……珊瑚殿、お初にお目に掛かります。小生、真名を「因果刻輪」と申します。このやたら目が死んだ主から「ジャック」と名づけられまして、以来、そう名乗っております。このヘタレな主とはもう十年近い付き合いであります」


 ……僕は大人だ。だから、無駄な会話を避ける。こいつがどんな失礼な事を言っても、会話の進むスピードは変わらない。ならば、ここは無視だ。


『じゅ、十年!?アンタ、そんな最高に長い間『因果刻輪』を所有していたのか!?そんな話、「御使い団」でも聞いてないぞ。……珊瑚、お前は気付かなかったのか?』


「……ぜ、全然気付かなかった……」


 何やら呆気に囚われている珊瑚達。無理もないかな。ジャックぐらい強力な神器を所有している場合、その情報はすぐ色々な所に伝わるらしい。それは例の、神器を封印している連中にも言えるし、逆に、神器の所有者を保護している団体もあるのだが、そこにも同じように伝わる。雷貫光があんなに驚いているのは、恐らくあいつは神器の所有者を保護している団体にでも居たのだろう。『御使い団』という名前は、ジャックから聞いたことがある。その情報の出所は、何の事は無い。本人から出るのだ。つまり、調子に乗ってバンバン神器を使うから、それが次第に噂になって、神器を狙う連中や、守る団体を引き寄せるのだ。そういう団体から十年もスルーされるのは、通常あり得ない。スルーされる理由は、気付かれていないからだ。気付かれていない、と言う事は、能力を目立つ範囲で使用していない、と言う事である。強大な力を有しているのに関わらず、だ。雷貫光の驚きは、そこから来ているのだろう。


『主はヘタレですからな。気付かないのも、無理はありますまい。更に言うとケチなので、下らない事にしか小生を使用してくれないのです』


 僕は大人だ。そんな大人な僕は、敢えて口には出さない事にした。その代わり、ジャックを床に叩きつけ、踏みつぶす。テメェいい加減にしろよ。


『な、何をするのですか、主!』


「それはこっちの台詞じゃ、ボケ。要らん事グチグチ言うんじゃねーよ。大体、下らない事になんて使ってないじゃないか」


『主は小生を使ってゴミ処理しかしていないじゃないですか!もう携帯食料の袋を分解する作業は嫌なのです!もっと小生にしか出来ない様な事をして欲しいのです!』


「馬鹿お前、ゴミ処理は重要な仕事だぞ。お前のお陰で、僕の部屋からは全然ゴミが出ない」


『小まめにゴミ捨てすればいい話でしょう!?』


『はいはーい。そこまでよ。話が全然進まないし、妹さんなんか目を白黒させているわよ。……御免なさいね?』


「は、はい…………」


 僕とジャックの口論にキャシーが割って入る。確かに、珊瑚はパンダもかくや、と言わんばかりに目を白黒させていた。情報量が多すぎて、頭がパンクしているのだろう。目の前でいきなりナイフと兄が喧嘩しだしたのだから、まぁ仕方ない。このままだと埒が明かないので、ジャックに続きを促す。


「……ジャック、続きだ」

『……了承。……そうですな。小生の能力をお話ししましょうか。いいですな、主』


「ああ。どうせそこの日本刀は知っているんだ、構わないよ。どうせなら、実演した方がいいだろ。ホレ、これを斬れ」


『……また携帯食料の袋、ですか……』

「贅沢言うな。……行くぞ」


 ナイフを握り、僕はカロリー・め~いとの空袋に意識を向ける。


『因果刻輪、起動』


 ジャックの声と共に、とたんに真っ二つになる空袋。無論、僕は何もしていない。ただナイフを握っていただけだ。あ、こいつ手を抜きやがったな。


「真面目にやれよ、ジャック」

『いやいや、先ずは順に見せないと珊瑚殿には伝わりますまい』

「……それもそうか」

「ま、まだ何かできるの……?」


 恐れ慄いた声で呟く珊瑚。ああ、庭の一件で僕はジャックを珊瑚に向けたっけ。もしかしたら、珊瑚は真っ二つになった空袋に自分を重ねたのかもしれない。そりゃビビるか。だけどな、こいつの力はそんなもんじゃないんだよ。


「んじゃ、ジャック。次は全力だ」

『承りました。……因果刻輪、起動』


 今度は、真っ二つ、なんてモンじゃない。二つに分かれた空袋は、ジャックが起動したとたんに、姿を消してしまった。後には塵も残っていない。


「……き、消えた……?」

「消えたんじゃない。斬ったんだ。微粒子レベルまでな」

「……え?」

『そうです。これが小生、因果刻輪であります。所有者が見えてさえいるのならば、どんなものも、斬り刻む事が出来ます。これが本当の微塵斬り、と言うやつですな』

「そ、そんな……」


 改めて思うが、こいつの能力は反則過ぎる。なんせキャッチコピーが『地球も斬れます』だからな。なんだったら、太陽だって斬れるし、夜になれば月だって斬れる。まぁ地球とか斬っちゃえば僕も死んじゃうので、勿論しない。地球と一緒に心中、なんてロマンが溢れ過ぎだろ。




 それはともかく、あーあ。すっかり珊瑚が怯えちゃった。まぁこれも狙いの一つだが。


 神器の持つ力、特にジャックの力の強大さを見せれば、少しは冷静になるだろう、と僕は踏んだのだ。その効果は、見ての通り覿面だ。だけど、やり過ぎたかも知れないな。さっきまでのギラついた目はすっかりとなりを潜め、今や涙目だ。もしかしたら、真っ二つどころか死体も残らなかったかもしれない、と言う状況だった訳だから、当然か。いや、むしろ今もリアル微塵斬りを体感させられるかも、とでも思っているのかもしれない。無論、僕にはそんなつもりはないのだが。


「……安心しろ。お前にはこの能力は使わん」

「ほ、本当……?」

「本当だ」


 涙目の妹を安心させる僕。あれ、僕イケメンじゃね?



『じゃあ次は私ね。妹さん……いえ、珊瑚ちゃん、と呼んでいいかしら?』


「は、はい。だ、大丈夫です」


 一通りジャックの紹介が終わったので、キャシーが自己紹介に入る。どうでもいいが珊瑚、キャシーは今は少し気だるそうなお姉さんキャラだけど、あいつはたまにピョンとか言っちゃうんだぞ?そんな奴にちゃん付けで呼ばれていいのか?だけど僕は大人なので以下略。



『では……初めまして、珊瑚ちゃん。私はキャシーこと『停葬回廊』。銀次と出会ったのは三年ぐらい前かしらね。能力はさっきも見せたけど、「時間を五秒止める」よ。さぁ銀次!実演しなさい!』


「え?何で?」


『……いや、何でって……!ジャックが実演したんだから、次は私でしょう!?』


「いや、お前の能力はさっき見せたじゃん。それに、能力は『時間を止める』で説明がつくじゃないか」

『……ぐ……!それは、そうだけど……!』

「さてはお前……能力を使いたいだけだな……?」

『…………そうだピョン!文句あるピョン!?ジャックやキャシーばっかりずるいピョン!私も能力を使いたいピョン!』


 ピョンピョンピョンピョンうっせーよ。ほれ見ろ、珊瑚なんて、また怯えているじゃないか。明らかにジャックとは違う怯え方だぞ。なんか、見てはいけないものを見たような怯え方だ。……でも、今回はキャシーも活躍したし、その能力上、日常では殆ど使用されない訳だから、ストレスも溜まるだろうし。……偶にはいいか。


「……しょうがない。行くぞ。キャシー」

『え!?マジピョン!?』

「ああ、マジピョンだ。……珊瑚、良く見てろよ」

「……う、うん」

『うわーい!停葬回廊、起動!』



 そして止まる時間。この停止した時間は、僕しか動いていない。キャシーもその動きを止めるし、神器も動きを止め、その能力を使えない。キャシーとジャックのコンボとか出来たら最強なんだろうな、とか思いながら、僕は珊瑚の後ろに立った。……2……1……0。



「あ、あれ?銀次?ど、何処?」


 突然目の前のベッドから消えた僕を探す様に、首を左右に振りながら辺りを見渡す珊瑚。

だが残念。


「後ろだ」

「きゃあっ!?」


 珊瑚が驚きの声を上げる。ところで「後ろだ」とか言う台詞、一度は言ってみたいよね。僕は今言ったぜ。羨ましいだろ?


「とまぁ、これがキャシーだ。次は……」


『私ですね、えーと……珊瑚さん、でいいですか?』

「う、うん……」


 最後はナンシーだ。こいつの能力は他の奴に比べて比較的平和な能力だ。おまけに、本人も穏やかな性格をしているので、非常に安心して見ることができる。珊瑚は、そんなナンシーに話しかけられて今は落ち着いているが、前のジャックとキャシーの様子を見て、少し警戒をしているようだ。大丈夫だぞ、珊瑚。そいつはまともだから。


『では……初めまして、私は無定形神器、『デザイア・デザイン』です。どうぞナンシーと呼んで下さい。銀次さんには今年の三月頃出会いました。今はベッドを器にしていますが、私は決まった形を持たないので、自由に器を入れ替える事ができます。能力は『所有者の持つ欲望・欲求を上下させる』事です。例えば、食欲を減らしたり、ですとか。目に見えた結果は出にくい能力ですので、実演はしなくても大丈夫ですよね?』


「ああ、別に必要ないだろ」


『はい。では、これで以上です。……珊瑚さん、よろしくお願いしますね』

「あ、うん。こちらも……よろしく……」


 僕は感動しました。これだよ。こう言うのを自己紹介って言うんだよ。意味のない所有者の悪口とか、無駄な能力実演とか、そう言うのは要らないんだよ。心なしか珊瑚もホッとした様な雰囲気を出している。


「……お前らもこう言うのをしてくれよ」

『何を仰います!完璧だったでしょう!』

『そうピョン!』

『キャ、キャシーさん、口調、口調!』



『……んで、アンタは結局、俺らに何を話したいんだ?』


 僕らがいつも通りの漫才をしている所に、今まで一言も発しなかった、雷貫光が、僕に向かって言った。さっきはあんなに最高最高と言っていたのに、今は冷静な口調だ。僕達の行動を測っているのだろうか。こいつなら、意外と簡単に理解してくれるかもしれない。そう言えば、こいつは神器の所有者を守る『御使い団』に居たっぽいんだよな。


「……まぁ、これから話すさ。率直に言おう。雷貫光、珊瑚。お前ら、これから余り能力を使わないでくれないか?」


『……』

「え……?」




 僕は珊瑚と雷貫光に、僕の知りうる情報を全て話した。神器の狙う組織が居ること。それに僕達の兄である藤原金壱と、近所のお姉さんである山岸龍姫が所属していること。恐らく、僕の高校の生徒会も、それに加担しているだろう、と言う事。勿論、僕はそれらに一切関わりが無く、また、兄貴達も僕が神器を所有していることを知らない、と言う事も話した。



 珊瑚は、僕のみならず、兄貴までもが超常な事に関わっている、と言うのを聞いて、若干の動揺を見せた。対して、僕の言いたい事が伝わったのであろう、神器『雷貫光』は。今までの様子とはうって変わり、極めて冷静に自分の知る情報を語ってくれた。


 雷貫光は予想通り、『御使い団』に所属している人間に所有されていたらしい。しかし、ある日、神器を狙う集団(雷貫光曰く、『正義の掌』という名前らしい。これは、『御使い団』と同じく、全世界共通の名前らしいので、恐らく、我が高校の生徒会もその『正義の掌』という名前なのだろう)に襲撃されたと言う。そして、散り散りになった仲間達を探す為に雷貫光の前の所有者は掛け廻ったのだが、そこで、雷貫光とは相性の悪い『正義の掌』の構成員に出会い……


『俺は、抵抗すんな、って言ったのによ、アイツは「お前を封印させたくない」とか言って、敵に突っ込んで行ったんだ……』


 いくら相性の良い相手とは言え、雷貫光はかなり強力な神器だ。その捨て身の特攻は、神器の封印を目的としている『正義の掌』でさえ、苦渋の決断をさせる程だったと言う。



 

 それは、所有者の殺害。




 ……こうして、雷貫光は、かつての所有者を失い、ランダムな選択で次の所有者、つまり珊瑚のもとに来た、と言う事だ。


「……お前が所属していた『御使い団』は、どうなったんだ?」

『多分、全滅したろうよ。あまり攻撃的な神器が無かったからな、ウチは』


 部屋に沈黙が流れる。「お前を封印させたくない」か。僕もこう言う台詞を言えるだろうか。何でも、『封印』されてしまうと、神器は永久に日の目が見えなくなるらしい。……僕も、こいつらをそんな目に合わせたくは、ないな。


『なぁ、珊瑚。俺は神器だ。所有者の望みを叶える最高の道具だ。だから、お前が望むなら、俺は最高に力を貸そう』


 だが、と雷貫光はそこで言葉を区切った。その声の調子は、まるで自分の子供に言い聞かせている様な優しい声だった。


『お前の身内が、倒したい相手が「正義の掌」に入っているのならば、ちょっと考えないといけない。あいつらはとにかくしつこい。俺の存在を知ったら、必ず追ってくるだろうよ。俺はこの辺の「御使い団」については、全然分からない。そんなバックアップの無い状態で、お前を危険な目に合したくないんだよ』


 勿論、俺も封印は最高に御免だけどな、と付け加えて、雷貫光は言葉を終えた。要は、この神器は珊瑚に前の所有者と同じ目にあって欲しくないのだろう。


「……僕は、神器を三つ所持しているし、内二つはその『正義の掌』にマークされているであろう、強力な力を持っている。僕は、追われるのも御免だし、『御使い団』とやらに所属するのも嫌だ。ひっそりと暮らしたいんだよ、僕は。だから、お前に手は貸さないし、邪魔するつもりも、特にない」

 


 これは僕の本心。神器の所有者に関わってしまうと、多分その内僕の事が公になってしまう。だから、僕はそう言った。ここで格好着けても仕方のない事だから。でも、次に言う言葉もまた、僕の本心だ。



「だけどな、僕もお前が心配なんだよ。僕はいい加減な兄だけどさ、やっぱり僕は君の兄なんだよ。その兄からの忠告だ。……ここは大人しくするべきだ。お前が兄貴に勝ちたいと言うことは知っているし、その神器を使えば、兄貴といえど楽勝だろうさ。でもさ、お前はそれでいいのか?そんなインチキを使って、兄貴に勝てて嬉しいか?それに、お前がその神器を人前で使ったら、狙われるんだぞ?捕まったら、その神器は永遠に暗闇に閉じ込められてしまうし、下手したらお前も死んじゃうんだぞ?……だからさ……」


 珊瑚は聡明で優しい子だ。神器の持つ危険性。自分の立場の危うさ。軽率な行動による悲惨な未来。それらを、彼女なら分かってくれるだろうと僕は思っていた。だが、やっぱり僕は馬鹿だった。



 ――物事の本質を一方的な側面だけで判断する奴は、馬鹿だ。正しくその通りである。僕は珊瑚の本質を、断片的にしか見てなかったのだ。


「五月蠅い……」

「珊瑚……?」


 僕の言葉を遮って、珊瑚は低い声で呟いた。俯いているので表情は見えないが、なんとなく、『嫌な予感』がした。はい、本日二度目。


『ぬぅ……!?』

『あっ……!?』

『えっ……!?』

『……お?』


 ジャック、キャシー、ナンシー、そして雷貫光までもが、どこか間の抜けた声をだした。それはそうだ。なんせ珊瑚が一瞬にしてベッドに飛び乗り、雷貫光を手にし、あまつさえ僕にその切っ先を向けているのだから。


「……落ち着け、珊瑚」

そう言う僕も結構落ち着いてない。まさか、また地雷を踏んだのだろうか。


「五月蠅いっ!五月蠅いんだよっ!知った風に言って!何もかも諦めたあんたに、あたしの気持ちが分かってたまるか!あんたに、どんなに努力しても届かない壁がある虚しさが分かるか!……でも、今は違う。あたしは、力を持ったんだ。兄さんを倒す、力を得たんだ。この力で!兄さんを見返すんだ!それを……あんたに、あんたなんかに!」


 邪魔させれてたまるか!珊瑚はあらん限りの声で、そう叫んだ。恐らく、彼女も自分の行動の愚かさが分かっているのだろう。その目からは、先程の強い意志は感じられないし、良く見れば刀を持つ手も、震えている。それでも、彼女は引けないのだ。たとえどんな手を使っても、兄貴を倒すために。



 ――そういう、目的のためなら手段を選ばない所は僕にそっくりだ。こんな時なのに、僕はつい嬉しくなる。



「雷貫光!」

『……クハハ。珊瑚が望むなら、俺はそうするよ。最高に、俺を使え』


……まぁそうなるわな。神器は所有者の願いを叶えるもの。所有者の強い想いには、逆らえない。そこで雷貫光が寂しそうに笑ったのは、僕の気のせいではない筈だ。


「あたしの邪魔をするのなら!先ずは、あんたから!」


バチバチと音がして、珊瑚の周りに雷の球体が現れる。……2、3……8個か……。


……出しすぎじゃね?僕を殺す気か?殺す気だろうな。あ、寒気と吐き気が。


「貫けえええええええええええええっ!」

『雷貫光、起動!』


 気合一閃。雷の球体が槍状になり、僕に襲いかかる。


 今更だけど、実の兄をあんた呼ばわりは止めて欲しい。そう思いながら、僕はこちらに向かってくる槍状の雷を見つめていた。相変わらずの、死んだ目で。



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