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08. 救いの手


「……大神官様」


 アルバートが苦い顔をする。

 ルシアンが近づいてきて、私と聖騎士たちの間に入った。私を背にかばうように。

 優しさからくる行動じゃないと知っている。それでも、うれしさと安堵で涙が出そうになる。


「副団長ヴィンセント。すべての話が聞こえたわけではありませんが、私にはあなたが聖女様を責め立てていたように見えました。私の勘違いですか」


「いいえ。仰る通りです」


 ヴィンセントがしれっと肯定する。


「居並ぶ男たちの前で聖女様に恥をかかせるような者は聖騎士とは言えません。相応の処罰を覚悟してください」


「大神官様! ヴィセントの無礼は団長たる私の責任です。どうか罰は私に……」


 その言葉にルシアンはゆっくりと振り返り、私の隣のアルバートを見据える。

 頭を下げるアルバートに向けるその瞳は、どこまでも冷たい。


「あなたにも責任があるのは言うまでもありません。あなたはここ中央神殿の聖騎士団長なのですから。そもそも、私が割って入る前に聖女様をかばうタイミングはいくらでもあったでしょう。ボーッと突っ立っているだけならそこの訓練用のわら人形と変わりません」


「……っ」


「団長は関係ありません、団長は俺を止めました! 俺の責任です! 罰は俺が……!」


「あーもうやめてよね」


 ヴィンセントの言葉を遮るようにそう言った私に、視線が集まる。

 その中でもひときわ怖い視線がルシアンだっていうんだからシャレにならない。


「くだらないかばい合いなんて見せないで。背筋が寒くなるわ。部屋に戻りましょ、ルシアン。送って」


 そう言って彼の腕に自分の腕を絡める。

 触れられるのが嫌いなのは知ってるけどごめんなさい、注目されすぎて色々ありすぎて腰が抜けそうなんです。


「処罰はどうなさるのですか」


「あとにしてちょうだい。私は疲れてるの」


「……承知いたしました」


 ルシアンに促され、歩き出す。

 私は誰とも視線を合わせないよう、ルシアンの腕にしがみつきながらただ前を見て歩いた。

 しばらく歩いて、ようやくひと気のない場所までくる。

 私は彼の腕から手を離した。


「急に腕を組んだりしてごめんなさい」


 視線を下げたまま言う。彼が怒った顔をしていたら、今は耐えられないから。


「その程度のこと、別に気にしません」


「それから……助けてくれてありがとうございます」


「サポートすると言ったでしょう。これが私の役割です」


 感情を感じさせない彼の声。でも、冷たくはない。私を責めることもない。

 そんな彼に気が緩んだのか、鼻の奥がつんとする。


 嫌われてた。

 聖騎士たちにめちゃくちゃ嫌われてた。男漁りしに来たいやらしい女だと思われてた。みんなの前で責められた……。


「ここで泣かないでくださいよ。ここから先は人通りがありますから」


 いつも通り同情とは無縁な彼の言い様が、今はいっそありがたい。

 優しくされたら、かえって泣いてしまいそうだから。


「泣きませんよ。私はオリヴィアですから」


「……」


「へ、部屋に行くまでは」


 ふ、と彼が笑う。

 顔を上げると、彼が微苦笑していた。

 苦笑交じりとはいえ、彼の作り笑いではない微笑を初めて見た気がする。


「いい心がけですね」


 彼が私の手を取って歩き出す。

 手袋越しに伝わる彼の体温が優しくて、また泣きそうになった。


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