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28. 謝罪


 あああもう恥ずかしい。

 まさか愛の告白アイテムだったとは。

 ルシアンは単にからかってるだけだってわかってるけど、それでも恥ずかしい!


 ……なんてことを考えていて、ふと気づく。

 迷った。

 祈りの間から自室まではそう距離はないはずなのに、迷った……。

 いくら考え事をしていたからとはいえ、どうして私はこんなに方向音痴なの。

 あっちの方だったかもしれないと角を曲がると、廊下の先に赤い髪の騎士が立っていることに気づいた。

 思わず天を仰ぎそうになる。

 私、ヴィンセントに会う呪いにでもかかってるの?

 もういいや、あからさまだと思われようが知らない。どうせわがまま聖女だし。

 きびすを返したそのとき。


「聖女様」


 あーもう聞こえないふりして立ち去っちゃおうかなー。

 と思っている間に、彼がすぐ後ろに来ていた。


「……何か御用ですか」


 振り返らずに言う。


「その……」


 珍しく歯切れが悪い。

 なんだろう?


「……申し訳ありませんでした」


 彼の口から出た謝罪の言葉を意外に思い、振り返る。

 以前のような挑発的な顔ではなく、本当に申し訳なさそうな顔をしていた。


「何に対する謝罪ですか?」


「あなたを疑ったことです。それから……レンから手紙をもらいました。聖女様のお口添えで、別の神殿に聖騎士として復帰することができたと喜んでおりました」


 ああ、再就職うまくいったんだ。

 よかった。


「レン卿の件は、私に非がありますから。誤解も解けたようでよかったです」


「レンを救っていただき、心から感謝いたします。あいつは子供の頃から聖騎士になることだけを夢見て、それを支えに生きてきた男でしたから」


「子供の頃?」


「レンは、俺と同じく王都の貧民街出身で……弟のようなものなんです」


 だから誰よりもオリヴィアを恨んでいたのか、と納得した。

 弟のようなレンが、弄ばれた挙句追放されて刑罰を受けて、さらに聖騎士として生きることすらできなくなったから。

 オリヴィアは二人の関係を知っていたのかな。だとしたらより一層、罪深い。


「聖女様を疑っていたことを漏らしたら、団長にガッツリ叱られました。聖皇猊下や大神官様が“聖女”として認めている方に、一介の聖騎士が疑念を向けるなどあってはならないと」


 やっぱりアルバートは真面目なんだなあ。

 ヴィンセントよりも事情を知っているし、当然彼の中でも私が別人じゃないかと疑う気持ちはあるんじゃないかと思う。

 それでも、私をあくまで聖女として扱ってくれた。

 自分の役割に忠実というか、さすが聖騎士団長だなと思う。


「正直なところ、俺にはやはり別人に……いえ。いずれにしろ、あなたはレンを救い、御身を顧みずメイドを救いました。慈悲の心を持った真の聖女様であることはもはや疑いようがありません。数々のご無礼、どうかお許しください」


 ヴィンセントが胸に拳をあて、深々と頭を下げる。

 そろそろ一切の慈悲を捨てて辺境の神殿に送ろうかと思っていたけど、よかった。もう彼は敵意を向けてくることはないだろう、たぶん。


「いろいろと誤解が解けたようでよかったです。では私は部屋に戻ります」


 そう言って彼の横を通り過ぎようとすると。


「聖女様。そちらはお部屋とは真逆です」


「……。ちょっと散歩してから戻ろうかと思っただけです」


「左様ですか。ですがそちらは行き止まりです」


「……」


 泣きたくなってくる。

 どうして私の方向感覚は壊れているの。


「お部屋までご案内……いえ、護衛いたします」


 笑いを含んだ声でヴィンセントが言う。

 彼が楽しそうな様子を、初めて見た気がする。

 彼がゆっくりと歩き出し、私もそれに続いた。


「聖女様は一体いつから方向音痴になられたのでしょうね」


 以前のような疑念を含んだ棘のある声ではなく、どこかからかうような響き。


「……長い眠りの後遺症です」


「そうなのですか。やはり常人と違うお方は何かと大変ですね」


「……」


 彼の広い背中を見ながら思った。

 やっぱり辺境の神殿に行ってもらおうかな、と。


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