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腐れ縁の同級生と同居してたら何故か浮気を疑われて泣かれた件

作者: 三剣 シン

ふわふわ設定です

 三年前、ひょんなことから女友達の家に転がり込むことになった。

 何を言っているのかわからないとは思うが、なぜこうなったか当人である僕でもわからない。

 確か前住んでいたアパートが取り壊しになったか何かで退去しないといけなくなったことだけは覚えている。

 新居探しが難航し、ホテル生活も覚悟し始めていた時だったと思う。


「うち、来る? 部屋余ってるし、電気代とガス代さえ払ってくれれば家賃はいらないから」


 などという超魅力的なお誘いをされた気がする。

 もちろん、全力で断ったが。

 彼女とは中学、高校と一緒でいわゆる腐れ縁ってやつだった。

 恋愛感情なんてこれっぽっちもない、いわゆる悪友。

 クラスでは学年一、二を争えるとかおだてられて出たミスコンでうっかり準グランプリ? をとるぐらいには顔は整っているらしい。

 そこいら辺は僕には難しすぎてさっぱりだった。自慢してきた彼女に「へー。おめでとう」の一言で返したことは今でも時折恨み言を言われる。

たしかに、悪友から見ても確かに顔は整っており、体は割と魅力的だった。

そんな彼女相手に色々と耐えれる気がしなかったのも同居を断ることになった原因の一つだった。

 こうやって心配してくれる彼女にだけは迷惑かけまいと、必死で新しい家を探したのだが、前の家の家賃が異常に安すぎたせいか、普通に暮らしていけるレベルの物件すら見つからなかった。

 ホテル暮らしをするにしても、それほど貯金があるわけでもない僕にとってはなかなかにハードルが高い。

 そんな時、再び、お誘いを受けた訳だ。

 そりゃあもう、たくさん悩んだ。一週間ぐらい悩んだ。

 寝不足になって、友達に心配されるぐらいには悩んだ。

 でも、流石に退去まで猶予が無くなったのと、鋼の意思を持っていく覚悟を決めたことで、申し訳ないけど彼女の家にお邪魔することにした。

 うちの両親と、彼女の両親に経緯を説明したときは、何故か非常に喜ばれた。

 せめてどちらかの両親が止めてくれたら(またはうちの両親が家賃の援助をしてくれたら)よかったのに、と心の底から思っている。

 そういうわけで一応同居、ということになったのだが、もちろん、家賃、電気代、ガス代、食費などは半々だ。僕としては七割負担でも文句は言えない立場だなぁ、と思っていたが、彼女が半分しか受け取ってくれなかった。

 半々でさえ、最初は受け取れないと言っていた彼女だったが、数か月押しつけ続けたら諦めたのか何も言ってこなくなった。

 家探しはその間も続けていたけど、結局いい所は見つからなかった。

 二人で折半する家賃は思ったよりも安かったのと、それ以上に朝と夕食を彼女がちゃんと作ってくれるのがありがたかった。

 僕の分は作らなくてもコンビニ弁当で済ませるから大丈夫といったのだが、彼女がそんな事知らないとでもいう風に二人分作るのだから仕方ない。

 彼女の作る料理はどれもおいしくて、特に僕の好きなカレーはよく作ってくれていた。

 彼女はいい奥さんになりそうだな、なんて思いながら、いつもありがたく頂いていた。

 そうやって同居している間、友達からには同棲中の彼女がいると茶化されていた。遅くなりそうな時、毎度連絡する相手が女友達であると言っても信じてもらえるわけがないので当たり前といえば当たり前だが……。

 最初は毎回否定していたのだが、十回を超えたあたりで好きなように言わせておこうと思った。

 訂正が面倒になった訳では断じてない。

 幸いなのかわからないが、一緒に住んでいる間、僕に彼女に対しての恋愛感情が湧くことはなかった。

 結構な頻度で無防備な姿を見せる彼女に少し、本当に少しだけ邪な思いを抱いたのは内緒である。それでも、露骨にそういう姿を見せたり、彼女に襲い掛かったりしなかったのは僕の最大の功績であると声を大にして叫びたい。

 彼女には僕が男であるという自覚が非常に、非常に足りなかったとはいつか理解してもらいたいものである。

 そうして長い間耐え続けた僕であるが、一年以上たったある日に、それが決壊した。

 といっても僕が襲ったわけではない。いや、正確には僕が襲ったのだが……。

 しょうがないだろう。数日間、寝ようと思うと布団に忍び込んでくるのだから。我慢しろ、というほうが無理な話である。

 それでも、僕は必死に耐えた。ここで手を出したら、彼女との関係が壊れてしまいそうで怖かった。

多分一週間ほど耐えていた気がする。もはやあの時の記憶は定かでない。

とにかく、一週間近く耐えていた僕だが、我慢が限界に達し彼女に手を出してしまった訳だ。

朝起きたときはやばかったことを今でも鮮明に覚えている。なんて言い訳するかとか、彼女の両親にどれだけなぐられるのかとか、色々頭の中をよぎった。

 と、まぁ、そんな僕の心配をよそに、それからの日常は驚くほどいつも通りだった。

 特に関係が変わるわけでもなく、気まずくなるわけでもない。いや、少しだけ変化した。たまに肌を重ねるようになったのだ。

 お互いしばらくそういう相手がいなかったのも原因の一つだろう。

 まぁ、だからと言って、僕も彼女にも、お互いに対する恋愛感情は湧かなかったのだろう。

 あれから二年たっても数日に一回肌を重ねるだけの関係は全く変わっていなかった。




「ただいま」


 住み慣れた部屋の玄関をゆっくりと開ける。

 時刻は午前三時半。

 きっと中の彼女は深い眠りについているだろう。

 重たい荷物を何とか家の中に引きずっていく。

 寝ている彼女を起こさないようにしながら、ゆっくりとリビングの扉を開けるとテレビがついている。

 夜だからか音は流れていない。電気をつければ、テレビの前に置かれたソファに体育座りの彼女が目に入る。

 基本夜型の僕と違って彼女は昼型だ。

 十二時まで起きていることなんて滅多になく、たまに僕とゲームしているときに十二時を回るととても眠たそうにしているのが印象的だった。

 彼女がこちらに気が付いたのか、虚ろな目で見つめてくる。その目の周りは真っ赤に腫れていて、頬には数滴の涙がついていた。


「た、ただいま」


 しばらく続いた沈黙に先に耐えられなくなったのは僕の方だった。

 また、沈黙。彼女の頭の理解が追い付いていないのか、ポカンと僕の方を見つめてくる。


「ついに、幻覚が見え始めたのかな、私」


 ソファから立ち上がり、フラフラと僕の方に歩いてくる彼女は非常に弱っているようだった。

 ニヘラと笑いながら、彼女は僕に抱き着いてくる。普段はいい香りのする彼女の髪からだったが、今日はその香りが少し薄いように感じられた。

 柔らかな彼女の体は少し震えているようで、抱きしめてあげると安心したかのようにその震えが止まっていく。


「あったかいなぁ」


 彼女の手が僕の背中に回される。これでも彼女とは十年ぐらいの付き合いになるのだ。

 きっと何か辛いことがあったのだろうと、友達から鈍感と言われ続けている僕でも推測出来る。

 数分、いや、もっと長い間、僕らは無言だった。

 こういう時に彼女にかける言葉を僕は知らないし、彼女もただ僕を抱きしめ続けるだけで何も言わない。

 たまに嗚咽のようなものが聞こえてきて、服が少しずつ濡れていくので、背中を擦ってやることぐらいしか僕にはできなかった。


「とりあえず座っていい?」


 彼女がしばらくこのままだろうと判断した僕は彼女にそう問いかけた。

 流石に足が疲れてきたので許してほしい。しばらく肩を震わせていた彼女がゆっくりと頷いたのを確認して僕はソファへと移動する。

 彼女を慰めながら、ついていたテレビを消し、つい数分前に届いていた友達からの連絡に返事を返す。

「あ、えっと、ごめん」

 ようやく我に返った彼女が申し訳なさそうに呟いたのは朝日が顔を出して部屋の中がだんだん明るく照らされ始めた時だった。

 疲れがたまっていたのか、彼女を抱きしめながら半分寝かけていた僕は、その声で意識を現実に引き戻される。


「ああ、うん。全然、大丈夫」


 いったい、何が全然大丈夫なのか。

 それでもその言葉に安心したのか、強張っていた彼女の身体から力が抜けていく。


「何かあったの?」


 彼女の身体がビクッと跳ねたのが分かった。

 落ち着いていた彼女の身体に再び力が入る。

 しばらく、彼女は僕に言うべきかどうか悩んでいたようだった。


「言いたくない?」


 そう問いかけると、彼女はフルフルと首を横に振る。


「言えそう?」


 彼女はしばらく悩んだ後、恐る恐る頷いた。


「そっか……」


 再び僕と彼女の間に沈黙が流れる。


「あの……さ」


 彼女が再び口を開いたのは時計の長針が一周しようとしていた時だった。


「う、浮気を」

「浮気?」


 誰がしたのだろう。

 彼女がしたのだろうか。

 そもそも彼女に彼氏という存在がいたということを知らなかった。

 それなら僕がここにいるのはもしかして非常にまずいのではないか。

 彼氏から僕との関係を浮気だと問い詰められたのだろうか。

 いや、体の関係はあるし、浮気だと言われれば否定することはできないのだけれども……。


「してきたのかなって」

「誰が?」


 思わずそんな言葉が口からこぼれ出た。

 そんなの一人しかいないだろう、ということはどこかで僕も分かっていた。


「雄介が」


 あ、雄介というのは僕の名前だ。


「僕が、浮気?」


 彼女がこくりと頷いた。


「あー」


 なるほど、分かった。

 理解した。

 鈍感と言われている僕でも何となく、彼女の言っている意味が分かった。

 まずは、そこの認識をすり合わせなければいけないかもしれない。


「僕たちって付き合ってるの?」


 その問いかけで彼女の顔が絶望に染まったのが分かる。


「違ったの?」


 震えながら彼女が問いかけてくる。

 なんと答えるべきなのだろうか。

 生まれてこの方、彼女のような存在すらできたことなく、友達だってお世辞にも多いとは言えないだろう。

 そんな僕が明るく、友達も多い彼女と、友達になれたのすら奇跡に近いのだ。

 しばらく、黙っていたのを彼女は否定と捉えてしまったらしい。


「ご、ごめんね。私。すっかり付き合ってるつもりだった……」


 彼女の声がだんだん小さくなっていく。

 再び、部屋の中は静けさに包まれる。


「こ、この家から、出ていくの?」


 次に口を開いたのも彼女だった。

 目に大量の涙を浮かべながら、問いかけてくる彼女は申し訳ないが非常に可愛らしかった。


「わ、私ね。浮気されてもいいよ。二番目でもいいよ。もっと、もっとさ、雄介に尽くすよ。最近、少し家事出来てなかったけど、が、頑張るよ?」


 少し意地悪が過ぎたらしい。

 あまりにも必死な彼女の事がだんだん愛おしく思えてくる。

 その間も彼女は必死に言葉を紡ぎ続ける。

 僕だからいいものの悪い男に騙されないか非常に心配である。

 二番目でもいいとかいっちゃってるし……。


「一個確認なんだけどさ」


 きっとこれを確認しないと前に進めないだろう。

 僕も、彼女も。


「僕の事、好きなの?」


 彼女の目が点になったのが分かる。


「え、それ、今?」

「うん、今」

「わ、わかんない?」

「わかってるけど、聞きたい」


 自分でも少し意地悪だな、と思う。

 でも、きっと彼女が不安になったのは言葉にしなかったことが原因だ。


「す、好きだよ?」

「僕も好きだよ」


 そう返せば、彼女は見慣れた眩しい笑顔を見せる。

 もう二度と、この愛しい恋人を泣かせないように頑張ろうと僕は心に誓ったのだった。




「で、お前らようやく付き合ったの?」


 騒がしい居酒屋の店内。

 僕の目の前でお酒片手に笑っているのは高校時代の友人の弘人だ。

 喧嘩のようになり、僕たちが付き合ったあの日、僕はこいつと、こいつの彼女と、その友達と、残り数名とで一泊二日の旅行に出かけていたのだった。

 まぁ、その待ち合わせ場所でこいつの彼女の友達と、二人になっている所を彼女に見られたせいで彼女との関係が危機(?)に瀕したことを許してはいない。


「まぁ、俺は彩に聞いてたから、めんどくさいことになってること知ってたけど」

「なら教えろよ……」

「まぁ、今回みたいなことになるとは思ってなかったんだよ。いつか勝手にくっつくだろと思ってたし」


 そうだった、こいつはそういうやつだった。

 彼女と同居することになったっていう報告をした時も、こういう反応だった。


「おっす、二人とも」


 すっかり調子を取り戻した、彼女が僕らを見つけて声をかけてくる。


「おっす、奈々さん」


 弘人が彼女と同じように軽く挨拶を返す。


「なんでここに……」


 僕が戸惑っていると、目の前に座っていた弘人が「俺が呼んだ」と舌を出す。


「あー、雄介また飲んでる。介抱するの私なんだけど……」


 僕の前に置かれたビールのジョッキを見つけて彼女が文句を言ってくる。

 仕方ないじゃないか、この一週間は僕にとって割と激動だったのだ。


「奈々さん、幸せそうだね」


 弘人がそういうと、彼女は「そお?」と若干顔を赤く染める。

 僕の彼女、すげー、かわいい。


「あー、はいはい。お幸せに」

「じゃあ、雄介、回収していくね」


 そう言って彼女は僕の手を取って店を出たのだった。

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