煙の狼狽
初めまして、どろんこ巨人です。
趣味で小説を書いていて、その第一作目となる作品です。
どうぞお楽しみください。
「嗚呼、煙草吸いてえ」
高校というおおよそそのセリフが似つかわしくない場所で
荒川はそう気持ちを漏らす。
ちなみに荒川は自分が不良だとか、典型的な反抗期による何かで
セリフを吐いたのではなく、ただ純粋に煙草が恋しかった。
「すぅぐそういうゆうんだからぁ、何がいいのよタバコなんて。」
同級生の前野が反応する。荒川に比べ真面目で絶賛優等生ルートを
歩んでいた前野は、ルールやら法律にやたら詳しく厳しい。
「吸いてえもんは吸いてえの」少しの関心を元に荒川が返す。
「未成年の喫煙は法律で禁じられてるの、ダメなものはダメ!」
「だったら前野は、恋人とのキスが禁じられてたら素直にやめんのかよ」
「現実では禁じられてないからいいんですぅ、それに恋人いないからできませぇん」
「…寂しいやつ」
前野からの視線がキツくなる、いつものことだ。
「そう言う荒川こそ、恋人いないくせに」
「お口の恋人を絶賛募集中だ」
そんな会話を20分というおおよそ長いと言えない昼休みに
雑に始まり雑に終わるのが日常だ。
いくら説教されようがやめる気はない。何が悪いと言うのだ。
「帰る、一緒にくる?」
学校が終わり、荒川が誘う。
「うん、いこ。」
前野が慣れた口調で生返事を返す。生返事と言ってもその返事には確実性がある。
前野は言ったことを破らない。
二人はいつも公園で話し、時間を潰してから帰る。親が帰ってくるのが遅いし夜ご飯もないから、いつも適当に話をする。そしていつも通りの流れになった。
「ほい、お父さんのからパクってきた。」
「サンキュ」
荒川は前野の手のひらにあった煙草を受け取った。好きな銘柄だ。
正午から溜まっていた欲望を、マッチを擦る力とともに燃やし、煙とともに落ち着ける。
「ほんとに飽きないよね、何がいいんだか」
「おめえにはわかんねぇよ」
少し調子の乗った口調で荒川が返す。何かで気分がよくなったのだろう。
「いつもありがとな、前野がいてよかった」
「私がいなきゃ退屈でしょ?煙草も吸えないよ?」
「その気になりゃコンビニで買えるよ」
「高校生のお財布には少し厳しいんじゃないかなぁ」
いつもとは違う雰囲気だ。なんかふわふわする。もう少しここにいたくなる。
「お口の恋人、取り戻したけどさ、浮気してみない?」
「銘柄を変えるってこと?嫌だね、これが好きな…」
続く言葉は前野の沈黙によって遮られた。柔らかく、暖かい沈黙。
右手が固まってしまい、タバコの煙が直線に伸びる。
「…苦い」
「…悪い」
もう日が暮れて夜になりつつある。
一体タバコの何が悪いのだ。こんなに美味しくて時間を濃厚にしてくれる。
でもその日の夜は、その時間を上書きするつもりには慣れなかった。
楽しんでいただけましたか
ここまでご覧いただきありがとうございます。
読んでいただいてうれしいです。