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 翌日の午後十時、僕はひとり夜道を歩いていた。まだ僕以外の通行人の姿もちらほらとあり、道路沿いに点在する街路灯によって辛うじてその顔も識別できる。しかしその街路灯も、町外れへと進むうちにどんどん減っていき、それに比例するように通行人の姿もまた減っていった。

 そうして目的地である、町外れの高台にポツンと建つ神社へとたどり着いた頃、僕の周囲には――少なくとも一見する限りは――人っ子一人いない状況となっていた。

 石階段を上り、鳥居をくぐる。石畳の上を歩き、鳥居と社とのちょうど中間点で立ち止まった。その場で無防備極まりないことに、ぼけーっと夜空を見上げた。

 見晴らしは良く、遮蔽物は皆無。周囲には、何かあっても介入してくる第三者の影すら見えない。まさに、どうぞ襲ってください、と言わんばかりの体勢。

 たん、という足音が微かに背後から聞こえた。

 本当に小さな音だ。努めて無防備・無警戒を装いつつも内心では全精力を注いで周囲を警戒していた僕だからこそ拾えた微音である。

 その足音はゆっくりと、しかし着実に僕へと迫ってきた。それを確かに認識しながら僕は、しかし振り返らない。ここで振り返ってはいけないのだ。

 足音が、僕のすぐ背後で止まった。振り返りたい恐怖、不安に心が駆られる。

 待望の「合図」が聞こえたのはその時だ。

「そこまでよっ!」

 僕は地面を蹴り、それまで立っていた場所から距離を取った。振り返るとそこには、二人の人間がいる。

 一人は、たったいま大声を張り上げた楓だ。片手に懐中電灯、もう片手に例のスタンガンを携帯している。

 その懐中電灯の光に照らされたもう一人――中肉中背、上下黒のジャージ姿の男。年齢は三十前後。暗がりのなかでも、縁なし眼鏡のレンズ越しに窺える切れ長の目が鋭く光っている。よくよく見れば右手に、拳大の石が握られている。もしも楓の制止があと数秒遅れていたら、あの石によって僕の頭は割られていたに違いない。

 見覚えはある。クラスメイトの顔と名前までは完全に一致しなくても、さすがにそれが、クラスの担任教師ならば話は別だ。

 彼の名前は冴渡遼。僕と楓、ついでに殺害された田中和人にとっても担任教師である男だ。

「……これはどういうことかな、黒棘くん」

「どうもこうもないわ、先生。いえストーカー、いえ――人殺し」

 楓は懐中電灯の光を、冴渡遼の顔へと向ける。反射的に彼は、光から逃れるように手を掲げた。

「あなたが田中くんを殺した犯人ね」


 昨日、楓から受けた説明は極々限られたものだった。どうしてその結論に至ったのか、という過程は一切省き、田中和人を殺害した犯人と思しき第一候補の名前と、それを立証する作戦について、それだけだ。

 その作戦というもの、単純至極、犯人候補の人間に楓が、何者かにストーキングされていること、そのストーカーがどうやら僕――骨川大空であること、を相談する形で告げる。その上で僕がこんな夜遅くに、独りで人気のない神社へと出向き、僕を尾行しているであろう犯人に襲わせる。つまり僕は、犯人をおびき寄せるための囮、ということだ。

 そしてこちらの思惑通り釣れた男――冴渡遼は、まさしく楓の挙げた、犯人の第一候補だった。

「……私が田中くんを殺した? なにをもってそんなことを」

「弁解は後にしてもらえるかしら。まあ、聞くつもりもないのだけど。そうね、それじゃあ順番に説明していこうかしら」

 そうだ。何故、冴渡遼が犯人だと分かったのか、その肝心の推理を僕はまだ聞かされていなかった。冴渡遼と田中和人はそこまで親しい間柄だったのだろうか? 教師と生徒という関係でありながら?

「今回の事件の最大の謎は、犯人はどうやって田中くんの部屋に上がったのか、ということ。強引に押し入った形跡もなく、おそらく田中くんは犯人を自らの意思で招き入れたと考えられる。時間帯を考えれば二人は、相当親密な関係にあったはず。だけどその条件を満たす友人二名にはアリバイがあり、犯行は不可能だった。

 ではその他の可能性はないのか、と考えたところ、一つだけあった。それは犯人が、田中くんが一方的にでも想いを寄せている人間だという可能性。だけどこれも、犯行に用いられた凶器の特性から、女性による犯行は困難だと推察され、否定される」

 昨日、二人で確認した考察そのままだ。ここからどうやって、冴渡遼=犯人につなげるのだろうか。

 はたして楓は言った。

「でも昨日起こったある出来事をきっかけに、ふと思ったのよ。つまり、田中くんが想いを寄せる人が女性である必要はないんじゃないか、って」

「へ?」

「は?」

 楓の放った言葉に、嬉しくないことに僕と冴渡遼の反応が一致した。

「ちょ、ちょっと待って楓。それってつまり、田中くんは男が好きだった……ってこと?」

「ええ。田中くんは同性愛者だったのよ」

 だめだ、理解が追い付かない。確かにそれなら、犯人の条件には見合うかもしれない。田中和人から想いを寄せられる人間ならば部屋に上げてもらえ、それが男なら十キロの鉄アレイを振り回し、田中和人を撲殺することも可能だろう。

 だけど、いくらなんでも話が突飛過ぎやしないだろうか。いったいなにをもって楓は、こんな仮説を打ち立てたのだろう。

「いや、でも待って楓! やっぱりその推理は無理があるよ。だって田中くんは、楓ファンクラブの会長だったんだよ? もしも彼が同性愛者で、男の人が好きだったなら、きみのファンクラブなんて作るかな」

「確かにそれはもっともね。だけどそもそも田中くんは私のことを、好きでもなんでもなかった、としたらどうかしら」

「……ごめん、言ってる意味が分からないや」

 田中和人が、楓のことを好きでもなんでもなかった? 好きでもない人間のファンクラブを作る、なんて奇特な趣味がこの世に存在するとでも言うのだろうか。

「最初に違和感を覚えたのは、破られていたあの写真よ」

「田中くんの部屋に楓の写真があることに耐えられなかった犯人の、感情的な行動によるものっていう、あれ?」

「そう。大空の言う通り、感情的になった犯人は部屋中を荒らして、私の写真を探した。その結果、田中くんと私が一緒に映った、入学式の写真を破った。

 おかしいと思わない?

 あれだけ部屋を荒らし、血眼になって私の写真を探しておきながら犯人は、ただの集合写真一枚しか破らなかった。それが意味するところは一つしかない」

「――その一枚しか、田中くんの部屋には楓の写真がなかった?」

 昨日覚えた違和感。その正体が、いまようやく分かった。もしもこれまでの認識通り田中和人が、楓のことをファンクラブを発足するほど好きならば、彼女の写真が一枚――それも入学式に撮影したクラス写真しかないなんてことが、あるはずがない。どう考えてもおかしい。

 となれば、やはり田中和人は楓のことを好きでもなんでもなかった? でもそれなら、どうして彼は楓ファンクラブなんてものを発足したんだろう。意味が分からない。

「おそらく田中くんは、自分のその性癖を隠したかったんだと思う。このことが周囲に露呈すれば、まず平穏な学生生活は送れない、そう考えたんでしょう。

 同性愛者であることを隠すにはどうすればいいか。確実な方法は、異性の恋人を作ること。とはいえそれが出来れば苦労はなく、そこで仕方なく彼は、一種のカムフラージュを行おうとした」

「それが、楓ファンクラブの発足?」

 ファンクラブという形で女子生徒への憧れを公言していれば、仮に一切女っ気のない生活を送ろうと、その人が実は同性愛者なのでは、などと勘繰る者はまずいない。そう考えた末のカムフラージュ、ということか。

「あるいは、田中くんがわざわざうちの高校に越境入学してきたのも、その性癖が原因だったのかもしれない。その原因で地元でなにかトラブルがあった、とかね。

まあそれはともかく、とにかくこの仮定が正しいとするならば、容疑者の条件は一気に緩まるわ。私と田中くんの共通の知人であること。彼が私のファンクラブの会長であることを知る人物。そして、男性である。

 その数は、ざっと数十人ってところかしら。ここから先は、ちょっと強引な絞り込みを行った。

 田中くんは寝間着姿で殺害された。好きな人の訪問を前にそんな格好で待つ人はいないでしょうから、犯人の訪問は本当に突然だったと推測される。犯人のことが好きな田中くんは、当然、部屋に招き入れるでしょう。とはいえ、諸手を挙げて歓迎するわけにはいかない。何故なら彼は、想いを寄せるその人物にすら、自分の性癖を隠しておきたかったはずなのだから。

 にもかかわらず田中くんは、お茶の用意をしていた。それはつまり犯人が、田中くんの想いとは無関係に、彼が歓迎の手筈を取っても不自然ではない人物――目上の人間である可能性が高い」

 だから楓は、クラス担任である冴渡遼を容疑者の第一候補に位置づけたわけか。もちろんクラスメイト間でも上下関係が構築される可能性もあるけれど、優先順位としては低い。

「あらかじめ断ったように、この絞り込みに関しては多少強引なところがあると、自分でも思っているわ。

だからもしも仮にあなたが囮に引っ掛からなければ、情報の配布先を増やすつもりだった。最悪、数十人の容疑者全員に情報を流そうとも考えていたのだけれど、杞憂だったみたいね。

それで先生、なにか反論はおありかしら? まあなんにせよ、あなたがたったいま大空を襲おうとした事実は揺るぎはしないけれど。刑事訴訟法第二一三条の『現行犯逮捕』ね。いまのあなたを逮捕する程度、警察官でなくとも、令状がなかろうと、簡単に出来る」

「――素晴らしい」

 それまで無言で楓の言葉に耳を傾けていた冴渡遼が、唐突に口を開き、言った。手に握っていた石を放り棄て、自由となった両手でパチパチと拍手をした。

 突然の、理解不能の行動に、僕も楓も呆気に取られる。

「さすが黒棘くんだ。やはり君は素晴らしい。君の言う通り、田中くんを殺したのは私だよ。しかしそれを言い当てるに留まらず、まさか犯人である私でさえ謎だったことまで解明してくれるとはね。称賛に値する」

 冴渡遼があっさりと自白したことに、僕は率直に驚いた。僕に対する傷害未遂、殺人未遂に関してはともかく、田中和人の殺害については一切の証拠がないことから、まさか認めるとは思ってもみなかった。

「最初は、なんなら強引に押し入ってやろうと思っていたんだ。担任教師が訪ねてきたのだから、玄関くらいは開けるだろうとね。ところが予想に反して彼は、僕を部屋の中まで上げてくれた。おかげで始末するのも楽だったんだが、同時に不思議だったんだ。しかしまさかその理由が、あいつがホモだったから、とはね。まったく、とんだ変態が身近にいたものだ」

 これほどまでに「お前が言うな!」と声高に叫びたくなったことはない。この緊迫した状況でさえなければ、即座に言い返してやったのに。

 それにしても、とふと疑問に思う。

 自らの罪を指摘されたにもかかわらず、どうして冴渡遼は、こうも余裕を保っているんだ?

「田中くんを殺した動機は、やはり彼が私のファンクラブの会長だったから?」

「まあ、そうだね。ほら黒棘くん、ここ最近どこか元気がなかったろう? まるで誰か悪い男に付け狙われて悩んでいるようだった。だとすれば元凶は、あの気持ち悪い会の主催者である田中くんだと思ってね。可愛い教え子だったが、致し方ない。黒棘くんを守るため、始末しておいてあげたんだ」

「……あなた、自分を客観視出来ないのっ? ええ、確かに私はここ最近、悩んでいたわ。だけどそれは田中くんのことじゃなく、気味の悪いストーカー――あなたのせいよ!」

「私がストーカー? なんの冗談だそれは。私はただ、花のように美しい黒棘くんに汚らしい虫が近寄らないよう見守っていただけだよ」

「ええそう言うと思ったわよ! ストーカーは自分のことをストーカーだなんて思いもしない。もうそれは誰かさんのお蔭で予習済みですもの」

 楓は顔中に嫌悪感を浮かべ、吐き捨てるように言った。目線は冴渡遼に向けたまま、僕に言う。「大空、警察に電話してちょうだい」

「君は本当に最高だ、黒棘くん」

 僕が携帯電話を取り出したところで、冴渡遼が徐に楓へ向かって一歩、踏み出した。

「っ……動かないで。そのままそこでじっとしてて」

 ビクン、と肩を震わせた楓が、スタンガンを持つ手を前方へ目一杯伸ばした。しかしそれでも、冴渡遼は歩を止めない。

「黒棘くん、君は美しい。若く、聡明で、そして高貴だ。さっきも言ったが、まさに花のような存在だ。あるいは触れるのも恐れ多い日本人形か。私にふさわしい女性は君のような人だ。君だけが私にふさわしい。……それはスタンガン? いけないなぁ、そんな物騒な物、君には似つかわしくない。そんな物は必要ない。君に必要ななのは、ただ私だけなんだ」

「止まりなさいっ……!」

 すぐ目の前に迫った冴渡遼に、楓はスタンガンのスイッチを入れた。バチチッという破裂音と共に電光が瞬く。

「黒棘くんは優しいから、そんな危ない物を人に使えないだろう?」

「ッ!」

 いけない、と叫ぶ間もなかった。冴渡遼はスタンガンの柄部分を掴み取り、そのまま力任せに振り払った。唯一の武器から手を離すことなど出来ない楓の身体も、その動きに従うように振り回され、地面に転がった。手から零れ落ちたスタンガンが石畳の上を転がる。

「――ォおおお!」

 僕は地面を蹴った。作戦も勝算もなにもなく、ただ無心で冴渡遼の顔面目がけて拳を振るう。

 僕にとって生まれて初めてとなるそのグーパンチは、しかし嘘のようにあっさりとかわされてしまった。空を切った僕の右手を冴渡遼は掴み、捻り上げた。

 逆関節を取られた肘がきしみ、激痛に顔を歪める。

「だっ……は、離せぇ!」

「いいとも」

 冴渡遼は僕の右手ごと腕を振るい、同時に足払いをかけてきた。僕の身体は冴渡遼を軸にコマのように回り、地面へと投げ飛ばされた。背中から石畳に叩きつけられ、衝撃が上半身に広がる。

 僕が痛みにのたうち回る間に、冴渡遼は馬乗りになる形で覆いかぶさってきた。僕の上着の襟元に手を掛け、そこから首を締め上げてくる。頸動脈が圧迫され、血流が、酸素が、そして思考が停まる。

 ――なにこれ?

 まさに大人と子ども。体格差を考慮しても勝てるとは思っていなかったけれど、まさかここまでボコボコにされるとは想像していなかった。投げから絞め技までのスムーズな動きからして、冴渡遼はなにか格闘技でも習得しているのだろうか。

 必死の思いで足をバタつかせるが、冴渡遼の身体はビクともしない。顔でも引っ掻いてやろうかと手を伸ばせど、冴渡遼は空いている片手で簡単にいなす。まさに手も足も出ない。

「こうなってしまっては仕方ない。とりあえず邪魔な骨川くんは僕が始末しておいてあげるから、二人で逃げよう黒棘くん。なぁに心配はいらない。君に不自由な思いなどなせやしないさ。私を信じてくれ」

 僕の首を絞めながら冴渡遼は、楓に向かって微笑み、言った。現在進行形で人を殺そうとしながらその人間に見向きもせず、あまつさえ笑う姿を見て、改めてこの男の異常性を実感した。

「大空ァ……!」

 楓が、その大きな瞳に涙を湛え、叫んだ。ああ、彼女は僕が殺されようとしていれば泣いてくれるのか。そんなことですら僕の胸には歓喜が訪れ――ない。

 歓喜するわけがなかった。

 彼女が、楓が泣いている。悲しんでいる。それは世界規模の経済危機より、核兵器の飛び交う世界大戦よりも、この世に存在ありとあらゆる悲劇よりも、あってはならないことだ。

 絶対に許すわけにはいかない。

 誰だ。楓を泣かしたのは、悲しませているのは誰だ。目の前の、異常性が服を着て歩いているような男か。おいこっちを向け。

「……たとえここで僕を殺ところで、楓はお前のものになったりは、しない……」

 圧迫される喉を辛うじて震わせ、僕は言った。冴渡遼の意識が、ほんの少しだけれど、こちらへと注がれる。

「なんだって?」

「僕を殺して……楓を拉致して、逃げたところで、なんの意味もない、と言ったんだ。そんなことをしても、楓はお前のものになんか……ならないっ」

「お前、なに言ってんの? そう言うお前は誰なんだよ何様なんだよ」

 首を締め上げる力がより強まった。冴渡遼は顔を近づけ、凄むように僕と目を合わせた。

 僕は一瞬、楓と目を合わせ、次に石畳の上に放置されたある物へと目を移した。すぐに眼前の冴渡遼へと目線を戻す。

「僕は……楓の恋人だよ。僕たち。付き合ってるんだ。あれ、知らなかった? 昨日なんて家にまでお邪魔したくらいさ」

 もちろんそんな事実はないのだけど、この際、多少の嘘は仕方ない。それにきっと遠くない将来、これは事実になる予定だし。

「恋人だぁ……? ンな訳ねーだろ。お前は今学期になってうちに転校してきた余所者で、そもそもお前と黒棘くんがそんな関係になんてなれるはずがない」

「そんなこと誰が決めた! 何時何分何秒、地球が何週した時に可決されたんだ。お前の勝手な価値観で僕たちの間を規定するな!」

「うるせえぇ! 田中といいお前といい、気味悪いんだよ!」

 激昂した冴渡遼は、ついにもう片方の手まで僕の首に掛け、締め上げてきた。もはやしゃべることはおろか、喉を震わすことさえ叶わない。視界は朱色に滲み出し、手足の感覚すらなかった。

 それでも僕は、両目を見開き、眼前の冴渡遼を睨み付けた。

 この男はなにも分かっていない。社会的規範だとか命の大切さだとか、そういう同義的観念の話ではない。そんなことは些細な問題だ。

 冴渡遼は、なにより黒棘楓のことをちっとも理解していない。

 楓が花だ日本人形だ? 違うそうじゃない、彼女はただの、そこらにいる普通の女の子なんだ。

 どれだけ美しく、若く、聡明で、高貴であろうと、楓は普通の女の子に過ぎない。ストーカー被害に遭えば悩むし、暴力を前にすれば涙を流し、謎が晴れれば声を上げて笑う。

 どこにでもいる、普通の女の子。

 だからこそ楓は魅力的で。

 そんな彼女のことが、僕は大好きだ。

 楓について冴渡遼が理解していない面が、もう一つ、ある。

 ――彼女は、本番に強いタイプなのだ。

「ありがとう大空」

 冴渡遼のすぐ背後に立つ楓が言った。その手には、冴渡遼が僕に意識を傾けている間に拾ったスタンガンが、確かに握られている。

「っ!?」

 冴渡遼が慌てて振り返るが、もう遅い。

 彼の首筋に押し当てたスタンガンのスイッチを、楓が入れた。


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