2話 王都へ行こう
「アド。私、外に出るわ」
「…………えっ?」
私が突然そう言ったからなのか、アドは目が点となる。王都では私は死んだことにされており、元婚約者であったヴィレムたちに会わずに済む、という都合で私はアドの家に引きこもった生活をしている。
だけど、いくらヴィレムの妹。リクニスにトラウマ感情を抱こうと、実際必ず会うというわけではない。それに、家にいるのも飽きてきた。
だから私は、アドにその提案を投げる。
「……いいのか? 君はヴィレム様の妹様に殺されそうになったのだぞ?」
「平気よ。私には【導きの力】があるもの」
導きの力———それは貴族界隈の中でも特に由緒正しき家柄であり、7つの名家に存在する力である。魔法とは違った存在で、受け継がれるのは一世代にたった1人、とされている。
カルデロン家もその名家の一つであり、私はその力を受け継いだのだ。
それをヴィレム達は知らない。そりゃあ、公表されていないもの。
「わかった。万が一のために、ローブを着てから行こう」
「えぇ、わかったわ」
渡されるのは黒のローブ。それを今自分が着ている服から羽織るようにし、丈の長さがちょうど足首あたり。体の線が出なく、ぶかぶかなローブで体型を分からなくさせる。
後は、フードを被れば顔は見えない。フードはローブに繋がっているわけではなく、取り外し可能なタイプ。
その格好を八頭身鏡で見て、チェックした。
うん、バッチリ。
これじゃあ、分からないはず。
「これで準備完了だな、行こうか。イヴ」
「えぇ、そうね」
「なら、ついでに食料なども買うか」
アドの方も準備完了で、2人で家から出る。
久しぶりに外に出るのは、かなりいいものだった。
だけど、陽の光は当たらない。そこまで森の木が生い茂っている、と言うわけね。
少し暗く感じ、流石は死霊の森と言われる場所。昼の時間帯とはいえど、かなり暗く薄気味悪い。
「さ、行こう」
♢♢♢♢
死霊の森から王都の方へと歩いていく。少しびくびくとしていたが、アドから「堂々としてた方がいい」と言われたため、堂々と歩くことにした。
周りの視線など気にせず、私たちはまず市場の方へと向かう。
食料から、魔道具まで売られており、それら全て新しさを感じた。新品なのだと言うのが、素人の私でも見て取れる。それぐらい、それら全てが煌びやかであった。
(あら、これは宝石……。宝石といっても、洞窟で取れたものなのか、はたまた……)
市場を歩いている最中、宝石店に目が入る。ガラス越しに見える宝石が洞窟で取れたものなのか、はたまたは別の方法で取ったのか。
それは区別できない。
「ん? 欲しいのか?」
「あぁ、違うわ。ただ、綺麗と思っただけよ」
「なら、一つ買ってあげるが?」
「いいわ。私には勿体なさすぎるもの」
ガラス越しに見える宝石店を後にし、色々と見て回る。食料は大方買い、後は帰るだけ。
———トンッ
「あぁ、すみません。前を見ていませんでした」
「いえ。こちらこそ、申し訳ございません。…………ん?」
「では、失礼します」
誰かにぶつかり、私はその人に対して謝った。どこかで見たことあるような顔と、その服。どこかのメイドなのだろう。その顔に既視感を覚えたが、多分人違い。そう思い、その場から離れることにした。
いや、絶対人違いに違いないわ。ましてや、あの子だとは……。
♢♢♢
〜メイド視点〜
旦那様の命令で、私は王都へ買い出しにやってきていた。買い出しを終えて、屋敷に帰る途中、誰かにぶつかる。黒いローブと白いフードを被った人にぶつかってしまった。
幸い転ぶことはなかった。籠の中に入っている食材も無事で、その人に対して謝る。
謝った拍子に、フードの中の顔がはっきりと見えてしまった。
鮮やかな赤色の髪、そして鮮やかな髪色と匹敵する水色の瞳。整った顔で、傷一つない白い肌色。ほんのり香る薔薇の匂い。
間違いない、このお方を私は知っている。
私が仕えている屋敷の、たった1人のお嬢様。このお方が幼い頃はよく、専属のメイドとして仕えていたお方。
見間違えるわけがない。あのお方は、亡くなってしまった———と言われているはず。なのに、どうして目の前に?
———イヴ・カルデロンお嬢様
「では、失礼します」
言い放たれるその一言。淡いピンク色の唇から放たれ、そして気のせいか冷たい声。
まるで、遠ざけるような雰囲気を纏った感じ。
私の知っている、イヴお嬢様じゃないみたい。
「……あの!」
「…………はい?」
勇気を振り絞って、私はイヴお嬢様かどうか確認する。いや、確信は持っている。だけど、万が一のため、私は聞いた。
「イヴ・カルデ———むぐっ!」
「こっちへ来て。あなたも」
「あぁ、わかった」
え、え?
どこへ連れて行かれるの!?
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