7・監視役は後輩
リアムたちが研究所に侵入した次の日の早朝。エンディアの軍部総督の執務室にて……
「「失礼します」」
扉前には二人の女子がキレイに並んでいた。中から『入れ』と言われ、扉を開けた。
いつものように椅子に座っているクロノス総督は手招きし、二人は総督の対面のソファーに座った。
「今日来てもらったのは他でもない、君たちにしか出来ない任務だ」
そう聞き、二人は同時に固唾を飲んだ。きっと重要な任務だと思ったのだろう。しかし、その緊張感はすぐに無くなった。
「二人には、王立総合文武学園に入ってもらう」
「……はい!?」
「正確には、一人の男を監視してもらう。君たち未成年にしか出来ない任務だ、よろしく頼む」
二人は固まった。想定外の内容に思考停止した二人は、再起動に少し時間を要した。
「実はな。今回の監視相手は、我が国最高峰のスナイパー、リアム君だ」
「「り、リアム先輩ですか!?」」
二人にとってリアムは先輩だ。年齢的には二人のほうが上だが、入軍歴はリアムのほうが長い。二人は何度もお世話になっていた。
総督からの命令を受けた二人は学園の制服を受け取り、明日の準備に勤しむことにした。
「まさかリアム先輩の監視役とはね。重要任務と聞いて緊張したけど、一気に気が抜けたわ」
「そうね、アリス。学校なんて行く機会ないと思ってたよ」
「本当よね、イリス。ま、簡単な任務で良かった」
「三年間の任務でしょ? 私達ならいけるね」
「うん! また明日」
「おやすみ」
アリス、イリス姉妹は明日から通う学校のために早めに寝た。
・・・
次の日。
リアムはいつものように身支度を済ませ、学校に向かった。
総督に言われたように大通りを通っていると、誰かに尾行されていることに気がついた。
気配は2つ。
(かなり上手いな。他国の密偵か? それとも軍部のか。どちらにせよ、事情を聞く必要があるな)
リアムは人通りの少ない裏道に入ってすぐに、家の屋根に飛んだ。ここから様子を窺うことにした。
上から見ていると、二人の人影が裏道に入った。おそらく、この人達が尾行してきた人だろう。
「あれ、おかしい。確かにここを」
「曲がってったよね。どこ行ったんだろう」
「尾行するなんて、感心しないよ」
「「!!」」
リアムは再び裏道に降りた。二人を警戒して一丁の拳銃を向けた。
だが、すぐに二人の正体を見抜いた。
「なんだ、アリシア上官の娘さんでしたか」
「!! 覚えててくれたんですか」
「えぇ。確か、赤髪のあなたがアリス・ランドマークさんで白髪のあなたがイリス・ランドマークさんですね」
「は、はい! お久しぶりです、リアム先輩。アリス・ランドマークです」
「イリス・ランドマークです」
ランドマーク家の姉妹。
二人とも母と同じ諜報部所属で年齢は15歳、軍部に入ったのは12歳の頃だ。
二人共諜報部のエリートとして活動していた。
「お久しぶりですね、アリスさん、イリスさん。ところで、どうして私の後を?」
「あ、はい。総督からの命により、今日より三年間リアム先輩の監視役を務めさせていただきます」
「? 私の監視、ですか?」
「はい。総督から言伝を承っております」
「総督からですか?」
「はい。ありのままお伝えしますね。『リアム! お前は見張り役がいないと、とんでもない事を仕出かすからな。二人の監視役を派遣する。』とのことです」
「監視役ですか? あなた方が?」
「はい。すでに母……理事長には伝わっております。先輩と同じAクラスに配属されるよう手配されています」
「総督がそうおっしゃるなら、私に拒否する権限はありませんね。よろしくお願いします」
「「お願いします!」」
リアムは監視役の二人と一緒に学園に向かった。
とくに何事もなく着き、二人は一度学園長に会うことになっていたので、正門で分かれることになった。
リアムはそのまま教室に入り、昨日と同じ席に座った。
しばらくして、キャロットも登校してきた。
「おはようございます」
「キャロットさん、おはようございます」
「そういえば、新たに転入生が入ってくるみたいよ」
「あぁ、アリスさんとイリスさんですね」
「お知り合いなの?」
「えぇ、長年の付き合いですね」
「そうなのね」
二人で話し合っているとチャイムが鳴った。ホームルームの合図だ。
「はい、皆おはよう。早速だけど、転入生を紹介しまーす。入っておいで」
「「失礼します」」
入ってきた二人の美少女に教室が静まりかえった。
「初めまして。アリス・ランドマークと言います。よろしくね」
「イリス・ランドマークと申します。以後、よろしくおねがいします」
赤髪のお転婆美少女アリスと白髪の礼儀正しいイリス。
学園内でアリス派とイリス派で争うことになるのを、リアムやランドマーク姉妹たちはまだ知らない。
「二人はキャロットさんの後ろの席に座ってください」
「「わかりました」」
こうして、リアムの監視役が無事に編入できたのだった。