3・自己紹介って難しい
少し雑談をしていると、思った以上に時間が過ぎていた。
理事長にお辞儀をして、ティティ先生と共に教室に向かった。教室は一階にズラリと並んでおり、一年Aクラスは一番端だ。もう既に入学式は終わっていたので、転入生という形で入ることになった。
理事長から『名前は偽名を使いなさい。そうね……リアリアム、なんてどうかしら』と言われたので、彼の名前はリアリアムと名を偽ることになった。
教室に向かう最中に、ティティ先生が話しかけてきた。
「それにしても、まさかリアム君が学園に来るなんてね。もしかして潜入任務?だったりして」
「それが……常識を学べっと総督から言われましたので、通うことになりました」
「え……」
さすがのティティ先生も驚いた。リアムほどの人材なら、戦場に送るのが軍部のやり方だと思っていた。それが予想に反し、リアムの常識の無さという理由だけで学園に入学させるということに大層驚いた。
「……軍部って何考えてるか分かんないね、いつも」
「全くのその通り。なぜ私をこのような場所に向かわせた意図が未だに分からないです」
(それはそのままの意味だと思うけど……)
ティティは心の中でそう呟いた。だが、それを口には出さない。言っても無駄だと分かっているからだ。
気づけば教室前に着いた。教室の中からは、楽しそうな声が漏れていた。先生が扉を開けると、一瞬で静かになった。さすがは特待生クラスだと言えよう。
リアムは先生の後に続いて教室に入った。クールな顔つきをしているからか、女子たちの虜となった。
「皆、おはよう。早速だけど、転入生を紹介します。ささ、自己紹介して」
リアムは小さく頷き、一礼した。
「皆様、初めまして。私はエンディア軍事狙撃部所属の副部長であり、筆頭狙撃手の……」
「ちょっと待ってぇぇぇぇ!!」
ティティ先生は唐突に大きな声を上げて、リアムの口を抑えた。
先生はリアムの耳に小さな声で指摘した。
「あなた、総督から言われてるでしょ。正体隠しなさいって。何バカ正直に答えてるのよ」
「そういえばそうでした。不覚でした。では、どのようにすれば?」
「そ、そうね。こう自己紹介してちょうだい」
ティティはリアムに自己紹介する内容を伝えた。在校生からすれば、何をしているのか分かっていない。むしろ、『何してるんだろう』という顔をしていた。
そのことに気づいた先生は一度咳払いをし、仕切り直した。
「新しくクラスメイトになる、リアリアム君よ」
「ご紹介に預かりました、リアリアムと申します。この国の軍部に所属し……いえ、所属を希望しておりまして、この学園に入りました。特技は狙撃……いえ、射的でして、約1kmからなら確実に……いえ、2m離れていてもほぼ的中させることが出来ます。運動が得意で大概のことはできますが、勉学の方は全然です。ぜひ、ご教授していただければ恐縮です。よろしくお願いいたします」
ティティが汗をかきながらも、リアムの自己紹介が終わった。言葉を詰まらせながらだったが、生徒から拍手が送られた。
先生は大きく気を吐き、安堵した。
「じゃ、じゃ、リアリアム君の席はキャロットさんの隣で」
「キャロット? キャロット・シャルトルーズさんでしょうか?」
「えぇ、私のことね」
声がする方を見ると、席を立っている女子生徒がいた。彼女こそがキャロット・シャルトルーズだ。シャルトルーズ家はエンディアの四大名家の一つで、主に内政担当だ。キャロットはシャルトルーズ家の長女だ。
髪色は黄色の長髪でスリムな体型で整った顔をした美少女だったので学園内では人気があったそうだ。成績も優秀で運動も完璧だった。
「あなた、リアリアムっていうのね。私はキャロット・シャルトルーズよ。私が転入生であるあなたに色々と教えてあげるわ」
胸を張って、そう宣言した彼女にリアム改めリアリアムは破顔したのだった。