2・理事長は上司、先生は先輩
リアムは自室に戻った。部屋の中には、既に必要な道具や制服が用意されていた。
一つ一つ物色していると、一つの紙を見つけた。そこには総督の注意書きのような内容が書かれていた。
【リアム君。君が学園に通っている間は、自分の正体を隠しなさい。決して、正体が露見するような真似はしないよう。それから、もしかしたら授業中に呼び出す可能性もあるため、常に一丁以上の狙撃銃を持ち歩きなさい。12歳の体には悪いだろうけど、頑張ってくれたまえ】
よくよく見れば、本来なら要らない楽器を入れるバッグが置いてあった。しかも、そのバックは二重構造をしていた。リアムは一瞬で理解した。ここに狙撃銃をしまえばいいっと。
制服もサイズぴったりだった。準備を進める内に、もう夜になっていた。リアムは寝る前に学校のパンフレットを見た。パラパラ読みだったが全て記憶し、眠りについた。
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次の日、いつも通りに5時に起床した。早めに朝食を食べ、最後の支度をした。
そうこうしている内に出発時間となった。学校についたら、理事長室に来るよう言われていた。時間も指定された。今は集合時間の5分前だ。
軍部を出ようとすると、総督とたまたますれ違った。
「おぉ、リアム君。今日からだったな。それにしても、間に合うのか?」
「問題ありません。屋根伝って最短距離で進めば1分で着きます」
「え!?」
総督は驚きつつ、即座に返した。
「リアム君。君はこれから何をしにくんだっけ、言ってみなさい」
「はい。学園の潜入任務ですよね」
「違う違う。常識を学ぶためだ。だから、普通に道を使いなさい。屋根を伝ってゆくのは禁止する」
「…………了解……しました」
リアムはいやいや了承した。本人としては、道を使う方が面倒だと思っているが、総督命令は逆らえない。
仕方なく、道を使うことにした。リアムは総督に一礼し、全速力で走り出した。その速度は馬が走る速度よりも速い。しかもその速度は徐々に上がっていく。彼が走った後に風が巻き起こる。リアムはそのことに気づかず、そのまま学園に向かった。
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理事長室前にギリギリで到着したリアムは、扉をロックし中に入った。
そこにはピンクの長い髪が目立つ女性がいた。彼女こそが、この学園の理事長先生だ。名前はシリアという。
「ようこそ、リアム君。軍部から報告は受けてるわ。私が理事長のシリアよ。よろしく」
リアムはその場で礼節を取った。
「お久しぶりでございます。アリシア上官。引退なされて2年経ちましたが、まさか理事長をしてらしたとは思いませんでした」
「……流石ね、リアム君。まさか即バレするとは思わなかったわ」
「いえいえ、見ればわかります。それに、あの頃と変わってらっしゃらないのですぐ分かりました」
シリア改めアリシアは、元軍事諜報部の上官、ようはリアムの上司だ。現役時代はリアムとともに行動していた。関係も長いため、お互いかなり信頼し合っている。
その後は怪我を理由に引退し、そのまま理事長をすることになったとのこと。
「私の人生計画なら今頃バカンスだったのに、任命されちゃったら引き受けるしか無かったわ」
「諜報部は給料高めという噂がありましたが、どうやら事実だったようですね。羨ましいです」
「う……ま、まぁそうね。そんなことより、学業についてね。総督から、最低限の単位を取れればいいと言っていたわ。でも、私が便宜を図って、出席日数だけ取れれば進級させるわ」
アリシアはリアムとの年齢差から、母と息子のような関係だと錯覚していた。故に甘かった。後で総督にこっぴどく叱られるのは、もうちょい後の話だ。
「それから、君にクラスは特待生クラスのA組だから。それで、担任は……お、丁度来たみたい」
アリシアが扉を方を向いたので、リアムも同じ方向を向いた。そこにはリアムと同じ黒の短髪の女性が立っていた。リアムは彼女の顔を見て、少々驚いた顔をした。
「失礼します。久しぶりね、リアム。元気そうで何よりだわ」
「もしかしてですが、ティーナ先輩でしょうか?」
「えぇ、正解! 流石リアムね。でも今は、ティティよ」
ティティ改めティーナ。彼女はリアムと同じ狙撃部隊の元隊長だった、そしてリアムの先輩でもある。
リアムが軍部に入った時に新人教育を担当したこともあり、非常に仲が良かった。腕前はリアムのほうが上だったが。彼女は4年前に引退していたため、会うのも4年ぶりだった。
「というわけで、今日からリアム君の先生になるからね。ティティ先生と呼びなさい」
「分かりました。よろしくお願いします」
リアムは学園に来て、感動の再会を果たしたのだった。