精神病院の生活
僕は、今日も病院の中で暮らしていた。
外の空気には興味がなくなっていた。天気がどうとか雨が降っているとか、そんなことはどうでも良くなった。
それよりも、自分が何なのか分からなくなった。将来に目的もなかったし、生きていくことに喜びを感じなかった。このまま、消えてしまえれば、いいのにと思った。
他の患者と話すことは、しなかった。だた、1日があっという間に過ぎていった。寝ていたからだ。夢を見ていることは楽しい。ただ、鍵がかかってないから、入られると心配した。
その心配は、しなくても良かった。僕は死ぬことにした。祖母には、悪いけれど未来に希望が見えなかった。
僕は、部屋を出て、タオルを取った。部屋のドアの中が見えないように目隠しに使っているタオルだ。それで首を吊って死のうとした。浅はかな考えだった。無理だった。誰かが、タオルで首を吊って死んだと言う話を聞いたが、デタラメだと知った。
タオルは元の場所に戻しておいた。死ぬ気など何処かにいってしまった。僕は、看護師さんに、
「僕の母親は、僕と同じ病気だったのです。僕は遺伝で統合失調症になったんですか?」
と聞くと、薄ら笑いをして、
「仕事があるから」
と言って男の看護師は、いなくなった。
暇なのは僕だけかと思った。
周りの患者は楽しそうにしていた。明らかに1人で話している患者もいれば、ラーメンを食べている者もいた。そのカップラーメンを、
「汁を飲んでやるよ」
と言って、奪っていった男と喧嘩になっている者がいた。僕には、おやつを買うお金を父が払ってはくれていないらしく、お腹が空いても我慢した。
僕は気がつくと、部屋の外に出て他の患者と接していた。僕のようなキチガイばかりがいるのかと思ったら、意外と普通にものを考えている人が多いのに、びっくりした。普通の人達と言うよりも、普通なんだけど、病気を持って生まれてきたと言った方が良いかも知れない。
女性の居ない病院の中で11ヶ月も入院してきた男の人は、彼女がいるらしく、結婚したいと言っていた。でも、働けないし金も稼げないから、彼女とは結婚できないと言っていた。面会で会う時が待ち遠しいらしい。
僕には彼女はもちろんのこと、誰も友達が居ない。それは寂しいことではなかった。一人でいても平気だし。その方が落ち着く。心が安らぐ。病院は、居心地の悪い所だが、父親の罵声が飛んでこないだけマシだった。
食事はしっかり食べた。うんこも平気でした。やる気が湧いてこなかいから、ベッドで横になっていたが、男性と話をする事はあった。お風呂は、戦争だった。どうやっても1時間かかってしまうのに、30分で出ろと言われると焦った。後ろの人にシャワーを浴びせてしまう事もあった。
幻覚は頻繁に見えた。光の粒がグルグルと渦を巻いたり発作が同時に起きた。幻覚は1日に何度も襲ってきて、布団を被って耐えた。薬が効いてないのではないかと先生に訴えた。
「あと少し我慢していたら治る」
と、だけ言われた。でも、幻覚は治らなかった。足のムズムズも我慢できなくて、看護師さんに、
「幻覚治らないです。もう、薬は飲みません」
と当たり散らした。
自分の部屋が懐かしくなった。静かで安らかで。この病院の中はうるさすぎた。
それに、僕の幻覚は光に弱いと言うことで、昼間と夜の寝るまでが、幻覚が必ず見える。僕は、幻聴は聞こえない。幻聴の聞こえる人の感覚が分からなかった。どういうふうに聞こえるのか?
入院してどのくらい経ったのか分からないが、髪がだいぶ伸びた。それがお風呂に入る度に気になる。寝ていることが多い僕は、耳の中に髪が入ってゴソゴソとなりパニックになったりした。髪が入ってゴソゴソなるのだと分かるようになると、そっと指で髪の毛を取った。
髪を切りたいと思い、先生に言った。
「外出は禁止だ。看護師さんに切って貰え」
と言われた。看護師さんが髪を切ってくれるはずはないと思い、先生に、
「看護師さんの誰に頼めば切って貰えるのですか?」
と言うと、
「上田看護師に頼めば切ってくれる」
と言われたので、上田看護師さんが、何処にいるのか探した。看護師さんに、上田看護師さんは何処にいるのか聞くと、髪を切りたいなら頼んであげるよ。と言ってくれた。
それから、僕は直ぐに長くなるのは嫌だから、坊主にしてくれと上田看護師さんに頼んだ。慣れた手つきでバリカンで、刈り上げた。スッキリとして、頭を撫でて、
「ありがとうございます」
といった。部屋に戻りベッドに横になっていると、彼女がいると言っていた男性が部屋に入っても良いかと言ってきたら、別の男が、
「ここは友達を作りに来たんじゃない。体を治すために来たんだ」
と注意して男性も部屋に入るのをやめて出ていった。
僕は、再び横になって寝た。