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自己中心的、ワガママな僕

医師に鍵をかけたままにしてくださいと言いたかった。夜も鍵をかけないのか、心配だったが、夜は鍵をかけてくれた。安心した。

隣から物音が聞こえないことが、どんなに心が癒されるのかいやと言うほど分かった。


時計のない部屋で過ごしていくなかで、この部屋の中だけには時計があった。


僕は、この部屋だけ特別にあつらえた昇進した人だけが入れる場所のような気がした。何て考えながら安心していた。


長い夢を見た。学生の僕が試験勉強を必死にやっている夢だ。僕は学校を辞めたくない。教科書を片手に必死になってノートに書き込む夢を見て懐かしく思った。


学校は苛めで嫌だったが、青春はしていた。先生に教えてもらったこと、大人は皆、正しくて、真面目で悪いことをしないのだと勝手に思っていた。でも、違った。真っ黒だ。父と同じで、世間体の体裁で生きているのが大人だった。


スーパーのアルバイトを3ヶ月やったときに、お客様には丁寧に優しく、バイトは、怒鳴ってグズグズしていると、尻を蹴ってきた。その事で喧嘩になって、大人の世界は、表向きだけで、裏では、父と同じだと思った。表と裏の世界があるなんて知らなかった僕は、人格が後退していった。


たった3ヶ月のバイトでこの有り様では、仕事についたときに、心を病んでしまう人がたくさん出るなと思った。



目が覚めた後は、時計を見ると、午前3時だった。もう1回寝ようと目を閉じた。そして、久しぶりに良く眠って、目が覚めると午前5時35分だった。


ボーッとしていると、何だかゆらゆらと、揺れるものを見た。キレイなシャボン玉だった。揺れては大きなシャボン玉。幻覚だった。幻覚にしてはやけにキレイだ。手のひらで、シャボン玉を受け止めてみた。が、通り抜けて行くだけだった。幻覚は見えても発作は起きなかった。薬が効いているのかもしれない。


看護師さんが来て、鍵を開けてくれるときに僕の異変に気づいたようだった。

僕は、幻覚が見えないように布団をかぶってうつ伏せで寝ていた。


「おはよう、朝だよ、起きなさい」


僕は、布団から出ると、


「幻覚が見えるんです」


と言った。看護師さんが幻覚を治してくれることはない。


他の患者が足音をたてて行くのを聞くと、僕は食事は食べたくないなと思った。ご飯に味噌汁にふりかけは、今の僕には、無理だった。


「お父さんが食事代払っているのだから食べなさい」


「僕には、お父さんはいません。どこの誰なのか知りません」


看護師は、怪訝な顔をして、


「ワガママ言わずに食べなさい」


と言って、出ていった。


食事は食べなかった。僕は、部屋に鍵をかけてほしくて、看護師さんに頼んだ。


「先生に許可を取ってから」


と言われた。でも、何時も朝起きて食事をするときに、一応、挨拶をして、話をちょっとする人はいる。が、皆、病気だから、症状が出ている人がいた。


僕に対して、


「気持ち悪いんだから近寄るなよ」


とは、聞き取れたが、低い声でボソボソ僕の前に立ち言っている人がいた。10代後半で、いやなら僕の前で立ち尽くし1人で話していなければ良いのにと思った。


けれど、ヤクザのように怒鳴る人はめったにいなかった。ただ、幻聴、幻覚、妄想で苦しんでいる人がほとんどだった。


母親は特別、ぶっ飛んでいるタイプの人なんだと分かった。ヤクザみないな人も、覚醒剤をしたことをかなり悔やんで嘆いている言葉を1度聞いたことがある。


それでも、母は酷い目にあって変わったのだ。僕みたいに苛めを受けて。親の虐待も受けていたから、なおさらだ。


ただ、すぐにカッと来て暴れる所がある母に僕は似ている。


部屋に入る人はいなかった。もっと、母のように悪戯しに来る人がいると思って構えていたが、そう言うこともなかった。


ただ、ドアノブを開けようとして、開けられないと勘違いした人がいて、勘違いした事が運が良いと思った。


僕は、昼間は大便を出来ないようになった。いつ誰が入ってくるのか分からないから、恥ずかしさで出来なくなった。急に出たくなったときが本当に困る。今までは平気で昼間にしていたのに。出るものは我慢が出来ないから、誰も来ないのを祈りながら、力む。何とかようをたすことが出来た。


看護師さんに、鍵をかけることが出来るのか再度聞いてみるために、看護師さんがいるところに行ってみると、何時もはいるのに今日はそこに居なかった。


でも、医師がいた。忙しそうにしているので、声をかけることに戸惑いながら、


「先生に話があるのですが」


と言っていた。「話は問診の時だけだから無理だ」


と言われた。が、僕は話を続けた。


「お願いします。鍵を1日中かけてください。お願いします」と何回も言った。


医師は、僕の顔を見て、


「ワガママを言うのはやめなさい。どうして、自己中心的な考え方しか出来ないんだ? 決まりを守れないんだ。鍵はかけないんだよ!」


と、怒鳴られた。

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