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僕はこの鍵のかかった部屋から出たくはない!

医師は、問診の日。機嫌が良かったので、怒鳴られたり、叱られたりしなかった。担当の医師の患者が1人退院したみたいで、甘党の医師に、大好物のどら焼きを渡したらしく、非常に機嫌が良いので看護師に訊いたら話してくれた。

だからなのか分からないが、苛々しているときにどら焼きの差し入れをする患者の家族もいるらしかった。

機嫌が良い医師に、体の副作用の事について訊いて、薬を変えてもらった。

比較的、新しく副作用のない薬らしかった。


「何時まで経っても、何もやる気が出ないのか? 他の患者は読書をしたいと言ったり、漫画を読みたいとか、部屋を出たいように言ってくるのに、君は言わない。何時まで、寝たきりでいるんだ?」


と医師は、言ったのだった。僕は、黙ったままでいた。何て答えていいのか分からなかったからだ。なにもしたいことなんてない。ずっと寝ていたい。そう言おうとしたとき、医師は、祖母が心配していると言うことを言ってきた。


「祖母は元気でしたか?」


「お前のことが心配で眠れないと言っていたから、睡眠薬を処方しておいた」


と医師が言った。お婆ちゃんは唯一心から癒してもらえる存在だったから、僕は、医師に、


「祖母に心配しないで元気で毎日過ごしてるよ」


と言ってくれるように頼んだ。


「言ってやるけれど、何時までも心配かけんなよ」


と言われた。その日のうちに、また、部屋が変わった。イビキをかいて寝ていた、男性の部屋にうつされ左の部屋に移動になった。


移動になっても、イビキをかく男は隣のままなのかなと思ったが、違った。どうやら、何かをしたいと言う意欲が湧いて患者たちが皆で一緒に寝ているところに移動になったみたいだ。


僕は、ここで良いんだ。僕がいたところの部屋には新しい患者が入ってしまったらしかったが、両隣の部屋に挟まれて、余計眠れなくなった。左へと部屋を移動していっているみたいだ。



夜になって、全く眠れず窓ガラスを開けて空気を吸っていると、いきなり男の声で、


「いってっ、いてーよ。何すんだよ。いってーな」


と、言う声がした。患者が一緒に寝ているところから声がした。結構、困り果てている時に出す声だった。


看護師さんが飛んで来たのか、


「また、苛めてるのかいい加減にしなさい」


と言う声かした。僕には特に今まで、夜中に男の人の声は、寝言ぐらいしか聞いたことはないが、昼間に仲が悪い人がいるのだろうか?


僕は、ずーっとこの中に居たいと思った。鍵のかかった部屋は安全だ。苛められるのは、もう嫌だ。医師にこの中にずっといて良いのか訊いてみようと思った。



次の問診まで、1週間寝たきりだった。そのうち、3回ぐらい幻覚は見えた。幻覚は見えなくなってきたが、それでも、幻覚が見えると、3時間は治らない。

食事も取れないときもある。


医師に会ったときに、幻覚が見えることと、自分が苛めを受けていたことがあることを言った。鍵のかかった部屋から出さないでください。と言ったら、


「大丈夫出す気はないから。幻覚は見えなくなっていくよ」


と言ったので安心した。


2日に1回お風呂に入り、祖母からのおやつの差し入れがあるのだが、祖母には会わせて貰えなかった。


祖母は車の免許があるので、会いには来てくれてはいるのだが会わせてくれない。父の約束だそうだ。祖母は洗濯物とか本とかおやつの差し入れをしてくれる。頻繁に来てくれているらしいので、本当だったら会いたい。


ただ、本の差し入れは困る。見ると幻覚が見えてくる。


最近、昼食に足音が何処から聞こえるのか耳がバカになってしまって、頭のなかで足音が響いて、うるさくて困る。それは、自分だけではないと思っている。


また、部屋の移動があった。一番左の大きな部屋が2つあるが、その片方の部屋になった。そこは、入ってみて分かったが、音が全くしないと言っても良いぐらいだった。だだ、この部屋は、外から入れるようにしてある。それは困る。

まだ、1ヶ月弱しか入院していないのに、患者の出入りが自由では困る。


出入りが自由と言うことは、患者と接していても構わないと言うことで、自由に出たり入ったり出来る。


恐れていたことは実際に起きて、僕が寝ているところに患者が入ってきた。


「昼間は起きていた方が良いんだぞ。夜眠れなくなる」


と至極、ごもっともな事を言う、この男の声で上半身を起こした。僕は、恐怖心が襲ってきて、


「この部屋には入らないでほしい」


と勇気を出して言ったが、そのあと2人笑いながら部屋に入ってきた。


「なにしてんだ? 俺たちと遊ぼうよ。カラオケしてさ」


と1人の男が言ったが、黙っていたら、


「面白くねえ奴、相手にしないでいこう」


と言って部屋から出ていってくれたが、僕は心底、ここから居なくなりたかった。初めて退院がしたいと思った。これからの生活が思いやられた。


夕食をしているときに、あの睨んでくるヤクザみたいな男は退院したのか居なくなっていた。


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