お前が迷惑をかけるからだろ
実際にあったことを書いたわけではありません。統合失調症の方を傷つけてしまうことがあるかもしれません。
誰にも言えない秘密を持っている。
僕は18歳だ。僕の肌の色は透き通るほど白く、なのに肘だけ左側が黒い事をコンプレックスにしている。
毎日、布団の中に横になって僕は寝ているか、布団の上で左肘つき、寝そべって文字を書いている。
引きこもり。
簡単に言えば引きこもり。精神分裂病から、統合失調症に変わってから、どのくらい経ったのか。母親は精神分裂病と呼ばれた頃に病気になった。
僕は母の遺伝子を受け継いで産まれてしまった。僕は母の様々な奇行を見て育った。理解できなかったし、怖かった。僕の目の前で、急に怒鳴り声を上げたと思ったらみたら、父と母が乱闘になって、
母は裸足で2人で揉み合いになった。
「助けてーーーー。ころされるーーー」
母は、悲鳴を上げた。隣の住人の人が、見に来たのを覚えている。
「大丈夫ですか?」隣の一軒家の母親が、心配して見に来たのだった。
僕は、まだ子供で小学3年生だった。幻聴を聞いては、母親は怒鳴り声発していた。母親は、僕を叩いた。薄気味悪い笑みを浮かべ、僕の背中を叩いた。
助けてくれるのは、祖母だった。母親の変わりに食事を作ってくれて、食べさせてくれた。祖母は、いつもモンスターの母親と戦ってくれた。だが、負けていた。父親と祖父が外に女を作っていたから、家の中はバラバラだった。
母親は、自分が病気だとは思っていなかった。家の中では暴力的なのに、外では引っ込み思案で、物静か。でも、何かスイッチが入ると、外でも平気で怒鳴り声を上げた。
ある時、僕は母にお風呂のお湯を浴びさせられた。僕を呼んでおいて、僕が来たらバサーっと。服はビショビショだ。
母親の思い出はそれくらいだ。僕が産まれた頃からずっと精神病院に入院していたので、あまり詳しく覚えていない。母親は僕が12歳の時家の中で首を吊って自殺した。見つけたのは僕だった。
僕は、母の死に何も思わなかった。死んでくれてありがとうとも思わなかった。ただ、寂しかった。
中学に行ったら誰も友達が作れなかった。僕は小学3年生だった頃に不思議な体験をしていた。1人で部屋で寝ている時に大きな綺麗なシャボン玉が、たくさん、ゆらゆらと漂っていた。とっさに、それを携帯で写真に撮った。けれど、シャボン玉は写っていなかった。今思うと、初めて見た幻覚だったのかも知れない。
中学で友達ができなかったことで、3年間耐え難い虐めにあった。そのうち、幻覚も見えるようになってきた。
初めて見えたシャボン玉の時から、ずいぶん経っている。祖母と食事を取りながらテレビを見ている時に、目を開けても閉じてもいられなくなった。目が熱を持ったようになり、僕は、真っ暗な場所で布団を被ってうつ伏せになり目を閉じた。
気がついた時には、発作は治まっていた。そのときみたのが幻視だったと後で知った。3時間ぐらい眠っていた事になる。
僕は、学校に行く事を止めた。辛いだけだ。体裁だけの父親が、
「学校に行かないなら、長期の入院をさせるからな。お前の母親も統合失調症を発症してからと言うもの、世間の目を気にして大変だった。お前も母親のようになるなら産まれてこなかったら良かったのに」
母親のようになるなら産まれてこなかったら良かったのに。
と、父親は言った。僕はなにもしてない。ただ、学校に行くと酷く苛められるんだ。幻覚が見えるんだ。
殴られるんだ。蹴られるんだ。物を捨てられるんだ。弁当を頭からかけられるんだ。だから、食事は抜くようになった。
自転車のタイヤが毎日パンクになるんだ。プールに体操服のまま落とされるんだ。トイレの上から水をかけられるんだ。しゃべるなと言うんだ。何より辛いのは、無視されることなんだ。
僕は、中学3年を待つことはせず、学校に行かなくなった。幻覚は酷くなる一方だった。
父親が無理やり僕を精神科に連れていった。自分が母と同じ病気と知ったから行く気にもなった。父親が勝手に決めていただけだったのに。
病院に行くと、かなり混んでいて3時間近く待った。父親はかなりイライラしていた。僕は入院になるのだと思って覚悟していた。先生に会うと、先生は、
「幻覚が見えるの? どんな風に? 何で学校にいかないの?」
と聞いてきた。苛められているとは言いたくなかった。幻覚の事は話たほうが言いと思い話した。
「必ず発作があるんです。目が閉じても開けてもいられなくなって、暗いところを探す。光の粒が何千粒と見えて、光の粒が繋がったりクネクネと曲がったりします」
と、言うと年配の医師が、優しく、
「入院してみるきない? 嫌だったら入院はしないけど、その代わりお薬を毎日飲んで貰うよ。2週間に1回通院してくれないかな」
病名は、「神経衰弱です。いまは、いずれ、統合失調症になりますけれど」と父に先生が言った。
「入院は? なぜ入院にならないのですか?」と父親が顔を真っ赤にして言うと、
「統合失調症は、100人に1人はなるんです。入院患者が一杯なんです。もし、入院させたければ、他の病院を探してください」
「分かりました。他の病院あたります」
帰りの車のなかで、父親は、かなりイラついていた。僕は後部座席の斜め左に座っていた。今日は入院は免れた。
「お前、入院しなくて良かったなんて火糞笑んでいるんじゃないぞ、遠くても良い、必ず入院してもらう。お前がいると迷惑なんだ」