6 ノア・ダクラス
「どうしてあの女を仲間になんかしたんですか!」
この部屋に隠れていたメイという女を帰らせてから、イアンが大きな声を上げた。
最後まで殺されないか俺達を疑っていたが、イアンに扉を開けさせると、すぐに部屋から出て行った。
本性を晒したのにも関わらず、失神することもなく、怯まずに俺の目を真っすぐ見てきた。大概の女は弱くて脆い。俺がこんな性格だと知れば、震えて何も言い返してこなくなる。
「遊びに混ぜてやるだけだ」
「この暗殺計画は遊びじゃないでしょう」
「分かってる。あいつを本気で仲間になんかしてねえよ。ただこれからどう動くか見物だろ」
俺の言葉にイアンは黙り込む。
次に会う日にちを決め、彼女に教えた。時間通りにあいつが来るかどうか……。
「僕は来ないと思いますよ。きっと遠くへ逃げるんじゃないですか」
「あの身なりでか?」
「どこの貴族だろう……。魔法学園の名簿を確認しましたが、メイという名前であの顔をした人は一人もいませんでした」
魔法学園は大体貴族だが、ごく稀に魔力を持つ平民がいる。彼らは特別に魔法学園に入ることが許される。
実力が全てのこの国では、平民だからといって虐められることはない。魔法が他より長けていれば、何も言われない。
「商家の女か?」とイアンは顔を顰める。
「メイ、という情報だけでは特定は難しいです。……本気を出しましょうか?」
「いや、いい。これ以上探らないでおこう」
ジャックの言葉に俺は軽く首を横に振った。
「ですが、いつ足元をすくわれるか分かりません。危ないものは全て排除していた方が安全です。もしかしたら、本当にスパイかもしれません。この部屋に隠れていたんですよ?」
「だからだよ。この部屋に入れたってことは安心できるだろ。それに、俺があいつにやられると思うか? 刺激のある人生もいいだろ」
誰も反論してこない。
この会議室は他の部屋とは比べ物にならないぐらい特別な造りで出来ている。邪悪な気を発する者は決して足を踏み入れることが出来ない。
土、水、風、火の四大魔法がかけられた神聖な場所だ。ここに入れたということはメイが俺達にとって害ある存在ではないことが証明される。
「ですが、用心してください」と、イアンは眉をひそめる。
「お前は心配性だな」
「殿下は自由過ぎます」
思わずその言葉に鼻で笑ってしまう。
第一王子という立場ほど窮屈な立場はない。息苦しくて、常に周りにいる人間を疑い、良い人を演じなければならない。
第二王子との王権争いさえ突破出来れば、多少自由が手に入るかもしれないが……。
「外では上手くやってるだろ」
「……悔しいけど、それは認めます。また王子のファンが増えましたよ。先日女子生徒が転びそうになったところを支えたでしょう。それが一瞬にして広まり、また好感度が一気に上がりました」
「お、人気じゃん、俺」
イアンはどこか不服そうだったが、ジャックは「ノア様はずっと人気ですよ」と笑顔で返答してくれた。