54 暗殺理由
魔法を使ったことをもっと責められるかと思ったけれど、父はそれについては一切追及してこなかった。
己の命を守るために魔法を使用したことに関しては目を瞑ってくれるのだろう。理解ある父で良かった。
暗殺についてあれこれ聞かれたが、証拠が何一つない分、説明するのは難しかった。……大切な証拠を自らの手で消してしまったのだからしょうがない。
父は険しい表情のまま私の話を聞いていた。
大切な娘が死にかけたってなると、流石に宰相もお怒りだ。けど、私は大事にはして欲しくない。
「この件はどうか内密にお願いします」
私は父に頭を下げる。暫く沈黙が続いてた後、父は声を発した。
「ああ、そのつもりだ。クロエの暗殺が大きく世に広まれば広まるほど、お前を暗殺しに来る者は増えるだろう」
…………私って、一体何者~!
声に出したい気持ちをグッと堪えて、心の中でそう叫んだ。
「どうしてこんなに命を狙われているんですか?」
そろそろ本当の理由を知りたい。普通の公爵令嬢が常に死と隣り合わせっておかしいもの。
「もしかして、私がエアハーズ国の血を引いているから? 王子と結婚ってなったら、王家にエアハーズ国の血が流れることになる。それを嫌がる人達が阻止しようと必死になってる、とか?」
自分の推測をペラペラと喋ると、父はどこか諦めたように小さくため息をつく。
「……それもある。……だが、それ以外の理由もある。そのことは、クロエの記憶が全て戻った時に話すとしよう。今はまだ話すべきではない。どうか分かって欲しい」
気になってしょうがないけれど、ここは理解ある娘にならないといけない。
反抗すればするほど、父は何も言わなくなるだろうし……。
とりあえず、自分が殺される理由が一つだけじゃないってことは分かった。それだけでも良いとしよう。
そもそも、私の記憶は消されている、という解釈でいいのよね?
第三者によって消されたと考えると、相当私にとって危険な記憶だったってこと?
「全て明らかになった時、私は笑っていられるんでしょうか」
ぼんやりと窓の外で咲いているグレディの小さな白い花を見つめる。
最悪な結末が待っているかもしれない。そう考えた時、私はどこまで真実を追い求めることが出来るのだろうか。
私の独り言に父は反応する。
「明らかにしないことが幸せの時もある」
その言葉はとても重く、私の胸に突き刺さった。
血眼になりながら余計な真実にたどり着くのが私にとって不幸せかもしれないってことよね?
でも、暗殺されかけている今も決して幸せとは言えない。充実はしているけれど……。
何が幸せかは自分で決めればいい。
「ご忠告ありがとうございます」
私は丁寧に父に挨拶をしてから、その場を後にした。




