5 計画参加
ひょいッと簡単に体を担がれて、机の下からノアの前に放り出される。
これでもレディなんだからもう少し丁寧に扱って欲しい。それにしても、片手で私を持ち上げるなんて、この男一体どんな腕力なのよ。彼こそゴリラじゃない。
私は黒髪の男の方を振り向く。赤紫色の鋭い目に背筋に悪寒が走る。
こんなあからさまに敵意を向けられることなんて今までの人生で初めてだ。彼の恐ろしさに私は身震いしてしまう。
「女か?」
私は視線を王子の方に移す。彼は私を見下ろし、圧をかける。
女だと分かっていて威圧的な態度をとるなんて、本当にキラキラ王子って噂を踏み潰してやりたい。どうして彼が良い印象を持たれていて、私が最悪な印象なのだろう。
噂をお金で買ってたりする? やっぱり財力が全て?
「本性知られましたね」
眼鏡をかけた少年が口を開く。
「お前、名は?」と言って、ノアは私を凝視する。
「メイです」
少し考えてから、言葉を発した。
ここで本名を晒すわけにはいかない。自ら殺してくれって言っているようなものだし……。
「良い声だな」
今日はよく声を褒められる。私は王子に敬意を払いながら「ありがとうございます」と頭を下げる。
腰を下ろしたままお辞儀をするなんて逆に無礼だったのかもしれない。
……どういう態度をとるのが正解なのか分からない!
「俺はノア・ダクラスだ。それから、この黒髪がイアン・ミラー、このチビがジャック・グリーン」
「チビじゃないです」とジャックが小さな声で抗議する。
私は彼らに向かって、軽くお辞儀をするが、イアンとジャックはずっと私を警戒している。
ああ、自己紹介も終わったことだし、今すぐここから出たい。
「立って、マントを取れ。無礼だろ」
あんたのせいで腰が抜けてたのよ! と心の中でイアンに叫ぶ。
私はなんとか足に力を込めて、立ち上がり、ゆっくりとマントを取る。あまり人に自分の姿を見せたことがなかったから、緊張でマントを取る手が少し震えた。
私はマントを脱ぎ終えて、イアンに放り投げる。
「脱いだわよ!」
向こうも偉そうにするのだから、私も少し対抗したかった。
イアンは私の態度に腹を立て「おい!」と私に怒鳴ろうとしたが、ノアがそれを遮った。
「気の強い女は嫌いじゃない」
そう言って、私の顎をクイッと持ち上げる。
ターコイズブルーの煌めく瞳に惚けた私が映る。気を抜けば、この瞳に吸い込まれそうだった。
「容姿端麗な上に度胸がある。……おかしな髪の色をしているな」
「生まれつきです」
ノアは私のことをじろじろと興味深そうに見つめる。
「魔法は……、使えないか。お前みたいな生徒を見たことがない」
「まぁ、そんな感じですね」と適当にはぐらかす。
魔法学園に行きたかったけど、父が入れてくれなかったのよね。
「身なりは貴族ですよ。使用人がこんな豪華な服装を持っているはずがない」
「スパイかもしれません」
ジャックとイアンの言葉にノアは私から手を離し、少しの間私を頭の先からつま先まで見つめた。
「そうだな……。丁度いい、お前も俺達の計画に混ざれ」
予想外のノアの言葉に全員が目を丸くして固まる。
え、それだと私が自分の暗殺計画を立てることになる。……やばくない!?
「それはちょっと……」と呟くと、ノアは軽く私を睨む。
「逆らうのか?」
「そんな極秘計画に私が混ざるのってまずくないですか?」
「賢明な判断ではないかと思われます」
私の言葉にイアンが乗っかる。助け船を出してくれているわけではないようだが、彼の援護に私も大きく頷く。
「女の意見も取り入れるべきだろ。それにその極秘計画をお前は知ってしまったんだ。もし断れば」
「命はない」
「物分かりが良いな」
私の言葉にノアはニヤッと悪魔のような笑みを浮かべる。
……結局殺される!
もう私死ぬしか道がないじゃない。
なんて横暴な王子なの。甘くて優しい要素が一ミリも感じられない。裏の顔が腹黒過ぎて、表の顔を一切想像出来ない。
……ってことは、演技うますぎない? 俳優志望なの?
「先にこの女の素性を知ってから」
「黙れ」
ノアはイアンに冷たい視線を向ける。その低い声に私は思わず体が硬直してしまった。
私は心の中で盛大なため息をつき、気力のない声で承諾した。
「分かりました。手伝います」
こうして、私は自分が暗殺される計画に参加することになったのだ。