49 心配と任務
ノアは私と目が合うと「なんだ?」と顔を顰める。
そんなに私に見られるのが嫌? ……クロエちゃん、可哀想。
「……怒っていた理由って私が洋室を壊したかもしれないって思っていたからですか? 問題おこしたなこいつって思ったからですか?」
私は無愛想にノアに向かってそう言い放つ。
王子に向かっていちいち媚を売っていられない。……いや、でも、媚び売らないと私は殺されるかもしれないんだよね。
やっぱり、媚を売っておこう。
私は急いで、へへっと愛想笑いを浮かべる。
いきなり笑みを浮かべた私を気色悪いと思ったのかノアとイアンとジャックの表情が同時に歪んだ。
……そんなに私の笑顔って酷い?
私の様子にノアは小さくため息をつき、話し始めた。
「別にお前に怒っていたわけじゃねえよ。……とにかく、生きていて良かった」
貴方にそれを言われてもねぇ、と心の中で思わず呟いてしまう。
私はあんたに殺されるんだよ。その計画を毎晩必死に一緒に考えている私もどうかと思うけど……。
「空耳ですか?」
首を傾げる私に「あ?」とノアは更に眉間に皺を寄せる。
ああ、カッコいい顔が台無し! ……にもならないんだよね。美形は何をしても美形。私が外の世界に出て学んだことそのいち。
「ノア様が私を心配してくださっているなんて、聞き間違いかと思ったので……」
「お前がいなくなったら、計画が潰れるだろ。誰がクロエ・リベラの情報を探ってくるんだよ」
「あ! そうだった!」
思わず声に出してしまった。
今日の教室崩壊事件が強烈過ぎて、自分がリベラ家の使用人として派遣されていたことをすっかり失念していた。
……てか、やっぱり別に私のことを心配してくれているわけじゃなかったんだ。私よりクロエ・リベラ暗殺計画の方が優先順位高いもんね。
「忘れてたのか」
鋭い視線を横から感じるが、私は決してイアンの方を見ない。
誰も私自身のことを心配してくれないし、その上怒られそうになるし……。こうなったら、開き直ってやる!
「あんな爆発あったんですよ? 自分の任務の一つや二つは忘れます」
「お前の任務は一つしかないだろ」
ノアの即答にぐうの音も出ない。
「……今日、屋敷に戻ったらちゃんとクロエのことを調べます」
私は反省している素振りを見せる。
今、彼らの頼みの綱は私だけなんだからね。もっと敬意を示してほしいわ。
私がクロエの情報を取ってこない限りはこの作戦会議は進展しない。
「もし、何も情報を掴めなかったら明日学園に来るなよ」
「ほえ?」
「なんだその返事は」
ノアではなくイアンに突っ込まれる。
いや、だって……、学校に来るな、なんて言われると思わないじゃない。驚きのあまり変な返答にもなるわよ。
「クロエ・リベラの情報を掴めるまでお前はあの屋敷から出るな」
オ・ウ・ボ・ウ・オ・ウ・ジ!!
私の全細胞がそう叫んでいる。
ここでノアに逆らうわけにはいかず、私は「分かりました」とだけ答える。
どうしよう。何も良い情報が手に入らなかったら、…………いや、でも私クロエだよ?
何を心配することがあるのよ。私の情報ぐらいとっくに私は掴んでいる。




