48 ノアの怒り
「こんばんは~」
私の脱力した声が会議室に響き渡る。
こんな腑抜けた声をわざわざ反響させてくれてありがとう、会議室。
皮肉を心の中で呟きながら、ノア達が座っている場所へと足を進める。
日が暮れた後に王宮に出入りしている自分に随分と慣れてきた。未だにあの不気味な裏門は気味悪く思うけど。
神秘的に見えるように、蛍でも飛ばしてくれないかな。
……てか、私、なんか睨まれてない?
ノアに物凄い形相で見られていることに気付き、私は彼を目を合わせながら首を傾げた。
そんなに眉間に皺寄せても美形はやっぱり美形のままだ。羨ましい。
私、何か怒らせるようなことしたかな。学園でノアの邪魔になるようなことはしてない。カレンにもまだ絡んでないし……。
「どうしたの?」
思わず軽い口調で話しかけてしまった。ノアは私を睨んだまま口を開いた。
「あの教室で何があった?」
あまりにも単刀直入に聞かれたから、私は思わずその場に固まってしまった。
……なんて言えばいいんだろう!
折角、学園長が隠蔽してくれたのに、わざわざ私が本当のことを話す必要もない。
私の魔力が暴走したんですよ~とか口が裂けても言えない! ただでさえノアは火の魔法嫌いなのに!
学園長は一体あの事件をなんて言って片付けたんだろう……。カイが大暴れしたとか? 彼なら暴れてても不思議じゃない。
黙っている私に対してイアンが質問する。
「学園長はマシュー先生とカイの魔法が衝突したと言っていたが、本当か?」
想像していなかった言葉に「え」と声が出てしまった。
「違うのか?」
訝し気に私を見つめるイアンに対して、反射的に首を横に振った。
「そういうことです! 大変だったんですよ、ほら、カイ様って気性が荒いから! 二人でバチバチになっちゃって。マシュー先生のふわふわの髪の毛は熱を帯びて逆毛になるし、教室は呆気なく崩れていくし!」
いつもに増してよくしゃべるな、私。
饒舌な私に対してノアとイアン、ジャックは黙り込んでいる。
なにこの空気、気まずッ!
逆に怪しまれちゃったかな? やっぱり私って女優向いてないのかもしれない。
「マシュー先生とカイで魔法壁を破るような力が生まれたってことになるな。それに、いくらカイが問題児だからって今までこんな事件は一度もなかったけどな」
鋭い指摘は求めてないから、イアン。
いきなりシャーロックホームズにならないで。
「ほら、私が突然編入してきたから気が動転したんじゃないですか?」
寝言は寝て言え、みたいな表情をイアンに向けられる。
良いじゃない、ちょっとぐらい自惚れても! 別に私ってそこまで不細工じゃないんだし!
むしろ、顔は社交界で絶世の美女として存在した「氷の薔薇」って呼ばれた母似なんだから。薔薇はそのまま美しいって意味でとらえることが出来るけれど、氷の方は態度が冷たいって意味なのよね。火の属性に付けるには皮肉っている。
それに、実際の母は冷たいって性格から程遠い。ただ社交界ではただ誰にも興味を示さず八方美人にはなれなかったタイプ。
……かつての敵国エアハーズ国から嫁いで来たんだから気を張っていて当然っちゃ当然かも。
それに八方美人は苦労していることをノアを見ていて学んだ。
私はノアの方へとゆっくり視線を向ける。




