44 隠しごと
「一つだけお聞きしてもいいですか?」
「なんだ?」と、小さく父は首を傾げる。
「私、幼い頃に魔力が暴走したりするなんてことありました?」
私の言葉に父は眉間に皺を寄せながら、黙り込んだ。
何か隠していることがすぐに分かった。……私のあの記憶はやっぱり本当にあった出来事なんだ。
けど、幼少期に男の子と仲が良かったなんて全く覚えていない。……あんな綺麗な金髪の持ち主なんて、ノアぐらいしか思いつかない。
夢の中の男の子はノアと正反対の性格だし……。
一体誰なんだろう。幼いながらに真剣だったあの約束も、燃え上がっていたあの小屋も、全部が謎に包まれている。
父は何も私に伝えるつもりがないのだろう。全く喋らなくなった。
私のことなのに、秘密にされるのは癪に障る。……父にとっては、私を守るためなのだろうけど。
どれだけ私が懇願しても、「今」は父の口から真実が語られることはないだろう。
「答えなくていいですよ」
私がそう言うと、父はあからさまにホッとした表情を浮かべた。
「いずれ分かることだし」と、私は付け足した。
父の表情は少し曇ったが「ああ」と低い声で頷いた。
自分の記憶が誰かによって消されている、なんてことは今まで考えたことなかったけれど、今ならあり得るって思えてしまう。
だって、私、暗殺される身だもの。絶対何かやらかしたに決まっている。
家に籠っていただけなのに、クロエ・リベラが暗殺対象となるなんて異常現象よ! なんでこんなに狙われてるのよ、私!
過去に私は何をしでかしたのか調べなければならない。
「……お前の魔力が並外れたものであることは自覚しているな?」
父は心配そうな目で私を見つめる。
「数時間前に自覚しました」
「とにかく、安易に魔力を放出させるな」
いつもと違って厳しい口調。それほど、私の魔力が危険なものだということだろう。
魔力コントロールがいかに大事かを今回身をもって学んだし、これから気を付けていこう。せめて、カイの丸焼きなんてことにならないようにしないと。
マシュー先生がいなければ、本当に危なかった。
「魔法学園で魔力を放出させないって、無理ないですか?」
「一気に全力で魔力を放出させるな、という意味だ。きちんと自分の魔力を上手く扱えるようになれ。じゃないと、死人が出るぞ」
「気を付けます」
私は父の圧に少ししゅんとしながら答えた。
魔法で誰かを殺しちゃいけない。これは私達が最も重要視しなければならない掟だろう。
……魔法を使って殺すのはアウトなのに、魔法を使わなくて暗殺するのはセーフなの?
どうせなら、魔法で痛みを取ってもらって、優しく殺される方が良い。そっちの方が殺される相手にとっても幸せだ。
それなのに、ノア達の計画は殺される相手の痛みを少しも考えていない。
それじゃあ、ただの暗殺じゃない! …………暗殺だからそれでいいのか。
はぁ、と盛大なため息をつく。
もしかしたら、私の力不足で本当に殺されるかもしれない。死ぬことを考えて、お洒落な殺し方について考えておこう。
新しい課題がまた一つ増えた。
「元気がないが、大丈夫か?」
「大丈夫だと、……思いたい」
思うと思いたいだと随分と言葉のニュアンスが変わってくる。
私は心の底から、自分は死なない絶対生き残ってやる、とひたすら呟いていた。




