39 四年生カイ
私、第一王子に気に入られつつあるの?
昨日のジャックの言葉が頭から離れない。私はジャックの言葉を考えながら学園に行く馬車に揺られる。
母にエアハーズ国のことを聞きたかったが、朝からそんな余裕はなく急いで家を出た。
今まで毎日いつまで寝ていても良かったけれど、学校が始まることによって規則正しい生活を送れるようになる気がする。
あのぐうたら生活とはおさらばね。
…………もし、ノアに気に入られたら殺されなくて済む!?
そんな考えが頭の中によぎる。
いや、でもメイって嘘をついて騙しているから結構まずいか。
ガタンッと馬車が止まり、魔法学園に着いたことが分かる。
私は心を躍らせながら校舎へと向かう。魔法の授業を受けれることが楽しみだ。
鋭い視線があちこちから感じたが、ちっとも気にならない。
昨日メイソンを脅したっていう噂が流れたのと、ノアに絡まれたやっかみから私は白い目で見られている。
友達が欲しいと思ったけれど、こればかりは仕方がない。それにいちいち彼らに構っていられないもの。
火の魔法の先輩と親しく出来ればいいけれど……。
校舎の中に入り、火の魔法の教室へと向かう。私が歩いていく方向にほとんど生徒はいない。いかに火の属性がいないかが分かる。
教室の前に立ちながら、私は思わず顔を引きつってしまう。
これ、扉腐っているわよね?
開けた瞬間、壊れてしまいそうだ。どうすべきか悩んでいると、後ろから「どけ」と男性の声が聞こえた。
振り返ると、想像していたよりもかなり身長の低い男子生徒が立っていた。小柄で髪はサラサラとしている黒髪で可愛らしい顔をしているのに、謙虚さや優しさなどは一切感じない。クリッとした瞳も、鋭い目に変わっており、声を掛けにくい。
……オラオラ系?
「聞こえなかったのか? 邪魔だ」
私を少し見上げるようにして睨む。関わりたくない、と強く思いながら私は横にずれる。
それを確認した瞬間、彼は思い切り右足を上げて扉を蹴飛ばした。見事な脚力で、教室の奥へと扉が吹っ飛んでいく。
「これって引き戸じゃないんだ~!」
「そんなわけないでしょう」
私の言葉にいつの間にか横に立っていたマシュー先生が速攻で突っ込む。マシュー先生は大きなため息をつき、教室の中へと入っていく。
私も少し遅れて教室へと入る。私が来ることが分かっていたのか、男子生徒の隣に少し間隔を空けて、私の新しい席が用意されていた。
教室に二つの机だけしかないってなんだか寂しいわね。
あの扉からは想像出来ないくらい教室の中は綺麗にされており、整理整頓された部屋だった。
……あの崩壊しかけた扉は全部一人の生徒によって蹴られたせいなのか。
私は少し戸惑いながらも、メイソンが言っていた四年生の方だと思われる男子生徒の隣に座る。マシュー先生は教卓に教科書を置いて、呆れたように言葉を発する。
「カイ君、扉は蹴らないって何度言えば分かるんですか」
「うるせえよ、もじゃもじゃ」
「もじゃもじゃではありません! いつになったら先生を敬う心を持つことが出来るんですか」
「そんな気持ち一生持たねえよ」
カイ君、態度悪ッ。先生泣いちゃうわよ。
私は少し楽しみながら彼らのやり取りを見ている。こんなに悪態ついていても、ちゃんと学校に来ているところにどこか素直さを感じられる。
「可愛らしい二年の編入生が来たので面倒見てくださいね」
マシュー先生はどこか気を取り直したようにそう言った。
急に私に話を振らないでよ、マシュー先生。




